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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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153/173

第153話:ほどではない

 王の間では、半刻ほど経過していた。


 伏せていた頃は四半刻で膝が笑ったが、いまは笑わない。


 カルロス陛下は玉座に座っておられる。王女殿下がその脇に立たれ、俺は段の下だ。息子は後ろの列にいる。


 陛下も、俺も、息をしていない。誰も、そのことを口にしない。


 息子だけが、朝から機嫌がいい。俺が戻ったのが嬉しいだけだ。


 この間で、それだけの理由で嬉しい者は、あれ一人だろう。


     *


 ゴンサロが通された。


 縄はない。鎧もない。上衣だけだった。


 去年の夏に俺の腿を割ったのは、この男の隊だ。


 段の下で、片膝をついた。


 つき方を見た。背は伸びたままで、頭は下がっていない。あれは降る膝ではない。


「セフォー王国に、敵対せぬことを誓います。以後、私はこの国に刃を向けませぬ」


 そこで一度、切った。


     *


「ただし、臣下にはなれませぬ」


     *


「私はドラントの将にございます。将が主を替えれば、国の負けにつながります」


 言葉に迷いはなかった。


「ドラントは敗れておりませぬ。負けたのは、私にございます」


 王女殿下が、口を開かれた。


「求めておりません」


 殿下はそれだけを仰った。


 求めれば、あの二百四十名の命が安くなる。それが分かっておられるのだと思った。


     *


「一つ、申し上げたい儀がございます」


「申せ」


 カルロス陛下の声だ。短くて強い。本当にお変わりになられた。


「私の、そして兵の使い道にございます。この剣をドラントには向けられませぬが、ガーレンは別です」


 ファティマ殿下が静かに頷いた。


「ガーレンは剣を抜かず、旗だけを替えさせる国にございます。此度は貴国の動きにより退きましたが、諦めたとは思えませぬ」


 ドゥエとソルのことを思い出した。


 あの二つの館とは、俺は剣で当たったことがない。当たる前に旗が替わっていた。


 その決断が正しかったのかどうかを、教える必要がある。


     *


 カルロス陛下が、少し身を乗り出された。


「ゴンサロ」


「はっ」


「お前は、負けた将だな」


「仰せのとおりにございます」


「負けた将が、次の戦の話をしておるのか」


「はい」


 カルロス陛下は、笑われた。


「よい。使わせてもらおう」


 一年前のこの方なら、決められなかった。


     *


 話が済んだ頃に、エリアス陛下が入ってこられた。


 将軍の肩が動いた。身構えたのだ。


 死人を起こす王。何を言われるか分からないと思っているのだろう。


「はじめまして。エリアスです。ゴンサロさん、ですよね」


「……いかにも」


「あの、お怪我はありませんでしたか」


「……ありません」


「よかったです」


 それだけ言って、行ってしまわれた。


 俺も、あれをやられた。


 寝台で、痛いですか、と聞かれた。二百四十日の間、誰にも言わなかった言葉が自然と口から出た。


 不思議な御方よ。


     *


 表情を崩した俺を見て、ゴンサロがこちらに来た。


「エイブラム」


「うむ」


「丘のあいだで、目が合ったな」


「合った」


「なぜ、何も言わなかった」


「戦の最中だ」


「それもそうだな」


 ゴンサロは、少し笑った。笑ったあと、こちらを見て言った。


「一つ、聞く」


「かまわん」


     *


「お前は、いま、何だ」


     *


「ロロア領主であり、カルロス陛下の臣」


 次の言葉に迷いはなかった。


「俺は神と共にある」


 ゴンサロは俺から目を離さなかった。


「腿は」


「痛い」


「治らんのか」


「治らん」


「そうか」


     *


「俺の兵が残ったのは聞いているな」


「うむ」


「どうなる」


「生きているあいだは、生きている者として扱われる」


「死んだら」


「そのときは、俺と同じだ」


 ゴンサロは少し考えたあとでこう言った。


「それならば、悪くはないな」


     *


 王の間を出た。


 廊下にヴォルフ殿がいた。壁に背を預けて立っている。


「エイブラム」


「うむ」


「あんたらの王女様はお人好しだな」


「言葉を選べ」


「捕虜を全部返そうとした。ゴンサロの罪も咎めん。おまけにドラントには使わんと誓った」


「そうだ」


「戦のたびにやっていたら、国が保たんぞ」


 次の言葉にも迷いはなかった。


     *


「なに、エリアス陛下ほどではない」

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