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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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154/173

第154話:おいチビ

 城で使われることになった。


 兵として置くと言われた割に、やらされているのは薪と水と荷運びだ。


 まあ、飯が出るなら文句はないが。


     *


 廊下の先で、派手な音がした。


 行ってみると、子供が一人、突っ立っていた。足元に壺だったものが散らばっている。


 細い。俺の肩くらいまでしかない。袖が擦れていて、裾に埃がついている。どこかの使い走りだろう。


「おい」


 振り向いた。


「おいチビ。お前がやったのか」


「あ、はい」


「見てたやつは」


「え」


「誰か見てたか、って聞いてんだよ」


「いえ、たぶん、誰も」


「なら行け。俺が知らん顔しといてやる」


 チビは、動かなかった。


「あの、でも、私が割ってしまったので」


「だから何だ」


「言いに行かないと」


 なんだこいつ。


「お前馬鹿か?言ったらどうなるか分かってんのか」


「怒られると思います」


「そりゃそうだ」


「でも、片づけないと、誰かが踏んでしまいます」


 俺は、少しのあいだ黙った。


 怒られるよりも他人が踏むことの心配とは、どんだけお人好しなんだ。


「貸せ。手ぇ切るぞ」


 俺はしゃがんで、破片を集め始めた。チビも一緒にしゃがんだので、肩を掴んで少し押しやった。


「お前は下がってろ。俺は手の皮が硬い」


     *


 後ろで足音がした。


「ディエゴ」


 声で誰か分かった。だが、知らない声でもあった。


     *


「離れろ」


     *


 振り返った。ヌーノだった。


「なんだよ。手伝えよ」


 答えない。


 目が動いていない。昨日、縄がきついかと聞いたやつと同じ顔のはずだ。同じ顔で、中身が違う。


     *


「手を、離せ」


     *


 声は大きくない。低いままだ。一歩も踏み出していない。


 それなのに、俺は手を離していた。考える前に離していた。


「あの」


 チビが、前に出た。


「この人は、悪くないです。私が壺を割ってしまって、この人は、片づけてくれていました」


 このチビ、俺を心配しやがった。


 するとヌーノが、膝をついた。


 なんだそれ、なんの冗談だよ。


 なんというか、戦場でも感じたことがないくらいの、嫌な予感がした。


「……ヌーノ」


「なんだ」


「このチビは、誰だ」


     *


「エリアス陛下だ」


     *


 おいチビ、と言った。馬鹿か、とも言った。肩を掴んで押しやった。


 選択肢は三つ。


 一 縛り首


 二 斬首


 三 火あぶり


 二と三でも、俺、死体野郎の仲間入りできるのかな。


「あの、頭を上げてください」


 ちっちゃい陛下は、ヌーノにそう言って、それから俺のほうを向いた。


「そういえば名前を聞いていませんでした。私はエリアスといいます」


 一瞬偽名を使おうとも思ったが、横にヌーノがいるので諦めた。


「ディエゴだ」


「ディエゴさん。助けてくれて、ありがとうございました」


 そう言うと、ちっちゃい陛下は壺の破片を両手に持ったまま立ち上がった。


「私、言いに行ってきますね。壺のこと」


 行ってしまった。


 止める間もなかった。


     *


 二人で、しばらく黙っていた。


「おい、ヌーノ」


「なんだ」


「さっきの目はなんだ」


「知らん」


「知らんことがあるか」


     *


「体が先に動いた」


     *


 ヌーノは、自分の手を見ていた。


「怖ぇよ」


「俺もだ」


 まだ廊下に破片が残っている。ちっちゃい陛下は両手に持てるぶんしか持っていかなかった。


「ヌーノ。ほら、拾え」


「俺がか」


「陛下がお割りになられた壺だぞ。有り難く拾え」


     *


「……お前が言うな」

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