第141話:戻った
*カルロス王のイメージイラストを後書きに追加しました。
灯りが、一つ増えていた。
わしが瓶の中身を飲んだときは、卓に一つだけだった。誰かが足したのだ。
足すというのは、長くなると思ったということである。どれだけ長かったのかは、聞かぬことにした。
*
手を、ずっと握られていた。
この子は昔から力が強い。母によく似ている。
わしは、自分の身体を確かめた。
膝は十年痛んでいた。雨の降る前の日には、特に痛んだ。座るときと立つときに、いちいち息を止める癖がついていた。
いま、何もない。
エイブラムは痛むと言っていたが、あれは腿に傷があるからだろう。
わしには、傷が無い。身体のどこも壊れていない。毒の影響もまったく感じない。
体にはこれといって変化は感じなかった。そこで試しに一つ、頭の中で決めてみた。
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明朝、二国へ使者を出す。全部断ると書記官に書かせる。
国は渡さぬ。娘もやらぬ。
わしは死んだが、それはお前たちのためではない。
*
昨日までなら、この一つを『決断しよう』と考えるまでに長い時間がかかった。
何も、起きなかった。
あっさりと決まった。
*
「ファティマ」
「はい」
「わしは、戻ったか」
この子は、答えなんだ。答えずに、握る手に力を入れた。
この子は、わしが困ることは言わない。昔からそうだ。まったく、苦労をかけたものだ。
司祭が、口を開いた。
「カルロス陛下」
「うむ」
「お戻りにございます」
エイブラムは、立ったままこちらを見ておる。
あの男は、何も言わぬ。だが、その目がすべてを語っていた。
扉の外に、人の気配が無い。来たときには、司祭の騎士が立っておった。
もう要らぬということだ。
あの若い王のことを考えた。
捧げると言うたのだから、捧げねばならぬ。考えて、少し妙な気がした。
捧げねばならぬ、ではない。
*
もう、捧げておる。
*
良い悪いではない。それは至極当たり前のことに思えた。
ファティマが、まだわしの手を握っておる。
温かい。




