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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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148/173

第148話:馬鹿な話

 前列の兵が、敵兵の腹を刺した。


 敵兵は倒れて、それから起き上がった。立ち方に迷いがない。腹を押さえもしない。


 もう一度、別の兵に突かれた。同じように倒れて、同じように起きた。


     *


 骸骨が人を襲うのだと思っていた。腐った肉が歩くのだと思っていた。


 そうではない。


 人だ。


 顔があり、目が動き、こちらを見る。汗をかいていないだけだ。


 私は様々な戦場で剣を振るってきた。人が死ぬところを見てきた。死んだ者が起きぬことも、同じだけ見てきた。


 こんな馬鹿な話があるか。


「幅を取れ!」


 命じたが、困難なことは分かっていた。


 左は斜面、右は沢だ。登れず、下れば戻れない。


 この道を選んだのは、私だ。


 だが、大声で叫びたかった。


 死なぬ兵など想定できるか、と。


     *


 伝令を出した。


「下がらせろ!」


「下がれませぬ!後ろが詰まっております!」


 当然だ。八百のうち六百が、後ろで前の空くのを待っている。


 待っている者は、下がれと言われても、下がる先がない。


 私は前へ出た。二列目まで押し上げて、前を見た。


     *


 敵の鎧が目に入った。


 我がドラントの意匠だ。肩の留め具の形が特別で、あれを打たせているのは王都三軒の鍛冶屋だけである。


 一つではない。数えて、十を越えたところでやめた。


 裏切りか。いや、違う。


 兵の顔に見覚えがあった。一兵卒だが、生まれた土地が私と近いこともあり、少しだけ言葉を交わしたやつだ。


 やつは、先の戦で、死んだ。


 列の中ほどに、エイブラムがいた。右の腿には包帯が巻かれているが、まるで傷など無いかのごとく動いている。


 重傷という話は擬態か。それも違うだろう。


     *


 そうか、エイブラム。


 お前は、そちら側になったのだな。


     *


 目が合ったが、あの男は何の反応もしなかった。声も上げず、指もささず、次々と我が兵を屠っていった。


 以前と何ら変わらぬ、恐るべき豪力を存分に振るっていた。


     *


 ほぼ同時に、我が軍の後方が乱れた。鬨はない。


 伝令が転がるように、知らせに来た。


「後方に、敵!丘の裏より!」


「数は」


「三百ほど!」


 火を焚かず、夜通し歩いて回り込んだということか。


     *


 後ろの六百が混乱しているのは明らかだった。


 振り返れば、前は押せぬ。押さねば、前の列は休む。休まぬ相手に、こちらだけが休みを与えることになる。


 前と後ろが、同じ刻に詰まった。


 私は、南へ抜ける決断をした。


 細いところを通り切れば、開ける。開けたところで並べば、八百は八百に戻る。


「先頭を、押し通させろ」


 半刻して、返ってきた。


     *


「南の口は、塞がっております!」


     *


 三隊に分けたのか。北にエイブラム。丘の裏にあの三百。そして口に、残りの全部。


 昨日、私は言った。八百のうち、まだ六百が手をつけていない、と。


 その六百は、いま、どこへも向かえぬまま、切り取られようとしている。

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