第115話:誰が使えぬようにした
エルヴィーンに上申書をもう一度出させた。
一枚である。七つの項がある。
卓が割れたのも、隊を残したのも、境の柵を厚くさせたのも、全部この一枚から出た。半月のあいだに起きたことは、ほとんどこの紙の子である。
私は四の項で止まった。
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なお、この境につき、当職の判ずるところ、この紙に書き得ざる事柄が一つあり。
別して口頭にて申し上ぐ。
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まだ聞いておらぬ。
読んだのは半月前だ。読んで、卓を開いて、決めて、そのままにした。決めることが多い日は、聞くことが後になる。
後になったものは、たいてい後で高くつく。
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「参謀」
「はい」
「書き得ざる事柄とは」
「口頭にて申し上げます」
「言え」
参謀は一歩前に出た。卓の幅は変わらぬ。それでも一歩出た。
声を落とす、というのはこういうことである。
「中心なる者にございます」
「続けろ」
「あの境を測るにあたり、当職はその者を数に入れておりませぬ」
「なぜだ」
「使えませぬので」
「何を外した」
「上申の項ではございませぬ」
「では何だ」
「もとの紙の、十一の項にございます」
落とされた十一行のことである。
規定が作られたとき、後ろから切られた。私が出させて、書庫から出てきた。二百年で七件の綴りと一緒に。
参謀は諳んじた。
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待たずに処すべし。中心なる者を先に、然るのちに動く者を。
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「読んだ」
「待たずに済む手は、あれ一つにございました」
「そうだな」
「誰が使えぬようにした」
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参謀は答えなかった。
答えないのが答えである。
この男は、私の名を言わなかった。
私は自分の言葉を思い出した。
『ならば、記録は当てにならぬ』
あのとき、そう言った。言ったので待機は却下され、却下されて隊が立ち、隊が立ったのでこの紙が上がってきた。
そして、当てにならぬと裁いた記録の中に、中心なる者は書かれている。
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「取り消せば、使えるか」
「使えます」
「そのときは」
「主計監の案が戻ってまいります」
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三日から百日で死ぬ。ならば待てばよい。一銭もかからぬ。
あれが戻る。
二百十日を過ぎておる者について、三日から百日の紙を当てるわけにはいかぬ。当てにならぬ、で正しい。
正しいまま、こちらの手が一つ減っている。
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使えぬと申した項を、この男は諳んじている。
諳んじるほど読んだということだ。
私は参謀を見た。
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焼くことにつき、異を唱うる者、見あたらず。
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市中の触れについて集めさせた四行の、三行目だ。
まだ命じておらぬことに、民が異を唱えていない。その出所をメルダースに追わせている。
聞こうとして、やめた。
揃うまでは出さぬ者に、途中を聞くのは筋が違う。
「ほかに、書き得ざることはあるか」
「ございませぬ」
参謀は紙の端を揃えて、下がった。
揃っていた紙である。




