第149話:そうであろうな
大勝利と言える結果になりました。
ドラント軍の損害は甚大で、八百のうち七割が失われました。残りはすべて捕虜となっています。
起き上がった者たちは、一人も欠けていません。腕を落とされた者が四人、手を落とされた者が九人。歩けなくなった者はいません。
生きている兵は、二百のうち十七人が戻りませんでした。
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その十七人は、戻りません。
ベルナール司祭が仰ったとおりです。
『今は』ですけれども。
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昼過ぎに、ゴンサロ将軍が縄を打たれて連れてこられました。
鎧は脱がせてあります。顔に泥がついたままでしたので、水を持ってこさせました。
同席させたのは、副官を一人だけです。
エイブラム殿とヴォルフ殿には、同席を控えていただきました。
ゴンサロ将軍の処遇はまだ決まっておりません。放つことになるかもしれません。放つのであれば、この目で見たもの以上を持って帰らせるわけにはまいりません。
エイブラム殿は、会わせろと仰いました。
なりません、とお答えしました。
あの方が何を仰るつもりだったのかは、伺っておりません。伺えば、断る理由が増えるだけですので。
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ゴンサロ将軍は、まっすぐ私の顔を見ていました。
「ファティマ王女殿下」
「ゴンサロ将軍」
「見事であった」
この方は、そこで頭を下げられました。縄のまま、きちんと下げられました。
「合流の日より前に釣り出され、細いところへ入れられ、後ろを取られた。三つとも、こちらの手筋を読んだうえでのものだ」
「恐れ入ります」
「読まれておると分かっていて入った。私の落度だ」
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言い訳を、一つもなさいません。
私は、この方に負けたことがあります。あのときも、こちらの手筋は読まれておりました。
「降伏の条件を、伺いましょうか」
「折角の申し出だが、降らぬ」
「では」
「虜囚とするがよかろう。首を打ってもらっても構わない。非才な身なれど、私は将だ。将が降れば国への影響は小さくない。ドラントが敗れたわけではないのでな」
「将軍のお命を取るようなことは考えておりません」
「兵は別だ。厚かましいお願いにはなるが、兵は解放していただきたい」
この方は、負けた形を、そのまま置いておこうとしておられます。
副官には、何も書かせませんでした。書かせるつもりで連れてきたのですが、始まってすぐにやめさせました。
将軍は水を飲んだ後に言いました。
「一つ、聞いてよいか」
「伺いましょう」
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「あれは、苦しむのか」
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私は、答えませんでした。
「答えられぬか」
「はい」
「では、もう一つ」
「どうぞ」
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「増えるのか」
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私は、水の椀を見ておりました。
「まぁ、そうであろうな」
将軍はそう言って、僅かに表情を崩しました。
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将軍はそれきり口を開くことなく、天幕を後にされました。
尋ねても答えが返らぬことを、初めから分かっておられたのだと思います。分かっていて、二つだけ置いていかれました。
置いていかれたものは、こちらが答えられぬということ自体が答え、と受け取ったかもしれません。
一つだけ、将軍は思い違いをしております。
私にも分からない、ということを。
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天幕に一人になったあと、私は名簿を出しました。
書き足すのは、いつも私です。
十七人の名を、私は知っています。
名を呼んでも、返事はありません。
ですが、すぐにまた声を聞くことができるでしょう。




