第137話:ご返答は
*ファティマのイメージイラストを後書きに追加しました。
王都へ入った。
市の立つ通りを抜けた。台は出ていたが、半分は布が掛かったままだった。掛けたままにしておくというのは、明日また出すつもりがあるということだ。
私は、そう思うことにした。
城門で、名を告げた。告げる前に、門番が父を見た。見て、槍を下ろして、走っていった。
私が最後にここへ来たとき、この門には八人が立っていた。数えたから覚えている。
今日は、二人だった。
*
中庭に入って、私たちは足を止めた。
入れ違いに、一団が入ってくるところだった。
馬が少ない。歩いている者が多い。歩いている者の大半が何らかの傷を負い、誰かを支えている。
荷車が三台あって、三台とも人が乗っていた。苦しそうな声が漏れ聞こえてくる。
*
先頭は女人だった。
強さと優しさを兼ね備えた、まさに戦女神というべき姿だ。
「エイブラム殿」
父よりも先に私の声が出た。
「ファティマ王女殿下!」
戦いのあとだろう、汚れてはいるが、その太陽のような微笑みは数年ぶりでもまるで変わらない。
「ライアンも、久しぶりですね」
ファティマ様は、父の前で足を止められた。
止めてから、しばらく何も仰らなかった。
「お体のご様子は」
「はい、長らくご心配をおかけいたしました」
ファティマ様は、父の顔を長く見ておられた。
それから、私のほうを向かれた。
「ライアン」
「はい」
「お返事を出せず申し訳ありませんでした」
そう仰られると静かに頭を下げられた。
「頭をお上げください!取り次ぎは、何度もしてくださったと伺っております!」
申し訳なさそうな表情を崩さぬまま、こちらをじっと見つめる。その視線の先にはエリアス王の姿も捉えているはずだ。
「皆さま、ご案内をいたします」
*
謁見の間へ通された。
カルロス王が、座っておられた。
私が最後にお目にかかったのも、十四のときだ。あのときより、小さく見えた。
「エイブラムか」
「はっ」
「立って、おるのか」
「立っております」
王は、そこで黙られた。
黙ってから、身を乗り出された。
*
「どうやって」
*
ベルナール様が、一歩前へ出られた。
「カルロス陛下。奇跡にございます」
王は、知己があるはずのベルナール様に反応しなかった。
ただ、父を見ておられた。
「エイブラム」
「はっ」
「痛むか」
「痛みます。ですが戦うことはできます」
「そうか」
*
王は、それを聞いて、少し安心されたように見えた。
それから、エリアス王が引き合わされた。
カルロス王は、椅子から立たれた。
立ってから、座り直された。
どちらが上か、決めかねられたのだと思う。
*
その夜、ファティマ様が父のところへ来られた。
紙は、持っておられなかった。
「エイブラム殿。先に、申し上げておきます」
*
「ドラント王国とガーレン王国が、手を組みました」
父は、何も言わなかった。
私も言えなかった。あの二国は十年、互いを削り合ってきた。組むはずのない二国である。
「向こうの出した条件は、二つです」
「伺います」
*
「一つ。セフォーの無条件降伏と、父上、カルロス陛下の……」
ファティマ様は、そこで一度、言葉を切られた。
「ご自裁」
無法にも程がある。
「二つ。私の輿入れです。どちらかの王子に」
父が聞いた。
「どちらを、先に断られる」
「一つ目です」
*
二つ目を断るとは、仰らなかった。
「カルロス陛下は、なんと」
「王女であるお前は心配しなくていいのだぞ、と。あの弱気な父上が、初めて言い切っておりました」
ファティマ様は、笑っておられた。
*
夜半、荷車で運ばれてきた者のうち、一人が死んだ。
私は、その報せを聞いて、外へ出た。
これから何が起こるのかを、知っていたからだ。




