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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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140/173

第140話:半刻

 夜半に父から、内密の呼び出しを受けました。


 人は下がらせてありました。部屋にいたのは、四人です。


 父。ベルナール司祭。エイブラム殿。そして私。


 扉の外に、もう一人おりました。司祭の連れておられる騎士です。中には入らず、扉のところに立っております。


 司祭は、部屋へ入られてから一度だけ、その扉を見られました。


 誰も、なぜ集まったのかを言いませんでした。言う必要が、なかったからです。


     *


 父が、卓の引き出しから瓶を出しました。


 使者が置いていったものです。


 中身について父は明言をしていませんが、毒であることは間違いないでしょう。


 あの日、父は受け取らずに済ませることもできました。ですが受け取らなければ、返答を先へ延ばせなくなります。


 父は受け取り、そして卓の中に置いておかれました。


 毎晩見ておられたことも、私は知っています。灯りを消す刻限が、あの日から遅くなりました。


     *


 迷いがない、とは言い切れません。


 ですが、他ならぬ私はこの目で見たのです。


 四百二十人のうち、敗戦ののちに連れて帰れたのは百六十三人。


 戦場へ置いてきたのは、二百五十七人です。


 荷車の三十一人のうち、朝まで保つと見たのが十九人。


 そのうち四人が、起き上がりました。


     *


「ファティマ」


「はい」


「二国を退けた後、王位はお前だ」


「……はい」


「それまでは、わしがやる、そのためには、弱いままではいられぬのだ」


「私からはもう、何も申し上げることはございません。成功を神に祈っております」


 すると父は、震える声でこう言いました。


     *


「手を、握っておってくれ」


     *


 私は、父の手を取りました。


 父の手を取ったのは、母を送ったとき以来です。


 ベルナール司祭が、水を差し出されました。


 それだけです。それ以外は、何もなさいませんでした。


 父は、司祭のほうを見ませんでした。エイブラム殿のほうも見ませんでした。


 天井を見て、それから一息に、瓶の中身を飲まれました。


     *


 父はしばらく私の手を握り返しておられましたが、握り方が強くなりました。


 それから、弱くなりました。


     *


 ベルナール司祭は、口の中で何かを数えておられます。祈っておられるのだと、最初は思いました。


 違いました。あの方は、祈っておられませんでした。


 時を計っていらっしゃったのです。


 エイブラム殿は、立ったままでした。


 一度はご自分が通った道です。どこで何が起きるのかを、知っておられるはず、と感じました。


 ベルナール司祭は、時々、扉のほうへ目をやられます。


「不測の場合は、すぐにエリアス陛下をお呼びいたします」


     *


 父の手を握ったまま、半刻が過ぎました。

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