第124話:帰らぬまま
筒を出して、四日が過ぎた。
返事はまだ来ない。
教会の網は速いと聞いているが、速いというのは、たぶん人の足よりは、という意味だ。
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五日目の朝、北の畑の隅で人が死んだ。
ヴェルジュという年老いた農夫で、私も何度も顔を合わせている。
冬を越したのに春に死んでしまった。冬は堪えるが、堪えたあとで力が抜けるという話だった。
私は畑へ出た。
この領には今、司祭様がいない。だから唱える役目を私が担っている。
父にまた叱られそうだが、学び続けた成果を皆に返せることに誇りを持っている。
昔のように叱ってもらえたら、どんなに嬉しいだろう。
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四人で穴を掘ったので、時間はかからなかった。
ヴェルジュを丁寧に穴におさめ、優しく土をかけた。
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すべては大地より生まれ、大地に帰る。
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それから、土の上に麦を一握り蒔いた。
埋めた者の上には、必ず蒔く。芽が出ても、誰も刈らない。刈らないので、次の年にはさらに増える。
これで何人目だろうか。
畑ではない麦の広がりを見て思った。
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女の子が二人、離れて立っていた。
ヴェルジュの孫と聞いた。上のほうがまだ十くらいで、下は五つに満たない。
下の子が、麦の粒を指さして何か言った。上の子が首を振った。
私には聞こえなかった。
聞こえなかったが、下の子はたぶん、いつ食べられるのかを聞いたのだろうと思った。
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館へ戻る道で、私はベルナール様のことを考えていた。
この領の鐘は、年に二度鳴る。
一度は収穫のとき。
もう一度は、あの方が来られるときだ。
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物心がついた頃、あの方は毎年来られていた。
春の終わりに来て、七日いて、発たれる。七日のあいだに、その年に埋めた人たちの上を回られる。回って、一人ずつ、名を呼ばれる。
名を間違えられたのを、私は一度も見たことがない。
この領には、年に二十人から三十人が埋まる。多い年は五十を超える。
あの方は名簿を持っていらっしゃらなかった。その様子がいつも眩しく見えた。
去年は来られなかった。道が塞がっているという報せが来た。それきりである。
今日のように、人を送る時にいつも思い出すことがある。
私が十くらいのとき、あの方と交わしたやりとりのことだ。
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「ベルナールさま」
「はい」
「なぜ、人が亡くなったら焼かずに埋めるのでしょうか?」
「火は、大地に帰してくれないからですよ」
「では、どこへ行くのですか?」
「どこへも行かぬのです。行けぬのです」
「では、聖別の火というのは、何のために行うのですか?」
あの方は、手を止められた。止めてから、私の背丈に合わせて膝を折られた。
「その言葉をどこで?」
「教典に書いてありました」
あの方はじっと私を見た後でこう言った。
「ライアン、あなたは良く勉強をしていますね」
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そのあと、あの方は長く黙っておられた。
私は自分が悪いことを聞いたのだと思って、謝った。
謝られるようなことではないですよ、と優しく言われた。
そう言ってから、また黙られた。
あの方のようになりたくて、今もずっと教会の教えを学び、信仰を深めている。
だが教典に一箇所だけ記されている『聖別の火』については、まだその答えを得ることができていない。
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館に着いた。
モーリスが門のところに立っていた。
「旦那様が、朝から水を召し上がりません」
「熱がさらに上がるようなら注意が必要か……」
「いえ、お熱はさほどではございません。お話になる言葉もしっかりしてらっしゃいます」
「それなら少し安心だ」
「ライアン様」
「苦労をかけるね。いつもありがとう」
「滅相もございません。旦那様とライアン様にお仕えすることが私の生きがいにございます」
「よろしく頼む」
これからもずっと、という言葉が続かなかった。
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私は父の部屋へは行かず、礼拝堂へ寄った。
膝をついて、句を唱えた。
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すべては大地より生まれ、大地に帰る。
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父は、いずれ土に帰る。
帰れば、麦を蒔く。芽が出て、誰も刈らず、次の年には増える。
そういうふうにできている。
立ち上がって、鐘を見上げた。
この春、鐘は鳴ってくれるのだろうか。




