第145話:合わせなければ
卓に地図を広げました。
父。エイブラム殿。ヴォルフ殿。そして私。
もう一人、ベルナール司祭に来ていただきました。伺いたいことが一つだけあったからです。
父は上座に座り、「ファティマに任せる」と一言だけ仰いました。それから、しばらく口を挟まれませんでした。
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数を並べます。
武の国ドラントが八百。金と縁の国ガーレンが四百。合わせて千二百。
こちらは、動ける生者が二百。起き上がった者が三百四十七。ヴォルフ殿の手勢が三百。合わせて八百五十。
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正面から当たるのは得策とは言えません。
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もう一つ、勘定の前に決めておかねばならないことがありました。
起き上がった者を、まとまった兵として動かしたことが、私にはありません。
この城の誰にもありません。四人が起き上がった夜から、まだ幾日も経っていないのです。
この卓で、それをやったことがあるのは一人だけでした。
「まず、そちらの兵の使い方を教えてください」
ヴォルフ殿は四ヶ月、境に立っておられたと聞いています。相手は、二十年勝てなかった国だとも。
「壁にはなる。槍にはならん」
「と、申しますと」
「崩れん。逃げん。疲れん。夜通し立たせても文句を言わん。飯も水も要らん」
私は、その四つを順に書き取りました。
「二日でも、三日でも、ですか」
「立たせるだけならな」
この方は、こちらの兵の数を一度もお尋ねになりません。
置き方と、日数だけを聞かれます。数は、置き方が決まってから数えるものだと思っておられるのだと思いました。
「だがな。傷は残る。腕を落とされても、そのまま片腕で戦う。二日目には数え直したほうがいい」
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「一つ、申し上げておくことがございます」
ベルナール司祭が、初めて口を開かれました。
「此度の戦場では、倒れた者は起き上がりませぬ。すでに起きている者を除いて」
「なぜでしょうか」
「エリアス陛下が、あの土地を歩いておられませぬ」
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歩く。
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「起きるのは、陛下が足を踏み入れられた土地の内側だけにございます。外では起きませぬ」
ベルナール司祭は、地図の上に手をかざされました。かざしただけで、どこも指されません。
「どこまでが内側かは、私にも測れませぬ。ゆえに、恐らくと申し上げました」
「では、生きている者は」
「死ねば、それきりにございます。後から陛下に足をお運びいただけば別ですが」
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司祭は、それだけ仰って、また黙られました。
この日、この方が口を開かれたのは、それきりでした。
減らないのではなく、減り方が違う。
私はそれを紙の端に書き留めました。数えられるのなら、勘定に入れられます。
二日で何がどれだけ減るのかは、まだ誰も知りません。知らないものは、少なめに見ておきます。
「では、押し込む役には向きませんね」
「向かん。押し込むのは、生きている者の仕事だ」
「生きている者は、二百しかおりません」
「押し込ませなければいい」
ヴォルフ殿は、地図の北と南を指で押さえられました。
「ドラントは北。ガーレンは南。合わせるつもりだろう」
「はい。街道の交わる、ここかと」
ヴォルフ殿の指が、そこで止まりました。
「日はいつだ」
「六日後と見ております。向こうの兵糧の運び方から、それより早くはできません」
「その手前で片方止めれば、二国連合は無くなる」
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「合わせなければ、八百と四百です」
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ドラントは、武で来る国です。
二十年、境を削られ続けました。館を落とすときも、必ず正面から入ります。エイブラム殿の腿傷も、ドラントとの戦いによるものです。
武で来る者は、策で釣れます。
「ドラントを、先に来させます。合流の日より前に」
「餌は」
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エイブラム殿が、手を挙げられました。
「俺が出る」
「エイブラム殿」
エイブラム殿は、私のほうを見られませんでした。父を見ておられました。
「向こうは、俺が去年の夏に腿をやられたのを知っている。担架で運ばれたのも見ているはずだ」
「一年、ロロアが動けなかったことも、向こうは数えているでしょう」
「そういうことだ」
死にかけの猛将が、少数で出てきた。
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「見えれば、食い付く」




