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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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第149話:そうであろうな

 大勝利と言える結果になりました。


 ドラント軍の損害は甚大で、八百のうち七割が失われました。残りはすべて捕虜となっています。


 起き上がった者たちは、一人も欠けていません。腕を落とされた者が四人、手を落とされた者が九人。歩けなくなった者はいません。


 生きている兵は、二百のうち十七人が戻りませんでした。


     *


 その十七人は、戻りません。


 ベルナール司祭が仰ったとおりです。


 『今は』ですけれども。


     *


 昼過ぎに、ゴンサロ将軍が縄を打たれて連れてこられました。


 鎧は脱がせてあります。顔に泥がついたままでしたので、水を持ってこさせました。


 同席させたのは、副官を一人だけです。


 エイブラム殿とヴォルフ殿には、同席を控えていただきました。


 ゴンサロ将軍の処遇はまだ決まっておりません。放つことになるかもしれません。放つのであれば、この目で見たもの以上を持って帰らせるわけにはまいりません。


 エイブラム殿は、会わせろと仰いました。


 なりません、とお答えしました。


 あの方が何を仰るつもりだったのかは、伺っておりません。伺えば、断る理由が増えるだけですので。


     *


 ゴンサロ将軍は、まっすぐ私の顔を見ていました。


「ファティマ王女殿下」


「ゴンサロ将軍」


「見事であった」


 この方は、そこで頭を下げられました。縄のまま、きちんと下げられました。


「合流の日より前に釣り出され、細いところへ入れられ、後ろを取られた。三つとも、こちらの手筋を読んだうえでのものだ」


「恐れ入ります」


「読まれておると分かっていて入った。私の落度だ」


     *


 言い訳を、一つもなさいません。


 私は、この方に負けたことがあります。あのときも、こちらの手筋は読まれておりました。


「降伏の条件を、伺いましょうか」


「折角の申し出だが、降らぬ」


「では」


「虜囚とするがよかろう。首を打ってもらっても構わない。非才な身なれど、私は将だ。将が降れば国への影響は小さくない。ドラントが敗れたわけではないのでな」


「将軍のお命を取るようなことは考えておりません」


「兵は別だ。厚かましいお願いにはなるが、兵は解放していただきたい」


 この方は、負けた形を、そのまま置いておこうとしておられます。


 副官には、何も書かせませんでした。書かせるつもりで連れてきたのですが、始まってすぐにやめさせました。


 将軍は水を飲んだ後に言いました。


「一つ、聞いてよいか」


「伺いましょう」


     *


「あれは、苦しむのか」


     *


 私は、答えませんでした。


「答えられぬか」


「はい」


「では、もう一つ」


「どうぞ」


     *


「増えるのか」


     *


 私は、水の椀を見ておりました。


「まぁ、そうであろうな」


 将軍はそう言って、僅かに表情を崩しました。


     *


 将軍はそれきり口を開くことなく、天幕を後にされました。


 尋ねても答えが返らぬことを、初めから分かっておられたのだと思います。分かっていて、二つだけ置いていかれました。


 置いていかれたものは、こちらが答えられぬということ自体が答え、と受け取ったかもしれません。


 一つだけ、将軍は思い違いをしております。


 私にも分からない、ということを。


     *


 天幕に一人になったあと、私は名簿を出しました。


 書き足すのは、いつも私です。


 十七人の名を、私は知っています。


 名を呼んでも、返事はありません。


 ですが、すぐにまた声を聞くことができるでしょう。

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