第130話:数は合っていた
朝から、館の者が走り回っていた。
四十を超える客があることもそうだが、他国の王を迎える。自国の王すら迎えたことがないのに、だ。
「ライアン様。肉と酒、そしてお泊まりいただく部屋の手配は整いました」
「モーリス、本当にありがとう」
「それから、旦那様のお部屋は、どなたもお通ししないほうが」
「しかし」
「司祭様とヴィタリス王以外は、と申し上げるつもりでございました」
*
父は朝から起きていた。水を二度取った。数日ぶりである。
私が部屋へ入ると、目を開けてこちらを見た。
「いつだ」
「昼までにと」
「そうか」
それだけ言って、また目を閉じた。閉じたが、眠ってはいない。息の継ぎ方で分かる。
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昼前に、丘の道に土煙が立った。
私は門の外へ出て、待った。
数えた。馬が十ほど。歩いている者がその倍。荷車が二台。
三十と、十。
数は合っていた。
遠目でも分かる。ベルナール様だ。
だが私は、その横を歩いている人物から目を離せなかった。
若い。私より若い。
上着は上等なものだが、汚れているようにも見える。
そして、歩いている。馬は乗る者がいないまま、大人しく引かれている。
*
「はじめまして、エリアスです」
私は膝をついた。
相手は王である。この領の主の子として、そうするのが筋だった。
「あ、そういうのは」
声が上から降ってきた。
「いいです。立ってください」
私は顔を上げた。
困った顔をしていた。照れているようにも見えた。
「ライアンさん、ですね」
「はい。ロロア領主エイブラムの子、ライアンでございます」
「ベルナールさんから聞きました」
王はそう仰った。
「痛いと言っている人が、こちらにいると」
まるで相手のことを疑わぬような、澄んだ、素直な瞳だ。
「おります」
私はそう答えた。
*
ベルナール様が前へ出られた。二年で、少しお痩せられたように見えた。
「ライアン殿」
「ベルナール司祭様!」
「間に合いましたか」
「はい」
その一言で、膝が緩んだ。立っているのが急に難しくなった。
ベルナール様は、私の肩に手を置かれた。
心の中で私は、女神テラリーズと、目の前の司祭に感謝の祈りを捧げた。
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ベルナール様とエリアス王、そして五名の教会騎士だけが館に入られた。
そのなかに昨夜の若い男もいた。ペドロと名乗った男だ。
私が頭を下げると、向こうも下げる。
ヴィタリス王国の兵と思われる三十名は、モーリスが村へ案内していった。
他の五名の教会騎士は、周囲を警戒するためか、門外の少し離れたところに待機をしていた。
*
私は父の部屋へ、ベルナール様とエリアス王を案内した。
扉の前で、エリアス王が足を止められた。
「あの」
「はい」
「先に、ベルナールさんが入られたほうがいいと思います」
「質問をお許しください。なぜでしょうか」
「だって、呼ばれたのは、ベルナールさんですから」
何かが胸の奥から込み上げてきて、言葉を返すことができない。
*
エリアス王に礼の言葉を告げた後、ベルナール様が扉を開けられた。
開けて、入られる前に、一度こちらを振り返られた。
振り返った理由が、私には分からなかった。




