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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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146/173

第146話:今回は

 確かに、とヴォルフ殿も同意なさいました。


「あの手の者は、必ず食い付いてくるだろう」


 私は、絵を引きました。


 エイブラム殿が三百。うち二百五十を起き上がった者にして、北の街道へ出ます。当たったら退きます。押されて退くように、ゆっくり退きます。


 退いて、丘のあいだの細いところへ引き込みます。


 この土地を、私は歩いて知っています。


 三日前、負けて戻るときに通りました。荷車が三台、右へ落ちかけました。


 左が斜面で、右が沢です。乾いている月でも、馬は右へは寄りません。


「そこは、横に広がれません。二列でしか入れません」


「八百が、四百ずつになる」


「二列なら、前の者だけが戦えます」


 数の利は、並べる幅で決まります。


 並べられなければ、八百は八百のままでは働きません。後ろの六百は、前が空くのを待つだけになります。


「そこで止めます」


「止まるか」


「起き上がった者は、逃げないでしょうから」


     *


 そこで、言葉を切りました。


 止まる、と言い切るのは、逃げない者を置く、ということです。


 私は、それを言い直しませんでした。


 この策は、細いところに置いた者を、使い減らすことで成り立ちます。


 死にはしません。ただ、戻ってきたときには、行ったときと同じ形ではありません。


 二百五十人が、二日で何人ぶんの手足になるのかを、私は知りません。


     *


「止めているあいだに、ヴォルフ殿が横から入られます」


「どこからだ」


「丘の裏です。三百で足ります」


「回り込むのに、半日はかかる」


 ヴォルフ殿は、丘の絵を指でなぞられました。


「前の日の夜に出ていただきます。火は焚けません」


「焚かんでいい。寒くもない」


 私は、そこで気づきました。


 この隊は、夜通し歩いて、そのまま戦えます。生きた兵なら、着いた朝は使えません。半日は休ませます。


 その半日が、要らない。


     *


「入られたら、後ろの六百は振り返ります」


「振り返れば、細いところは押せん」


 その指が、細いところの後ろで止まりました。


「前と後ろが、同時に詰まります」


「挟むのだな」


「はい」


「悪くない。王女将軍などと呼ばれるのは名か実か、前者だと高を括っていたが。謝罪する」


「恐縮です」


 細いところで倒れる者は、こちらの兵だけではありません。


 向こうの倒れた者も、陛下があの地を歩かれれば、あとでこちらへ来ます。


 それを、はじめから勘定に入れてよいものか。


     *


 入れませんでした。


 今回は。


     *


 もう一つあります。ガーレンです。


 あの国は、武では来ません。金と縁で来ます。館を買い、旗を替えさせてきた国です。ドゥエもソルも、剣ではなく銀で落ちました。


 買う者は、値の下がったものを買いません。


「ドラントが崩れれば、ガーレンは退きます」


「戦わずにか」


「戦わずに、です。あの国は、勝ちそうな側にしか金を出しません」


 ヴォルフ殿は、南のほうを一度だけ見られました。


「では、南は放っておくのか」


「放ってはおきません。ただ、当てるのは兵ではないと思っております」


     *


 そこで、父が口を開かれました。


「ファティマ」


「はい」


 父が卓に口を出されるのは、座ってから初めてでした。


「ガーレンに、使いを出そう」


「なんと書かれますか」


     *


「何も書かぬ。出すだけでよい」


     *


 文を持たぬ使者が着けば、向こうは中身を考えます。


 こちらが何を寄越そうとしているのか。降伏か、和議か、あるいは離間か。考えているあいだは、動きません。


 この方がそういうことを思いつかれるのを、私は知りませんでした。


「もう一つある。わしも出る。前へ」


「なりません」


「そうか」


 父は、そこで引かれました。


 強き心を得たのは喜ばしいことではありますけれども。


     *


 三隊に分けました。エイブラム殿が北へ。私が細い道の口に。ヴォルフ殿が丘の裏へ。


 卓を畳むとき、父が仰いました。


「ファティマ」


「はい」


「あの二人は、似ておるな」


 私は、そう思ったことがありませんでした。思ってみると、そのとおりでした。


 言葉が短い。どちらも、要ることしか言いません。負けた話を、負けたままで話します。


「一つだけ、違います」


「言え」


 エイブラム殿とヴォルフ殿は、もう外に出ておられました。


「エイブラム殿は、ずっと同じ方にお仕えしました」


「うむ」


「ヴォルフ殿は、雇われた先を渡ってこられました」


 父は、少しのあいだ黙っておられました。


     *


「いまは、同じだな」


     *


 卓を畳んで、外へ出ました。


 起き上がった者たちが、まだ同じところに立っています。


 誰も、座っていませんでした。

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