↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/173

第118話:割り切れる数

 三日後、帝国領から人が来た。


 使者ではない。境の杭のところまで来て、こちらの当番と少し話して、帰った。


 これ自体は珍しい話ではない。戦闘状態であればもちろん別だ。


 だが祖父の、曽祖父の、そのまた前から睨み合っている相手であればこその、現場同士の生ぬるい交流の一つだ。


 話した中身は、糧秣の値と、冬の道の具合だった。


 自分は報せを持って天幕へ入った。


「向こうの下士官が、杭まで参りました」


「何を話した」


「麦の値と、道でございます」


「ほかには」


「ございません」


「そうか」


 閣下は顎髭に手をやられた。


「明日から、当番を替えるな」


「同じ者を、でございますか」


「同じ者だ。三月いっぱい」


     *


 自分は割りを書き直した。


 当番を替えないというのは、こちらの手を減らすことである。替えられる者を替えないのだから、余りが出ない。


 書きながら、なぜかを考えた。


 三月の割りを繰ってみた。去年の同じ月、向こうの下士官は二度来ている。その前の年も二度である。


 来る月が決まっている。決まっているものは、確かめに来ているということだ。


     *


 向こうは、麦の値を聞きに来たのではない。


 誰が立っているかを見に来た。


 毎月違う顔が立っていれば、人が回っていると分かる。同じ顔が立っていれば、回す余りがないか、回す気がないかのどちらかである。


 どちらかは、向こうには分からない。


 分からないものを、向こうは持ち帰る。持ち帰って、誰かに渡す。


     *


 三月のあいだ、境には同じ顔が並んだ。


 向こうの下士官は、二度来た。二度とも同じ話をして、帰った。


 三度目は来なかった。


     *


 その月、火の数も変えなかった。


 人は四分の三のままである。


 替えぬ当番は、休みが減る。休みが減れば、割りに苦情が来る。苦情はこちらへ来る。閣下のところへは行かない。


     *


 自分は、聞かずに済ませるつもりでいた。


 済ませられなかったのは、割りを書き終えた夜に、閣下が茶を出されたからである。


 この方は、部下に茶を出される。味についての感想は差し控える。


「バラク」


「はい」


「聞きたいことがある顔をしているぞ」


     *


「では、一つ」


「言え」


「閣下は、西を攻めることに賛成されたと伺いました」


「挙げた」


「それはなぜでございますか」


「軍医殿だけはどう転ぶかだったが、他は読めた。イザークは特にな」


「意味が分かりませぬ」


「陛下が攻めぬ、と思ったからよ」


「え?」


 不敬ながら声が漏れた。


     *


 閣下は茶を飲まれた。


 自分は、もう一度聞くべきかどうかを考えた。考えているうちに、聞き方が分からなくなった。


「バラク」


「はい」


「割り切れる数というのは、なかなかどうして厄介、ということだ」


 閣下は湯呑みを置いて、顎髭に手をやられた。


 それから、明日の天気の話をされた。


     *


 自分は天幕を出て、割りの続きを書いた。


 書きながら、割り切れる数のことを考えた。


 東部方面の持ち場は十四である。十四は割り切れる。


 火の数は五百三十であった。十四で割れば、割り切れない。


 いや、五と三。


     *


 割りを書き終えた。


 同じ顔が、三月いっぱい並ぶ割りである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。