第113話(幕間):命ぜられたるものにあらず
主計監 ライマー 覚
二月。焼却に要する費えにつき、算じたるところを左に記す。
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一、実績
北の練兵場へ入りたる油、十九樽。回収隊の携行分である。
馬一頭を焼くに、樽の四分の一。
人一人を焼くに、樽の十分の一。
右は境よりの報せに拠る。実際に焼きたるものの数字であり、こちらで見積もりたるものにあらず。
ゆえに、一樽につき十人と置く。
十九樽で百九十人。隊の携行分にて足る数である。
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ただし、拠りどころは一件のみ。
馬は練兵場にて一頭、人は境にて一人。それきりである。
一件より引きたる数は、二件目にて改まる。改まるまでは、これを使うほかない。
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二、いま出しているもの
十九樽を出したのは当職である。
何人ぶんかを問われて出したのではない。隊が運べる量で出した。
結果として百九十人ぶんになった。
年に百九十を超えれば、足りぬ。
超えるかどうかを、当職は聞いておらぬ。誰も言うてこぬ。
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三、足りるか
西部方面は八千から一万四千になった。兵が増えれば、死ぬ者も増える。
焼く者は、四十名のままである。
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境にて一人を焼くに、隊は一日を使うた。運び、薪を組み、焼き、灰を運ぶ。
隊は一つ。ゆえに一日に一人である。
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この速さで二十万を焼くとする。
二十万日。年にして五百四十八年。
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四十名は、試みのための数である。試みには足りる。
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四百名なら、隊にして十。一日に十人。二万日。五十四年。
四千名なら、二千日。五年半。
一万名なら、隊にして二百五十。一日に二百五十人。八百日。二年と少し。
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右は、焼く日数のみである。運ぶ日数を入れておらぬ。
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四、外の値
外務長官に問う。
曰く、南の油、この半月で二割上がりたり。買い足しておるは連邦にあらず、と。
こちらが集めたゆえに上がったのではないか、と問う。
曰く、それもございましょうな、と。
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右は、集めれば上がるということである。
量が増えれば、一樽あたりの値も増える。二重に増える。
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五、隊を増やす場合
油は人数に比例する。四百名なら十倍、四千名なら百倍を積むことになる。
四百名にて、百九十樽。蔵の五分の一ほど。
四千名にて、千九百樽。一年で蔵が空く。
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ただし、油は小さいほうである。
大きいのは口である。
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冬に一万二千を出す費えは、既に出してある。往き十六日、戻り十九日、合わせて三十五日ぶんの口と、馬の飼葉と、油。
隊は出したり戻したりするものではない。置くものである。
一年は三百六十五日ある。
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四千を一年置くは、一万二千を冬に一度出す費えの、三倍半にあたる。
一万を一年置くは、八倍半である。
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却下されたのは、その一度ぶんである。
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六、限りまで
向こうの数、二十万と聞く。
一樽に十人であるから、二万樽。
いま王国の蔵にある油の、二十年分にあたる。
集めれば値は跳ねる。跳ねた値で二万樽を買えば、一年の入りでは足りぬ。
三年ぶんを要する。
その三年、ほかに何も買えぬ。
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七、しからば
焼くは、境にては安い。
向こうを焼くは、値がつかぬ。
値がつかぬというのは、高いということではない。買えぬということである。
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八、なお
薪は数えておらぬ。境の柵を厚くせよとの由につき、そちらへ回っておるゆえ、いまは引けぬ。
人手も数えておらぬ。焼く者を四千も揃える算段は、金の話ではない。
何人焼くことになるかも、数えておらぬ。それは当職の見るところにあらず。
灰の始末も数えておらぬ。境の報せに、集めて杭の内へ運びたる旨あり。命じたる者なし。
命じておらぬものは、帳面に載らぬ。載らぬものは、増えても気づかぬ。
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右、命ぜられたるものにあらず。
誰にも見せぬ。綴りにも入れぬ。手元に置く。
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値は、命ぜられてから出すのでは遅い。




