第154話:おいチビ
城で使われることになった。
兵として置くと言われた割に、やらされているのは薪と水と荷運びだ。
まあ、飯が出るなら文句はないが。
*
廊下の先で、派手な音がした。
行ってみると、子供が一人、突っ立っていた。足元に壺だったものが散らばっている。
細い。俺の肩くらいまでしかない。袖が擦れていて、裾に埃がついている。どこかの使い走りだろう。
「おい」
振り向いた。
「おいチビ。お前がやったのか」
「あ、はい」
「見てたやつは」
「え」
「誰か見てたか、って聞いてんだよ」
「いえ、たぶん、誰も」
「なら行け。俺が知らん顔しといてやる」
チビは、動かなかった。
「あの、でも、私が割ってしまったので」
「だから何だ」
「言いに行かないと」
なんだこいつ。
「お前馬鹿か?言ったらどうなるか分かってんのか」
「怒られると思います」
「そりゃそうだ」
「でも、片づけないと、誰かが踏んでしまいます」
俺は、少しのあいだ黙った。
怒られるよりも他人が踏むことの心配とは、どんだけお人好しなんだ。
「貸せ。手ぇ切るぞ」
俺はしゃがんで、破片を集め始めた。チビも一緒にしゃがんだので、肩を掴んで少し押しやった。
「お前は下がってろ。俺は手の皮が硬い」
*
後ろで足音がした。
「ディエゴ」
声で誰か分かった。だが、知らない声でもあった。
*
「離れろ」
*
振り返った。ヌーノだった。
「なんだよ。手伝えよ」
答えない。
目が動いていない。昨日、縄がきついかと聞いたやつと同じ顔のはずだ。同じ顔で、中身が違う。
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「手を、離せ」
*
声は大きくない。低いままだ。一歩も踏み出していない。
それなのに、俺は手を離していた。考える前に離していた。
「あの」
チビが、前に出た。
「この人は、悪くないです。私が壺を割ってしまって、この人は、片づけてくれていました」
このチビ、俺を心配しやがった。
するとヌーノが、膝をついた。
なんだそれ、なんの冗談だよ。
なんというか、戦場でも感じたことがないくらいの、嫌な予感がした。
「……ヌーノ」
「なんだ」
「このチビは、誰だ」
*
「エリアス陛下だ」
*
おいチビ、と言った。馬鹿か、とも言った。肩を掴んで押しやった。
選択肢は三つ。
一 縛り首
二 斬首
三 火あぶり
二と三でも、俺、死体野郎の仲間入りできるのかな。
「あの、頭を上げてください」
ちっちゃい陛下は、ヌーノにそう言って、それから俺のほうを向いた。
「そういえば名前を聞いていませんでした。私はエリアスといいます」
一瞬偽名を使おうとも思ったが、横にヌーノがいるので諦めた。
「ディエゴだ」
「ディエゴさん。助けてくれて、ありがとうございました」
そう言うと、ちっちゃい陛下は壺の破片を両手に持ったまま立ち上がった。
「私、言いに行ってきますね。壺のこと」
行ってしまった。
止める間もなかった。
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二人で、しばらく黙っていた。
「おい、ヌーノ」
「なんだ」
「さっきの目はなんだ」
「知らん」
「知らんことがあるか」
*
「体が先に動いた」
*
ヌーノは、自分の手を見ていた。
「怖ぇよ」
「俺もだ」
まだ廊下に破片が残っている。ちっちゃい陛下は両手に持てるぶんしか持っていかなかった。
「ヌーノ。ほら、拾え」
「俺がか」
「陛下がお割りになられた壺だぞ。有り難く拾え」
*
「……お前が言うな」




