第111話:三度とも迷わなかった
一、焼くことにつき、異を唱うる者、見あたらず。
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これを書いたのは、わたしである。
四行のうちの三行目だった。それだけである。
焼けとは、まだどこにも命じられていない。
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束を出した。
北と南の門衛の報せ。市の見回りの覚書。辻ごとの触れの控え。それから、店の者から聞き取った紙が十九枚ある。
古い順に並べた。
いつもは、これで割れる。同じ話でも、聞いた日はばらける。近い者が先に言い、遠い者が後で言う。七日ずれることもあれば、四十日ずれることもある。
今度は、ばらけなかった。
十九枚のうち十四枚が、三日の内に収まっている。
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場所で並べ直した。
北の門の外れと、南の市と、川向こうの荷揚げ場で、同じ三日である。
人の足では、こうならない。
言い回しも見た。
焼いてもらわなきゃ困る。こっちまで来たらどうする。
十九枚のうち十一枚に、この二つが並んで出てくる。順番まで同じだった。
一行目と二行目も並べてみた。
こちらはばらけていた。七日から、長いもので三十日。
四行のうちで揃っているのは、三行目だけである。
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もう一つ、揃っているものがあった。
三行目には要らないので、初めは脇へ置いた紙である。
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陛下は出るおつもりだった。止めたのは参謀長である。金がかかると言った。
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十九枚のうち九枚に、この話が付いている。
付いている九枚は、全部あの三日の中にある。
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わたしはそこで、筆を置いた。
あの日、卓にいた。
参謀本部が速やかに西へ出よと上申し、陛下がお読みになり、手を挙げよと仰せになった。出るべし五、出ぬべし三。それから、攻めぬと告げられた。
書き取ったのはわたしである。
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逆だ。
わたしは外套を手にして部屋を出た。
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辻の触れは、まだ貼ってあった。
風で端が浮いている。糊は乾いていた。
三人が読んでいた。読める者が、読めない者に読んでやっている。
「病名の定まらざる異変」
「だから疫病だろ」
「そう書いてある」
わたしは横から字を追った。
軍務規程。四-八-三。条文が五つ、番号どおりに写してある。写し違いはない。
その下に、出したところの名がある。
参謀本部。
そして参謀長。
陛下の名は、どこにもない。
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本部を憎めば、軍務が回らなくなる。
人を憎んでも、軍務は回る。
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城へ戻って、書記課へ下りた。
「掲示の写しは、どちらの指図で」
「帳面がございます」
書記課の者は帳面をめくって、指を止めた。
「こちらに」
「十一の辻へ、三日で」
「そのように仰せつかりましたので」
誰に、とは聞かなかった。
指は、まだ同じところに置かれていた。
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部屋へ戻って、紙を揃えた。
三行目の出所は出た。日付も、場所も、言い回しも、順番も出た。
もう一つのほうも、同じ三日から出た。
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あとは、帳面が指していた名を書けばよい。
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その名を、わたしは今日、もう三度書いている。
三度とも、書くのに迷わなかった。




