第147話:押している
*ゴンサロのイメージイラストを後書きに追加しました。
「ゴンサロ将軍閣下。ガーレン王国の使いより、軍の合流は六日後との報告がございました」
副官に、承知した、と返事をして下がらせる。
六日が、私には長すぎた。
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ガーレンは、金で国を取る。剣を抜かずに館の旗を替えさせ、替わった数だけ分け前を寄越せと言う。
我らドラント王国との二国連合で攻め落としたとしても、戦果次第では後の始末をあちらに握られる懸念がある。
王女の輿入れも、条約の文言も、銀を出した量で決められてはかなわん。
我が国が二十年削り続けた境が、最後の三日で買われていくことは避けなければならない。
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少し前に、南から報せが来た。ガーレンの本隊が、動きを止めたという。
どうやらセフォー王国からの使者が動き回っているようだ、文を持っていなかったと聞いた。
文を持たぬ使者。恐らくは『考えさせるため』であろう。
本隊の動きが止まったということは、ガーレンが考えたという証拠に他ならない。
六日を待つ理由が一つ減った、と思った。
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翌日の朝、斥候が戻った。
北の街道に、ロロアの旗。数はおよそ三百。
「ロロアの旗だと」
「はい。斥候はそう申しております」
「エイブラムは」
「旗の下にいるようです」
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私は、すぐには信じなかった。
あの男の腿を割ったのは、去年の夏だ。割った者の名も、割った場所も分かっている。運ばれていくのを、丘の上から見た者が十人以上いる。
一年、ロロアは動かなかった。それが答えのはずだった。
副将が言った。
「罠にございましょうか」
「考えるまでもない。罠だ」
*
私は、地図を出させた。
北の街道は、二里ほど行くと丘のあいだに入る。左が斜面、右が沢。横に広がれない。あそこへ引き込むつもりだろう。
「様子を見つつ合流をお待ちになりますか」
「否。行く」
「しかし」
「こちらは八百ある。広く展開できぬとしても半数では相手に当たれるだろう。三百に対してこちらは四百」
再び地図に目をやった。
止めることはできる。だか止めるには、死なねばならない。
死兵覚悟であっても、人は死ねぬものだ。前が三列も倒れれば、四列目は下がる。下がれば、線は解ける。
問題は、抜いた後の敵の動きだ。あの小娘の知恵は確かに厄介。
ガーレンを使者で遅らせつつ、全軍を持って我が軍に相対するつもりだろうが、それを為せる武がセフォーにあるとは思えん。
エイブラムも小娘も、国とともに滅ぶ覚悟を決めたか。
愚かなことだ。生きてさえいれば雪辱の機会もあるだろうに。
「策と覚悟だけでは戦には勝てぬ。武を持ってそれを示すこととする」
ガーレンが止まっている。
裏を返せば、いま取れば我が国のものになる、ということだ。
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昼に当たった。
街道の口である。ロロアは前に出て、少し押し返し、それから退いた。
退き方を、私は測った。
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速すぎない。
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崩れて逃げる者の退き方ではない。かといって、揃いすぎてもいない。押されて、耐えかねて、少しずつ下がる形である。
誘っているのなら、上手い。誘っていないのなら、これは本当に押している。
どちらであれ、いま止まる理由はなかった。止まれば、あれは丘の向こうへ抜ける。
「押せ」
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丘のあいだに入った。
左が斜面で、右が沢である。地図のとおりだった。二列でしか入れない。後ろの者は、前が空くのを待つことになる。
それも、地図のとおりである。
押している。
が、前が空かない。
そういうこともある。細いところでは、しばらく詰まる。詰まれば、前の者が疲れる。
疲れたところで、こちらは替えが利く。八百のうち、まだ六百が手をつけていない。
替えて、また押した。
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替えの利かぬのは、向こうのはずだった。
半刻が過ぎて、伝令が来た。
「前が、減っておりませぬ」
「倒しておらぬのか」
「倒しております」
「では減っているであろうに」
「減りませぬ」
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私は、前へ出た。
隣国のヴィタリスで死人が起きる、という噂は耳にしていた。
子供を怖がらせる類の話だろう。
死者が起き上がり骸骨や腐肉が人を襲うのであれば、武を持って制するだけだ、と思っていた。
*
この目で、それを見るまでは。




