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白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

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111/173

第111話:三度とも迷わなかった

 一、焼くことにつき、異を唱うる者、見あたらず。


     *


 これを書いたのは、わたしである。


 四行のうちの三行目だった。それだけである。


 焼けとは、まだどこにも命じられていない。


     *


 束を出した。


 北と南の門衛の報せ。市の見回りの覚書。辻ごとの触れの控え。それから、店の者から聞き取った紙が十九枚ある。


 古い順に並べた。


 いつもは、これで割れる。同じ話でも、聞いた日はばらける。近い者が先に言い、遠い者が後で言う。七日ずれることもあれば、四十日ずれることもある。


 今度は、ばらけなかった。


 十九枚のうち十四枚が、三日の内に収まっている。


     *


 場所で並べ直した。


 北の門の外れと、南の市と、川向こうの荷揚げ場で、同じ三日である。


 人の足では、こうならない。


 言い回しも見た。


 焼いてもらわなきゃ困る。こっちまで来たらどうする。


 十九枚のうち十一枚に、この二つが並んで出てくる。順番まで同じだった。


 一行目と二行目も並べてみた。


 こちらはばらけていた。七日から、長いもので三十日。


 四行のうちで揃っているのは、三行目だけである。


     *


 もう一つ、揃っているものがあった。


 三行目には要らないので、初めは脇へ置いた紙である。


     *


 陛下は出るおつもりだった。止めたのは参謀長である。金がかかると言った。


     *


 十九枚のうち九枚に、この話が付いている。


 付いている九枚は、全部あの三日の中にある。


     *


 わたしはそこで、筆を置いた。


 あの日、卓にいた。


 参謀本部が速やかに西へ出よと上申し、陛下がお読みになり、手を挙げよと仰せになった。出るべし五、出ぬべし三。それから、攻めぬと告げられた。


 書き取ったのはわたしである。


     *


 逆だ。


 わたしは外套を手にして部屋を出た。


     *


 辻の触れは、まだ貼ってあった。


 風で端が浮いている。糊は乾いていた。


 三人が読んでいた。読める者が、読めない者に読んでやっている。


「病名の定まらざる異変」


「だから疫病だろ」


「そう書いてある」


 わたしは横から字を追った。


 軍務規程。四-八-三。条文が五つ、番号どおりに写してある。写し違いはない。


 その下に、出したところの名がある。


 参謀本部。


 そして参謀長。


 陛下の名は、どこにもない。


     *


 本部を憎めば、軍務が回らなくなる。


 人を憎んでも、軍務は回る。


     *


 城へ戻って、書記課へ下りた。


「掲示の写しは、どちらの指図で」


「帳面がございます」


 書記課の者は帳面をめくって、指を止めた。


「こちらに」


「十一の辻へ、三日で」


「そのように仰せつかりましたので」


 誰に、とは聞かなかった。


 指は、まだ同じところに置かれていた。


     *


 部屋へ戻って、紙を揃えた。


 三行目の出所は出た。日付も、場所も、言い回しも、順番も出た。


 もう一つのほうも、同じ三日から出た。


     *


 あとは、帳面が指していた名を書けばよい。


     *


 その名を、わたしは今日、もう三度書いている。


 三度とも、書くのに迷わなかった。

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