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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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152/173

第152話:一緒に帰りたい

 昼前に、王女が来た。


 供は少ない。士官が一人と、書き役が一人。あとは死体野郎どもが遠巻きに立っているだけだ。


 噂の王女将軍を、俺は初めて間近で見た。思ったより若い。そして、思ったより疲れた顔をしていた。


「ドラント兵の皆さまに申し上げます」


 声が通る。張り上げてはいない。人前で喋り慣れている声だ。


     *


「皆さまを、お帰しします」


     *


 しばらく、誰も声を出さなかった。言葉の意味を頭が受け取るのに、時間がかかったんだと思う。


 それから、あちこちで声が上がった。泣いてるやつまでいる。


 俺は喜べなかった。喜べない理由を、うまく説明できる気もしなかった。


「境までの食い物をお渡しします。武具はお返しできません」


 あの剣、気に入ってたんだがなぁ、なんてことを思いながら聞いていた。


「日が暮れる前に発っていただきます」


 班長だった男が、囲みのほうを顎で示した。


「あいつらは」


「あの者たちは、帰せません」


 王女は、言い方を柔らかくしなかった。そこは有り難かったと思う。


 班長は、しばらく黙っていた。それから、もう一つ聞いた。


     *


「ゴンサロ将軍は、どうなりますか」


「ゴンサロ将軍には、留まっていただきます」


     *


 さっきまでの声が、消えた。


 誰も歩き出さない。食い物を受け取りに行く者もいない。


 俺たちは帰れるが、将軍は残る。


 そういうことか。


     *


「将軍と行動を共にします」


     *


 班長が言った。言ってから、他の連中を見た。誰も反対しなかった。


 王女は、返答に困っていた。


「将軍ご自身が、皆さまをお帰しするようにと望まれました」


「はい、恐らくそうでしょう」


「では」


「だから、余計に帰れんのです」


 大勢が頷いてた。


     *


 ここで俺は、口を挟むことにした。しんみりした空気が、どうにも据わりが悪かったからだ。


「王女様」


「はい」


「ここに残るの、言うほど悪くないかもしれませんぜ。なにしろ、こいつらもいるわけですし」


 俺は、ヌーノのほうを指さした。


 ヌーノは、こっちを見て、それから外を向いた。


「違いない」


 誰かが言って、笑った。あちこちで笑いが出た。


 王女は困っていた。助け舟を出したんだから笑ってほしかったんだけどな。


     *


 そのとき、士官たちの後ろから人が出てきた。


 いたのか、と思った。


 鎧はない。上衣だけだ。縄は打たれていない。ずっとそこに立って、全部聞いていたことになる。


     *


「帰れ」


     *


 ゴンサロ将軍の声は、戦場で聞いたときと同じだった。


「諸君らを率いてきたのは私だ。力及ばず敗れ、諸君らに今の状況を強いたのも私だ」


「将軍」


「落度の始末を、諸君らに手伝わせるわけにはいかん。命令だ。帰れ」


 誰も動かなかった。


 将軍がもう一度言おうとするのを、班長が遮った。


     *


「俺達は、将軍と一緒に帰りたいんですよ」


     *


 将軍は、何も言わなかった。


 下を向いて肩を震わせている。班長も、他の連中もそうだ。


 俺は、まぁ、わかるだろ。


 やがて、王女が口を開いた。


     *


「ゴンサロ将軍を解放することはできませんが、あなたたちを、ドラントとの戦いに出さぬことを約束します」


     *


 将軍が、王女に向かって頭を下げた。


 黙ってその背中を見ていた。


 俺たちのために頭を下げてくれたこの姿を、俺は一生忘れない。

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