第107話:死んでいました
荷車を、杭の外へ出した。
油の樽と、薪である。薪は天幕の火に割ったぶんしかなかったので、荷車の下の板も外した。
誰も止めなかった。止める者は、全員こちら側にいた。
*
「樽の十分の一」
隊長は、油の量を先に言った。
それから薪の組み方を言い、風上の位置を言い、始めから終わりまでにどれくらいかかるかを言った。
練兵場で聞いたのと、同じ順だった。あのときは馬だったので、数だけが違った。
「待ってくれ!」
境の兵が前に出た。
「まだ死んでない! 息をしてるんだぞ!」
「四-八-三」
隊長は言った。
「五項です。読んだことがおありでしょう」
兵は口を閉じた。
軍規は貼り出されている。読んでいなくても、あることは知っている。
知っているから、言い返す先がない。
*
自分たちは薪を組んだ。
ゲルト軍医だけが、オットーの傍に残った。
自分はそちらを見なかった。見ないようにしていたのではない。両手が塞がっていた。
板は釘が残っていて、手のひらを切った。
境の兵は、少し離れたところに固まって立っていた。
誰も手伝わなかった。誰も帰らなかった。
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「隊長!」
ゲルト軍医の声だった。これまで冷静だった男が叫んでいる。
「もう、長くは持ちません!」
「ここで焼きます」
手が止まった。
自分の手も止まった。
誰も、はい、と言わなかった。
「薪を」
隊長は、二度目は短く言った。
*
四人で持ち上げた。
自分は右の脚を持った。
首はゲルト軍医が持った。両手で挟むようにして、体より先に動かさなかった。持ち方を、そのとき初めて見た。
脚が動いているか、わからない。
昼に見たときは動いていた。踵が草を掻いていた。それを見て、生きている、と自分は思った。
今は、わからない。
*
油をかけた。
隊長が量を見ていた。かけ終わるまで、一度も目を離さなかった。
火は、隊長が入れた。
西のほうを見た。まだ立っていた。数は増えていない。近づいてもこない。
煙が低いところを流れて、草の色を変えていった。
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起きた。
*
腹のあたりから折れるように、上体だけが起きた。
声は出さなかった。
こちらを見た。
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自分は見ていた。
目が合ったかどうかは分からない。分からなかったが、目は開いていた。
それから、倒れた。
二度、薪を足した。
終わるまでの時間も、隊長が言ったとおりだった。
*
「生きてた!」
境の兵が言った。
「生きてる者を焼いたんだ! 見ただろ、あんたたちも見ただろ!」
隊の者は、誰も言い返さなかった。
前の列の者が、隊長を見ていた。
自分は、火を見ていた。
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「違います」
ゲルト軍医が言った。
「あの人は、死んでいました」
「見てたのかよ!」
「見ていました」
「いつだ!」
「薪を組み始めた頃です。息が止まって、それから胸に耳を当てました」
「……そんな」
ゲルト軍医は、短く、そして強く言った。
「本当です」
彼の顔には何も出ていなかった。
出ていないというより、間に合っていないように見えた。
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「じゃあ」
境の兵が言った。
「なんで起き上がったんだ!」
ゲルト軍医は口を開かなかった。
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「我々の仕事が、分かりましたか」
隊長が言った。
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自分は頷いた。
前の列の者も頷いた。隣の者も頷いた。
何が起きたのかは、分からないままだった。
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灰は集めた。
集めろとは言われていない。誰かが始めて、そのまま全員でやった。境の兵も一人、途中から入った。
杭の内側へ運んだ。
*
自分は、練兵場で聞いたことを思い出した。
焼くのは、亡くなった方だけですか。
あの朝、返事はなかった。




