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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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136/173

第136話:間に合いました

 朝に発った。


 父を先頭に、四十を超える一行である。モーリスは領に残した。誰かが畑を見なければならない。


「ライアン様。旦那様を頼みます」


「任せてくれ。父上が無茶しないように目を光らせておくよ」


「こいつめ、言ったな」


 モーリス含め、使用人たちが皆笑った。ここしばらく見ることのできなかった光景だ。


      *


 エリアス王は宣言どおり、ご自身の足で歩かれた。


 私は、王のうしろを歩く。そして半日で、一つ分かったことがあった。


 エリアス王は、道端で止まられる。


 荷を担いだ者がいれば足を止めて、重くないかと聞かれた。


 子供がいれば屈んで声をかけられた。


 そのたびに一行が止まるので、護衛役のロラン殿が黙って隊を止める。止め慣れた止め方だった。


     *


 二日目の昼、村を抜けた。抜けたところで、うしろが騒がしくなった。


 皆にひと声かけた後で村に戻ってみると、行商荷車の轅が外れて、子供が下敷きになったのだという。


 村の者が集まっていて、母親らしい女が地面に座り込んでいる。


 子供は荷車の下から運び出されていたが、ぴくりとも動かなかった。


 残念だが、もう、息をしていないだろう。


 そこへエリアス王が、人のあいだを通って入って来られた。呆然とする人々を尻目に子供へ近づかれて、こう仰った。


     *


「間に合いました」


     *


 私には、その言葉の意味が分からなかった。


 子供は死んでいる。誰が見ても分かる。母親も分かっている。だから座り込んでいる。


 すると子供が起きあがった。


 土を払って、立って、母親を見た。


 村全体が、声にならない音を出したように思えた。


     *


 ベルナール様は、その場で膝をつかれた。膝をついてから、村の者たちに向かって言われた。


「皆さん。いま、何が起きたかをご覧になりましたね」


 村人は皆、黙ってベルナール様を見つめた。


「これは、エリアス王の奇跡にございます」


 誰も、疑わなかった。目の前で起きたことだからである。


 母親は涙を流しながら、何度も礼を言っていた。


 エリアス王は優しげな笑顔でそれに応えられ、子供と冗談を交えながら、楽しそうに話しておられた。


     *


 三日目に、もう一件あった。


 村の若者が、寝ついて八日目に息を引き取ったのだという。私たちがその村へ入って、まだ一刻も経っていなかった。


 今度は、私も最初から見ていた。


 エリアス王は、家の中に入られなかった。入り口で立って、待っておられる。


 私は問い掛けてみた。


「お入りにならないのですか」


「今はご家族の時間ですから。でも大丈夫です、間に合ったので」


 半刻して、家の中から声が上がった。悲しみではない、驚きと喜びに満ちた声だった。


 ベルナール様は、そのときにはもう戸口に立っておられた。


     *


 その夜、私は父のところへ行った。


「父上」


「どうした」


「お伺いしたいことがございます」


「言ってみなさい」


「あれは、奇跡なのでしょうか」


 父は、すぐには答えなかった。


 答えないというのとは、少し違う。何か言おうとして、口を開けた。開けて、そのままにした。


「エリアス王は、信用に値する御方だ」


「はい、それは疑う余地はございません。他国の民にあれだけ心砕かれる王を、私は知りません」


「それでいい」


 私は、それ以上聞かなかった。


     *


 四日目の夕方、丘に上がった。


 セフォーの王都が見えた。


 私が最後にここへ来たのは、確か十四のときだったと思う。父の後ろを歩いて、地図を担いで帰った。


 城の形は、変わっていなかった。


     *


 ファティマ様とは随分ご無沙汰をしてしまっているけれども、お元気だろうか。

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