第127話:存外お人が悪い
十名を集めて、行程を告げた。
西の小国群へ布教のため向かう。途上にロロア自治領がある。そこで一人、名を呼ばねばならぬ者がいる。
ここまでは、静かだった。咎めるところがないからである。
私が最後に一言足したところで、護衛隊長が顔を上げた。
エリアス陛下に、ご同行を願う。
「司祭様」
「はい」
「他国の王に、王旅を勧めるなど前代未聞です」
「必要なのです」
「理由が分かりませぬ。なにゆえエリアス王を同行させねばならぬのですか」
私は答えなかった。
答えると、答えが残る。残った答えは文になり、文は本部へ行く。
答えぬ代わりに、私は一つ分かった。
この者が咎めたのは、王を国外へ動かすことである。窓の外のことではない。
つまり私の報告書は読まされていないということだ。
読んでいれば、そちらから先に出る。
この者たちは私に反論してよい。教会はそういうふうに作られている。上の言うことに黙って従う者ばかりであれば、前例を二百年も持ち越すことはできない。
王都に着いた後、彼らは街を歩き、厨房を見て、市を歩いていた。何を見てどう感じたか。
「分かりました。再考します」
食い付け。
*
翌朝、護衛隊長が来た。
「司祭様」
「はい」
「昨夜、仲間と話しました」
「伺いましょう」
「あの王を国外へ出せば、我らはその道中を見ることになります」
「なりますな」
「歩き方、食い方、眠り方。人といるときの様子。ここで見ているだけでは、分からぬことがございます」
隊長は、そこで一度言葉を切った。
「計るには好機、と判断しました」
食い付いた。
「そうかもしれませぬな」
それだけ答えた。
「司祭様も存外お人が悪い。そうお考えであれば、最初からお話いただければよろしいものを」
目的地が同じであっても辿る道は同じとは限らない。
この男は、自分でそこへ着いた。
次は陛下だ。
*
その日の午後、私は陛下にお会いした。
執務室に、アンリ殿とヴァレリー殿も呼ばれた。ふた月前と同じ顔ぶれである。
私は西の話をした。小国群は七つに割れており、七人の王がおり、戦乱が絶えない。畑が焼かれ、村が減り、人が痩せている。礼拝堂は空いている。
それから、こう申し上げた。
「人々を助けたい。お力をお借りできないでしょうか」
*
「やります」
*
優しい笑顔を浮かべての即答だった。
ふた月前、聖人の認定を断られたときと同じだ。
この子は考えないのではない。考える前に、答えのほうが先に出ている。
「ベルナールさん」
「はい」
「私に何ができますか」
「痛い、と言っている人がおります」
「行きましょう」
アンリ殿が書類の角を揃えられた。ふた月前も、この人は同じことをしておられた。
*
「陛下」
ヴァレリー殿が言われた。
「軍は出せませぬ」
「そうですか」
「軍が国境を越えれば、それは助けとは呼ばれませぬ。向こうの七人は、いま互いを疑っております。そこへ兵が入れば、疑う先が一つ増えるだけにございます」
アンリ殿がここで発言をされた。
「宰相と同じ考えにございますが、そもそも陛下を国外に、という点には賛同しかねます」
この人は、行かせたくないのだ。
アンリ殿とヴァレリー殿が言葉を交わす。
「同行に三百」
「三百は軍にございます」
「では五十」
「五十でも、隊に見えます」
「しかし二十では、道中が持ちませぬ」
二人は、しばらくそれを続けていた。私は口を挟まなかった。
*
「あの」
陛下が言われた。
二人が止まった。
「助けに行くのですから、私がいればいいですよね」
部屋が静かになった。
「三十でいかがでしょう」
ヴァレリー殿が言われた。
「巡察隊の形にすれば、隊には見えませぬ。ロラン隊長にお任せになれば、道も分かっております」
アンリ殿は、何も言われなかった。揃え終えた書類を、もう一度揃えておられた。
「ロランさんがいれば安心です」
三十と決まった。
*
部屋を出るとき、陛下が私を呼び止められた。
「ベルナールさん」
「はい」
「その領の人は、何人ですか」
「千に足りぬかと存じます」
「たくさんいるんですね。一人でも多く助けたいです」
私は頭を下げた。




