第150話:交代
*ディエゴとヌーノのイメージイラストを後書きに追加しました。
縄は、手首の前で結ばれていた。
後ろ手ではない。飯を食わせるつもりがあるということだ。
*
俺たちは、陣の隅にまとめて座らされていた。
鎧は脱がされた。剣も、胴当ても、靴の紐まで取られた。紐は首を括るのに使えると、昔どこかで聞いたことがある。
風は北から来ていた。昨日と同じ向きだ。
*
見張りは、外を向いて立っていた。
こちらを見ていない。逃げる者が出たら追えばいい、という立ち方だ。
俺は、そいつらを見ていた。
兵の見張りには、替えが要る。
人は立っていると眠くなる。眠くなると座る。座れば寝る。だから半刻か、長くても一刻で替える。俺もやってきた。
替えが来ないなら、そいつは寝る。寝たところで抜ける。
朝まで待った。
*
誰も替わらなかった。誰も座らなかった。足を組み替えた者も、いなかった。
*
「ディエゴ」
隣の男が、小さい声で呼んだ。
「なんだ」
「どう思う」
「そんなのありかよ、ってのが本音だ」
それきり、二人とも黙った。
*
朝早く、陣を出ていく一行を見た。
多くはない。馬が何頭かと、歩いている者が少し。白い上着も混じっていた。あれは司祭か?
どこへ行くのかなんて、俺が知りようもない。
*
喋るなとは言われていなかったので、流石に小声だが、仲間同士の会話が続いていた。
「呪いだ」
「あれは人じゃない!」
「いや、人だった。俺は顔を見たぞ」
三人とも、昨日、同じものを見ている。同じものを見て、別のことを言っている。
別の一人がぼそりと言った。
「俺たちも、ああなるのかな」
誰も答えられなかった。
*
日が傾いてから、北のほうに土煙が上がった。
戻ってきたのだ。
けどおかしい。人数がまるで違う。
朝に出ていったのは、あんな大勢ではなかった。
*
列が、続いていた。
俺は、鎧より先に、歩き方で分かった。
右の肩が下がる男がいる。荷を担ぐとき右へ寄せる癖で、行軍のたびに笑われていた。
その男が、列の中ほどを歩いていた。
ヌーノだ。
あの細くなったクソみたいな道で、俺より前にいた。そして、俺の目の前で死んだ。
*
列は陣の中へ入っていき、そのうちの何人かが、こちらへ回された。
見張りに、ヌーノが立った。
「ヌーノ」
思わず声が出た。
ヌーノはこちらを向いた。
「ディエゴか」
「ああ」
「縄、きついか」
「きつくない」
「そうか」
いつもの声だった。低くて、少し掠れている。掠れているのは昔からだ。
「お前、それ、痛むのか」
「これか?ああ、痛む」
ヌーノは、腹のあたりに手をやった。
「けど痛むだけだ。動くぞ」
こうして普通に会話していることが笑えてきた。夢でももうちょっとマシな内容になるはずだ。
「痛むなら休めよ。次の交代はいつだ」
それとなくカマをかけてみた。
「交代なんてしないぞ」
*
ヌーノは、外のほうへ向き直った。
セフォーの人使いは荒いらしい。




