第122話(幕間):呼び出しの控
アイゼンヴァルト王国 呼び出し控
王付士官 クラウディア・メルダース 組み直す
*
これまで、名簿には職しか書かなかった。
呼び出しは職に対して出すものだからである。参謀本部と書けば参謀本部から来る。誰が来るかは、向こうが決める。
三年、それで足りていた。
*
足りなくなったのは、参謀殿が新しい様式を回してこられたからである。
欄が四枚に割ってあった。番号が振ってあった。四百名で使える割り方で、四千名でも同じ割り方で足りる。
四十名なら職でよい。
四千名では、誰が動けて誰が動けぬかを先に知っていなければ、呼び出しが出せない。
ゆえに齢を書く。
*
命じられていない。
*
【一の部 卓につく者】
一、コンラート三世 二十八 国王
この項に呼び出しは出さぬ。出されるほうである。
一、エルヴィーン 四十 参謀長
呼べば来られる。呼ばぬときも来られる。三年で、遅れが一度もない。
一、ホルスト 五十 軍監
二度目の呼び出しを要したことがない。要さぬ代わりに、要らぬことを申される。
一、ライマー 七十五 主計監 代理
引退より戻られた。前の主計監の名を、まだ消していない。消してよいかを聞いていない。
一、イザーク 三十八 外務長官
城におられぬ日が多い。どこにおられるかは、呼び出しを出す先で分かる。
一、スヴェン 四十三 筆頭書記
公式の議にのみ呼ぶ。呼ばぬ議が、二月のうちに四度あった。
*
【二の部 四方を預かる者】
一、ナターリエ 三十五 西部方面司令官
返しが早い。呼び出しを出した日のうちに返ることがある。出す前に返ってきたことが一度ある。
一、ヘンドリック 四十五 北部方面司令官
返しに私事を書かれない。
一、フンベルト 三十九 南部方面司令官
同じ。
一、トビアス 四十七 東部方面司令官
四人のうち、返しがいちばん遅い。遅れて、必ず来られる。来られてから、来た理由をこちらに聞かれる。
*
【三の部 王家】
一、テオドラ 二十 王妹
呼び出しを出す立場にない。来られるときは扉を叩かれず、閉めるときに音を立てられない。
*
【四の部 旗本】
一、ブリッツ 二十六 迅雷
職の欄が埋まらぬため異名を記す。
二月と三月、呼び出しを出していない。
*
【五の部 方面の者】
名は方面の書付より写した。月に二度上がる。
一、バラク 三十六 東部方面司令官副官
割りを書く者。三月いっぱい、当番を替えぬ割りが上がっている。理由は書いていない。
一、ヨナス 二十二 第三番中隊副官
一、カスパー・レーヴェ 十九 第三番中隊
一、ミカ 十八 第三番隊 斥候
十一月、境にて捕らわれ、帰されたる者。
*
【六の部 軍医寮】
一、レンツ 四十五 軍医
軍医二十年。報告は三行である。三行でないものが上がったことが、一度ある。
*
【七の部 回収隊 四十名】
この四十名は、どの方面の名簿にも混ぜられない。管掌が違う。
一、ハルトマン 四十九 隊長
埋葬三十一年。訊かれたことにだけ答える。呼び出しに返しを書かれない。来られる。
一、ゲルト 二十六 付き軍医
軍医寮より。決めたことを動かされない。
一、ニクラス 二十 歩兵
志願ではない。名簿に名があったので来た。
残る三十七名は、名のみ記す。齢は上がっていない。
*
上がっていないのは、集めるときに聞かなかったからである。
聞かなかったのは、四十名だったからである。
*
【八の部 出向】
一、カタリナ 三十 参謀本部より西部方面へ
命じられたことをする。命じられていないことは、しない。書かない。
*
一、オットー 齢 境の兵
二月、西部方面。杭の外にて落馬。
*
この項の欄が、一つ埋まらない。
書付には、そこまでしか書いていない。
書いた者は、その先を見ている。見た者が書かなかったのか、書いた紙が上がってこないのかを、わたしは知らない。
いずれにせよ、呼び出しは出せない。
*
【九の部】
一、クラウディア・メルダース 二十五 王付士官
どの方面の名簿にも入らぬ。参謀本部の名簿にも入らぬ。
置く部がないので、部を作った。
*
右、二月より三月までの分。
*
名簿は陛下がご自身で書いて寄越されるものである。わたしは写す。
この控は、写しではない。
*
齢を並べて、はじめて見えたことが一つある。
卓に席のある者は、みな三十を越えている。
いちばん上の席を除いて。




