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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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第127話:存外お人が悪い

 十名を集めて、行程を告げた。


 西の小国群へ布教のため向かう。途上にロロア自治領がある。そこで一人、名を呼ばねばならぬ者がいる。


 ここまでは、静かだった。咎めるところがないからである。


 私が最後に一言足したところで、護衛隊長が顔を上げた。


 エリアス陛下に、ご同行を願う。


「司祭様」


「はい」


「他国の王に、王旅を勧めるなど前代未聞です」


「必要なのです」


「理由が分かりませぬ。なにゆえエリアス王を同行させねばならぬのですか」


 私は答えなかった。


 答えると、答えが残る。残った答えは文になり、文は本部へ行く。


 答えぬ代わりに、私は一つ分かった。


 この者が咎めたのは、王を国外へ動かすことである。窓の外のことではない。


 つまり私の報告書は読まされていないということだ。


 読んでいれば、そちらから先に出る。


 この者たちは私に反論してよい。教会はそういうふうに作られている。上の言うことに黙って従う者ばかりであれば、前例を二百年も持ち越すことはできない。


 王都に着いた後、彼らは街を歩き、厨房を見て、市を歩いていた。何を見てどう感じたか。


「分かりました。再考します」


 食い付け。


     *


 翌朝、護衛隊長が来た。


「司祭様」


「はい」


「昨夜、仲間と話しました」


「伺いましょう」


「あの王を国外へ出せば、我らはその道中を見ることになります」


「なりますな」


「歩き方、食い方、眠り方。人といるときの様子。ここで見ているだけでは、分からぬことがございます」


 隊長は、そこで一度言葉を切った。


「計るには好機、と判断しました」


 食い付いた。


「そうかもしれませぬな」


 それだけ答えた。


「司祭様も存外お人が悪い。そうお考えであれば、最初からお話いただければよろしいものを」


 目的地が同じであっても辿る道は同じとは限らない。


 この男は、自分でそこへ着いた。


 次は陛下だ。


     *


 その日の午後、私は陛下にお会いした。


 執務室に、アンリ殿とヴァレリー殿も呼ばれた。ふた月前と同じ顔ぶれである。


 私は西の話をした。小国群は七つに割れており、七人の王がおり、戦乱が絶えない。畑が焼かれ、村が減り、人が痩せている。礼拝堂は空いている。


 それから、こう申し上げた。


「人々を助けたい。お力をお借りできないでしょうか」


     *


「やります」


     *


 優しい笑顔を浮かべての即答だった。


 ふた月前、聖人の認定を断られたときと同じだ。


 この子は考えないのではない。考える前に、答えのほうが先に出ている。


「ベルナールさん」


「はい」


「私に何ができますか」


「痛い、と言っている人がおります」


「行きましょう」


 アンリ殿が書類の角を揃えられた。ふた月前も、この人は同じことをしておられた。


     *


「陛下」


 ヴァレリー殿が言われた。


「軍は出せませぬ」


「そうですか」


「軍が国境を越えれば、それは助けとは呼ばれませぬ。向こうの七人は、いま互いを疑っております。そこへ兵が入れば、疑う先が一つ増えるだけにございます」


 アンリ殿がここで発言をされた。


「宰相と同じ考えにございますが、そもそも陛下を国外に、という点には賛同しかねます」


 この人は、行かせたくないのだ。


 アンリ殿とヴァレリー殿が言葉を交わす。


「同行に三百」


「三百は軍にございます」


「では五十」


「五十でも、隊に見えます」


「しかし二十では、道中が持ちませぬ」


 二人は、しばらくそれを続けていた。私は口を挟まなかった。


     *


「あの」


 陛下が言われた。


 二人が止まった。


「助けに行くのですから、私がいればいいですよね」


 部屋が静かになった。


「三十でいかがでしょう」


 ヴァレリー殿が言われた。


「巡察隊の形にすれば、隊には見えませぬ。ロラン隊長にお任せになれば、道も分かっております」


 アンリ殿は、何も言われなかった。揃え終えた書類を、もう一度揃えておられた。


「ロランさんがいれば安心です」


 三十と決まった。


     *


 部屋を出るとき、陛下が私を呼び止められた。


「ベルナールさん」


「はい」


「その領の人は、何人ですか」


「千に足りぬかと存じます」


「たくさんいるんですね。一人でも多く助けたいです」


 私は頭を下げた。

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