第144話:まだ足りない
怪我で置いてきてしまった人たちがいる、とファティマさんに相談をされた。
間に合うかもしれないなら行きましょう、と返事をした。
歩いて二日の距離だという。
ファティマさんが先頭で、ベルナールさんが私の横にいた。エイブラムさんとロランさんは後ろを見張ってくれていた。
ライアンさんは都でお留守番だった。
一人でも多くの人を助けたい。
そう思いながら早足で目的地を目指した。
*
着いたのは、広い野原のようなところだった。
至るところの草が踏み倒されて、たくさんの人たちがここを行き来したのが分かる。
そして、たくさん人が倒れていた。十や二十ではない。
近くの人から順に見て回ることにした。
たくさんの血を流した様子があって、誰も彼もが傷ついていた。
一人も動いていなかった。
「陛下。何卒、お力をお貸しください」
ファティマさんはとても悲しそうな顔をして言った。ベルナールさんも無言で頷いている。
私は近くで倒れている人に手を当てて、こう願った。
*
起きて。
*
すると、その人はゆっくりと起き上がった。きょろきょろと周りを見回している。
他の人たちも次々に起き上がってきた。
よかった、今回も間に合ったみたいだ。
少し時間がかかったけれども、野原に倒れていた人たちが全員起き上がった。
ファティマさんが一人ずつ、顔を見ながら人数を数えていた。
「陛下」
「はい、間に合いましたね」
「三百四十三名が起き上がりました」
私は、その数をうまく思い描けなかった。私はファティマさんに質問をした。
「知っている人は全員無事ですか」
「はい、二百五十七名、全員が起き上がっております」
「数が合わないということですか」
数を数えるのは苦手だけれども、そのくらいは分かる。
「八十六名が多いです。恐らくは相手方の兵士でしょう」
言われてみれば、鎧の形や刻んでる印がちょっと違う。
「もしかして、起こしたら駄目でしたか」
失敗をしてしまったのかと少し心配になった。でも倒れているなら、できれば皆助けてあげたい。
するとファティマさんは優しく微笑んで言った。
「いいえ、そのようなことはございません。皆、陛下に感謝をしていると思います」
そう言ってもらえて私は安心した。
鎧の形が少し違う人たちも、ファティマさんの知り合いの人たちと一緒に集まって、互いに声を掛けあっていた。
もうここでの争いは終わっているのだ。
そう言えば、村の子供たちもそうだった。取っ組み合いの喧嘩をして絶交だ、といっても翌日にはまた一緒に遊んでいた。
喧嘩をしても仲直りをすればいい。
*
都へ戻る途中、夕方になったので私たちは野宿をすることにした。
行きと比べて人数がとても多くなったので、全員が休めるような広い場所を探すのに少し苦労したけれども、ロランさんが見つけてくれた。
軽い食事を済ませた後、ファティマさんとエイブラムさん、そしてベルナールさんの三人が何かを相談し始めた。
地図を広げながら相手の数と場所、どこから来るのか、こちらの配置は、といった言葉が聞こえてくるけれど、内容が難しい。
また争いが起こるかもしれない、ということは分かった。
「あの」
「はい陛下。どうなさいましたか」
「今は皆で、何の話をしているのですか」
ファティマさんは会話を止めて、丁寧に教えてくれた。私が質問をすると、同じことでも繰り返し説明をしてくれた。
それでも難しい。分かったのは、一つだけだった。
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起きた人を足しても、まだ足りない。
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朝目覚めると、ロランさんが見張りの人と一緒にやってきた。ヴィタリスから、人が来ているという。
朝霧の中、遠くに人の列が見えた。
馬に乗っている人がいる。歩いている人が、そのずっと後ろまで続いていた。
近づいたところで列が止まり、先頭の人がやってきた。
*
「久しぶりだな」
ヴォルフさんだった。山の中に仲間の人たちと一緒に隠れていて、それから私に雇われた人だ。
雇いますと言っておきながらお仕事を用意できず、結局はヴァレリーさんに仕事を用意してもらった。
「あんたを守りにきたぞ。存分に使え」
「こんなに沢山の人たちと一緒に来たんですか」
「宰相を始め、皆、あんたを心配している」
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「ただそれ以上に、俺達は、あんたと一緒にいたいんだ」
*
「ヴォルフさん、嬉しいです。お願いします」
明け方はまだ肌寒いけれども、私の心は嬉しさと喜びで温かくなった。




