第138話:十九のまま
連れて帰れることができたのは、四百二十人のうち、百六十三人でした。
負けた形は、繰り返しても同じ結果になるものです。向こうは倍を出してきました。
倍を出されたら、こちらの兵が二人分働くしかありません。
二人分働けば、二人分傷つきます。
荷車に乗せたのが三十一人。三十一人のうち、朝まで保つと私が見たのは、十九人です。
この見立てを、私はほとんど外したことがありません。
外さないことを、誇りに思ったことは一度たりとも無いです。
*
夜半に、一人が亡くなりました。
名は知っています。四百二十人のうち、私が名を知らない者はいません。
私はその者の手を握っていました。握っていたので、止まる瞬間が分かりました。指ではなく、腕の付け根のあたりから力が抜けていきます。何度触れても、そこだけは慣れません。
いつまでも留まりたい気持ちを抑え込んで、次の者のところへ行きました。行かなければならないのです。
半刻ののち、うしろで人が動く音がしました。
振り返ると、最初に手を握っていた者が、起き上がっていました。
私は数え直しました。
十八人になるはずだった数が、十九人のままでした。
朝までに、三人が同じように、力が抜けた後に起き上がりました。三人とも、名を呼ぶと返事をしてくれました。
一人は自分の傷を見て、それから私の顔を見て、笑いました。私はそれを知っています。この国のために命をかけて戦う兵士の笑顔です。
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夜が明けてから、私はエリアス王のところへ参りました。
「エリアス陛下」
「はい」
「お伺いしたいことがございます」
「なんでしょう」
「どうして、あの者たちは起き上がるのでしょうか」
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エリアス王は、少し困った顔をされました。
「よく、わからないんです」
私はなぜか、その答えを疑いませんでした。
「私にできるのは、触ったり声をかけたり、そばにいてあげることくらいで」
「そうですか」
「でも、みんな間に合って、本当によかったです」
この方は、自分が何をしたのか分からないことを、私に詫びておられました。
そして怪我人たちが起き上がったことを、心から安堵してくださったのです。
*
次に、ベルナール司祭に伺いました。
司祭は、私が十のときからこの城に来ておられます。私が神の言葉について真剣に学ぶようになったのは司祭のおかげです。
「奇跡には限りがございます」
「限り、ですか」
「はい。死んでから日が経ちすぎると、戻りませぬ。恐らくですが目安は一週。夏は短く、冬は長い。土の下は長く、野に置かれれば短い」
「では、一週のうちであれば……」
「エリアス陛下の奇跡が起こると思われます」
司祭は、それを普通の声で仰いました。教典を読み上げるときの声です。
私は、戦場に置いてきた者たちのことを考えました。
あの日から、今日で三日になります。発つ支度に一日。荷を持たずに行けば、道は二日です。
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六日。
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間に合います。
ただし、野に置かれれば短い、と司祭は仰いました。
その日のうちに、父のところへ参りました。人を下がらせました。父は下がらせるとき、いつも少し嬉しそうな顔をされます。
「ファティマ」
「はい」
「あれは、痛むと言うたな」
「はい。エイブラム殿は、そう仰っておりましたね」
「痛むのに、立っておる」
「ええ」
父は、そこで長く黙られました。
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「わしは、痛いのは嫌いだ」
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私は、笑ってしまいました。笑ってから、父も笑っておられるのに気づきました。
父と二人で笑ったのは、母が亡くなってから初めてだと思います。
「ファティマ」
「はい」
「向こうの条件だがな」
「はい」
「一つ目は、半分だけ呑んでやろう」
私は、父の顔を見ました。
「だがな」
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「無条件降伏と二つ目は、断る」
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あの父が、決断をしたのです。
この瞬間、私の心は決まりました。




