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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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第147話:押している

*ゴンサロのイメージイラストを後書きに追加しました。

「ゴンサロ将軍閣下。ガーレン王国の使いより、軍の合流は六日後との報告がございました」


 副官に、承知した、と返事をして下がらせる。


 六日が、私には長すぎた。


     *


 ガーレンは、金で国を取る。剣を抜かずに館の旗を替えさせ、替わった数だけ分け前を寄越せと言う。


 我らドラント王国との二国連合で攻め落としたとしても、戦果次第では後の始末をあちらに握られる懸念がある。


 王女の輿入れも、条約の文言も、銀を出した量で決められてはかなわん。


 我が国が二十年削り続けた境が、最後の三日で買われていくことは避けなければならない。


     *


 少し前に、南から報せが来た。ガーレンの本隊が、動きを止めたという。


 どうやらセフォー王国からの使者が動き回っているようだ、文を持っていなかったと聞いた。


 文を持たぬ使者。恐らくは『考えさせるため』であろう。


 本隊の動きが止まったということは、ガーレンが考えたという証拠に他ならない。


 六日を待つ理由が一つ減った、と思った。


     *


 翌日の朝、斥候が戻った。


 北の街道に、ロロアの旗。数はおよそ三百。


「ロロアの旗だと」


「はい。斥候はそう申しております」


「エイブラムは」


「旗の下にいるようです」


     *


 私は、すぐには信じなかった。


 あの男の腿を割ったのは、去年の夏だ。割った者の名も、割った場所も分かっている。運ばれていくのを、丘の上から見た者が十人以上いる。


 一年、ロロアは動かなかった。それが答えのはずだった。


 副将が言った。


「罠にございましょうか」


「考えるまでもない。罠だ」


     *


 私は、地図を出させた。


 北の街道は、二里ほど行くと丘のあいだに入る。左が斜面、右が沢。横に広がれない。あそこへ引き込むつもりだろう。


「様子を見つつ合流をお待ちになりますか」


「否。行く」


「しかし」


「こちらは八百ある。広く展開できぬとしても半数では相手に当たれるだろう。三百に対してこちらは四百」


 再び地図に目をやった。


 止めることはできる。だか止めるには、死なねばならない。


 死兵覚悟であっても、人は死ねぬものだ。前が三列も倒れれば、四列目は下がる。下がれば、線は解ける。


 問題は、抜いた後の敵の動きだ。あの小娘の知恵は確かに厄介。


 ガーレンを使者で遅らせつつ、全軍を持って我が軍に相対するつもりだろうが、それを為せる武がセフォーにあるとは思えん。


 エイブラムも小娘も、国とともに滅ぶ覚悟を決めたか。


 愚かなことだ。生きてさえいれば雪辱の機会もあるだろうに。


「策と覚悟だけでは戦には勝てぬ。武を持ってそれを示すこととする」


 ガーレンが止まっている。


 裏を返せば、いま取れば我が国のものになる、ということだ。


     *


 昼に当たった。


 街道の口である。ロロアは前に出て、少し押し返し、それから退いた。


 退き方を、私は測った。


     *


 速すぎない。


     *


 崩れて逃げる者の退き方ではない。かといって、揃いすぎてもいない。押されて、耐えかねて、少しずつ下がる形である。


 誘っているのなら、上手い。誘っていないのなら、これは本当に押している。


 どちらであれ、いま止まる理由はなかった。止まれば、あれは丘の向こうへ抜ける。


 「押せ」


     *


 丘のあいだに入った。


 左が斜面で、右が沢である。地図のとおりだった。二列でしか入れない。後ろの者は、前が空くのを待つことになる。


 それも、地図のとおりである。


 押している。


 が、前が空かない。


 そういうこともある。細いところでは、しばらく詰まる。詰まれば、前の者が疲れる。


 疲れたところで、こちらは替えが利く。八百のうち、まだ六百が手をつけていない。


 替えて、また押した。


     *


 替えの利かぬのは、向こうのはずだった。


 半刻が過ぎて、伝令が来た。


「前が、減っておりませぬ」


「倒しておらぬのか」


「倒しております」


「では減っているであろうに」


「減りませぬ」


     *


 私は、前へ出た。


 隣国のヴィタリスで死人が起きる、という噂は耳にしていた。


 子供を怖がらせる類の話だろう。


 死者が起き上がり骸骨や腐肉が人を襲うのであれば、武を持って制するだけだ、と思っていた。


     *


 この目で、それを見るまでは。

ゴンサロ

挿絵(By みてみん)

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