第136話:間に合いました
朝に発った。
父を先頭に、四十を超える一行である。モーリスは領に残した。誰かが畑を見なければならない。
「ライアン様。旦那様を頼みます」
「任せてくれ。父上が無茶しないように目を光らせておくよ」
「こいつめ、言ったな」
モーリス含め、使用人たちが皆笑った。ここしばらく見ることのできなかった光景だ。
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エリアス王は宣言どおり、ご自身の足で歩かれた。
私は、王のうしろを歩く。そして半日で、一つ分かったことがあった。
エリアス王は、道端で止まられる。
荷を担いだ者がいれば足を止めて、重くないかと聞かれた。
子供がいれば屈んで声をかけられた。
そのたびに一行が止まるので、護衛役のロラン殿が黙って隊を止める。止め慣れた止め方だった。
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二日目の昼、村を抜けた。抜けたところで、うしろが騒がしくなった。
皆にひと声かけた後で村に戻ってみると、行商荷車の轅が外れて、子供が下敷きになったのだという。
村の者が集まっていて、母親らしい女が地面に座り込んでいる。
子供は荷車の下から運び出されていたが、ぴくりとも動かなかった。
残念だが、もう、息をしていないだろう。
そこへエリアス王が、人のあいだを通って入って来られた。呆然とする人々を尻目に子供へ近づかれて、こう仰った。
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「間に合いました」
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私には、その言葉の意味が分からなかった。
子供は死んでいる。誰が見ても分かる。母親も分かっている。だから座り込んでいる。
すると子供が起きあがった。
土を払って、立って、母親を見た。
村全体が、声にならない音を出したように思えた。
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ベルナール様は、その場で膝をつかれた。膝をついてから、村の者たちに向かって言われた。
「皆さん。いま、何が起きたかをご覧になりましたね」
村人は皆、黙ってベルナール様を見つめた。
「これは、エリアス王の奇跡にございます」
誰も、疑わなかった。目の前で起きたことだからである。
母親は涙を流しながら、何度も礼を言っていた。
エリアス王は優しげな笑顔でそれに応えられ、子供と冗談を交えながら、楽しそうに話しておられた。
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三日目に、もう一件あった。
村の若者が、寝ついて八日目に息を引き取ったのだという。私たちがその村へ入って、まだ一刻も経っていなかった。
今度は、私も最初から見ていた。
エリアス王は、家の中に入られなかった。入り口で立って、待っておられる。
私は問い掛けてみた。
「お入りにならないのですか」
「今はご家族の時間ですから。でも大丈夫です、間に合ったので」
半刻して、家の中から声が上がった。悲しみではない、驚きと喜びに満ちた声だった。
ベルナール様は、そのときにはもう戸口に立っておられた。
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その夜、私は父のところへ行った。
「父上」
「どうした」
「お伺いしたいことがございます」
「言ってみなさい」
「あれは、奇跡なのでしょうか」
父は、すぐには答えなかった。
答えないというのとは、少し違う。何か言おうとして、口を開けた。開けて、そのままにした。
「エリアス王は、信用に値する御方だ」
「はい、それは疑う余地はございません。他国の民にあれだけ心砕かれる王を、私は知りません」
「それでいい」
私は、それ以上聞かなかった。
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四日目の夕方、丘に上がった。
セフォーの王都が見えた。
私が最後にここへ来たのは、確か十四のときだったと思う。父の後ろを歩いて、地図を担いで帰った。
城の形は、変わっていなかった。
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ファティマ様とは随分ご無沙汰をしてしまっているけれども、お元気だろうか。




