第140話:半刻
夜半に父から、内密の呼び出しを受けました。
人は下がらせてありました。部屋にいたのは、四人です。
父。ベルナール司祭。エイブラム殿。そして私。
扉の外に、もう一人おりました。司祭の連れておられる騎士です。中には入らず、扉のところに立っております。
司祭は、部屋へ入られてから一度だけ、その扉を見られました。
誰も、なぜ集まったのかを言いませんでした。言う必要が、なかったからです。
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父が、卓の引き出しから瓶を出しました。
使者が置いていったものです。
中身について父は明言をしていませんが、毒であることは間違いないでしょう。
あの日、父は受け取らずに済ませることもできました。ですが受け取らなければ、返答を先へ延ばせなくなります。
父は受け取り、そして卓の中に置いておかれました。
毎晩見ておられたことも、私は知っています。灯りを消す刻限が、あの日から遅くなりました。
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迷いがない、とは言い切れません。
ですが、他ならぬ私はこの目で見たのです。
四百二十人のうち、敗戦ののちに連れて帰れたのは百六十三人。
戦場へ置いてきたのは、二百五十七人です。
荷車の三十一人のうち、朝まで保つと見たのが十九人。
そのうち四人が、起き上がりました。
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「ファティマ」
「はい」
「二国を退けた後、王位はお前だ」
「……はい」
「それまでは、わしがやる、そのためには、弱いままではいられぬのだ」
「私からはもう、何も申し上げることはございません。成功を神に祈っております」
すると父は、震える声でこう言いました。
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「手を、握っておってくれ」
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私は、父の手を取りました。
父の手を取ったのは、母を送ったとき以来です。
ベルナール司祭が、水を差し出されました。
それだけです。それ以外は、何もなさいませんでした。
父は、司祭のほうを見ませんでした。エイブラム殿のほうも見ませんでした。
天井を見て、それから一息に、瓶の中身を飲まれました。
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父はしばらく私の手を握り返しておられましたが、握り方が強くなりました。
それから、弱くなりました。
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ベルナール司祭は、口の中で何かを数えておられます。祈っておられるのだと、最初は思いました。
違いました。あの方は、祈っておられませんでした。
時を計っていらっしゃったのです。
エイブラム殿は、立ったままでした。
一度はご自分が通った道です。どこで何が起きるのかを、知っておられるはず、と感じました。
ベルナール司祭は、時々、扉のほうへ目をやられます。
「不測の場合は、すぐにエリアス陛下をお呼びいたします」
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父の手を握ったまま、半刻が過ぎました。




