↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/174

第109話:同じ形

 扉が鳴った。


 叩いた音ではない。押した音である。この城で私に断りなく扉を押すのは一人しかいない。


「兄様」


「テオドラ」


 妹は入ってきて、卓の横に立った。片足に重心を乗せて、もう片方の爪先で床を叩いている。十のころから変わらない。


     *


 編みかけの手袋を出された。


「今年のです」


「まだ編めておらぬではないか」


「指は数えました」


「去年のは」


「櫃にあります」


「知っているのか」


「見ました。三つとも」


 妹は編み目のどこかを指で押さえた。気に入らないところがあるらしい。


「使っていませんね」


「使っておらぬ」


「はい」


 それで済ませた。


     *


 人は多数の無能と少数の有能に分類される。


 妹は、どちらでもない。


 分類できぬものが一つあると、分類そのものが揺れる。


 私はそれを二十年ほど脇に置いている。


     *


「兄様。西へは出さないとお決めになったと聞きました」


「誰から聞いた」


「みんな言っています」


 この城も、みんな、で動いている。


「わたくしは、よかったと思います」


「なぜだ」


 妹は綴りを一冊、卓に置いた。書庫のものである。止める者はいない。


「斥候の申し立てが写してあります」


「読んだ」


「西の村の者が、粥を出したと書いてあります」


「書いてある」


「その次の行です」


 妹は頁を指した。


「毒は、入っておりませんでした」


     *


 その行は私が書かせた。


 軍務としては、あれで足りている。毒の有無は、二十三日ぶんの数より重い。


「それがどうした」


「粥を出す相手を、焼きに行くのは変です」


 妹はそれ以上言わなかった。説明もしなかった。私に説明を求めもしなかった。


     *


「テオドラ」


「はい」


「私が止めたのは、粥のためではない」


「存じております」


「勝っても何も残らぬからだ。兵が減り、金が減り、取った土地には二十万がいる」


「はい」


「お前の言うこととは、違う」


「同じ形をしています」


     *


 私は妹を見た。


 妹は私を見ていなかった。手袋を見ていた。


「兄様」


「なんだ」


「西は、こちらへ来ますか」


「来る材料はない」


「では、こちらから行かなければ、何も起きないのですね」


 私は答えなかった。


 答えなかったのは、答えを持っていなかったからではない。


     *


 妹は綴りを脇に挟んで、扉のほうへ歩いた。


 途中で振り返って、何か言おうとして、やめた。


 押して開ける者は、閉めるときは静かにする。


     *


 攻めぬ。向こうも来ぬ。


 それだけが続けば、それは戦ではない。


 戦でないものに、名を付ける必要はない。


 名を付ければ、卓に載る。卓に載れば、賛成と反対が出る。


     *


 私は脇へ寄せた紙を戻した。


 王都の触れについて、集めさせたものである。四行しかない。


 一、条文を疫病と読む者、多数。


 一、西より来たるものと解する者、大半。


 一、焼くことにつき、異を唱うる者、見あたらず。


 一、北の門にて、西へ発つ列に向かい、万歳の声あり。


     *


 私はその四行目を二度読んだ。


 誰も、私が何を決めたかを知らぬ。


 知らぬまま、決めたとおりに動いている。


 そして三行目は、私がまだ命じていないことである。


     *


 訂正はできぬ。


 訂正すれば、本当のことを言うことになる。


     *


 二十万は動かぬかもしれない。


 こちらは四百万いる。


     *


 妹は、粥の話をして帰った。


 あの話を、あの四百万にしたらどうなるか。


 私は考えて、やめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。