第114話(幕間):値がつかぬ
主計監 ライマー 覚
二月。教会よりの書状につき、外務長官に問われたるところを左に記す。
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【一 問われたること】
外務長官、当職の部屋へ参らる。
教会より書状あり。西の民の数を尋ねておる、と。
答えてよきものか、と。
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イザークが、値を聞きに来おった。
いつもは、こちらが値をつけたあとに来る。つけた値を、外へ持って出るためにな。
しかもこの件は卓に出ておる。陛下は、後で聞く、と仰せられた。
後で聞くと言われたものを、先にこちらへ持ってくる。
順が違うのぉ。
違うと知らぬ男ではない。
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【二 持ち物の見立て】
数そのものは、ただの数である。
ただし、向こうが尋ねてきたということは、向こうが持っておらぬということである。
持っておらぬものを、こちらは持っておる。
これは品である。
【三 値】
品の値は、買い手が何に使うかで決まる。
教会が何に使うかを、当職は知らぬ。
知らぬものには、値がつかぬ。
ゆえに問うた。あちらは、何に使われる、と。
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ここで、考える顔をした。
わざと見せる顔よ。見飽きたわい。
わざと見せる者は、たいてい答えを持っておるものでな。
持っておらぬ者に、顔を作る暇はないものよ。
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【四 答えられたること】
曰く、教会は名を書くところにて、名を書くには数が要る、と。
曰く、それ以上は書状にございませぬ、と。
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書状にないことを、この男は知っておるな。
知っておって、書状にはない、と言うた。
嘘ではない。嘘でないものが、いちばん高くつく。
教会が、数だけで済ますとも思えぬ。
数は入口よ。入口を開けさせて、そのあと何を運び込むかは、開けてからのことになる。
イザークがそれに気づいておらぬはずがない。
気づいたうえで、値だけを聞きに来おった。
詐欺師とペテン師の化かし合いというのは、ぞっとせんのぉ。
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【五 しからば】
値はつけられぬ。
つけられぬものは、渡さぬに限る。
渡さねば減らぬ。渡せば戻らぬ。
【六 なお】
二十万という数は、当職の帳面にも載っておる。麦の出入りから引いた数である。
外の者が同じ数に着くには、同じ帳面を持つほかない。
南の商人は、持っておる。
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ゆえに、渡さぬと決めても、遅かれ早かれ向こうへ渡るのぉ。
こちらで決められるのは、こちらから渡すかどうかだけよ。
値がつくのは、その一点きりである。
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【七 買い手の懐】
教会は国にあらず。ゆえに歳入の綴りがない。
が、どの国にも礼拝堂がある。礼拝堂には箱がある。
箱の中身を数えた者を、当職は知らぬ。
数えられぬ懐を、貧しいと見るのは素人である。
【八 上申せず】
右は問われて答えたるものにて、命ぜられたるものにあらず。
教会への返答は外務の役目である。当職の名は出さぬ。
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イザークめ、深々と頭を下げて帰っていったわ。
値がつかぬ、と申したことに、礼を言うたのである。
値がつかぬというのは、答えではない。
それを持って帰る者は稀有よのぉ。




