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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第八章 ディオニュソスの昼想夜夢

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第95話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

アテナイ――


比叡山で1年の山籠りを終え、東海道の駅々で民の日常の尊さを学んで帰還したテセウスは、順調にその国力を押し上げていました。


彼がもたらした「木組みの一夜城」の強固な防衛力と、出汁スープを基本とした「衣食住の理」による豊かな食生活。


そして、何より民を慈しむ王としての背中は、アテナイの街をかつてない活気で満たしました。


そんな噂を聞きつけ、アテナイの城門を叩いた男が一人。


豊穣と葡萄酒の神、ディオニュソス様です。


「やあ、テセウス! 戻ったとは聞いていたが、まさかこれほど見事な国を作っているとはね!」


ディオニュソス様は、豹の皮を軽やかに羽織り、葡萄の蔦を髪に絡ませた気さくな風体で笑いました。


その手には、自らの権能で醸された、至高の葡萄酒の甕が抱えられております。


「君のその、泥にまみれて掴んできたという『新しき理(ことわり)』に、僕からの祝福を贈らせてくれ」


ディオニュソス様は、テセウスの大きな成長と、アテナイの目覚ましい発展を心から称賛しました。


そして、その並外れた恩恵はテセウス一人に留まらず、広場に集まったアテナイの市民たちにも惜しみなく振る舞われることとなりました。


「さあ、アテナイの皆! 新しい王の門出だ! 宴を始めようじゃないか!」


ディオニュソス様がパチンと指を鳴らすと、街の中央にある大噴水から、水の代わりに完熟した葡萄の芳醇な香りを放つ極上の葡萄酒が、なみなみと湧き上がり溢れ出します。


「ありがとうございます、ディオニュソス様。今までの我が身を恥じるばかりです」


テセウスは、かつての武勇に溺れていた傲慢な己を思い返し、静かに頭を下げました。


その目には、比叡山の冷気と東海道の土埃にまみれて磨き上げられた、真の王としての深い慈愛が宿っております。


「しかし、今の私には日の本で授かった叡智があります。


そのおかげで、アテナイの民は皆、飢えることなく健やかに、幸せに暮らすことができるようになりました。


さあ、このスープをどうぞお召し上がりください。


まだまだ日の本の味には及びませんが、いつかきっと、あの至高の領域へ……」


テセウスが差し出したのは、厨房でじっくりと引いた、昆布と鰹節の合わせ出汁をベースにした温かいスープです。


古代ギリシャの脂っこい肉料理とは一線を画す、透き通った琥珀色の液体から、湯気と共に優しく深い香りが立ち上ります。


ディオニュソス様は興味深げに器を受け取り、そのスープを口に含みました。


「――ほう! なんという芳醇な香りと、体に染み渡る優しい味わいよ!」


葡萄酒の神は目を見開きました。


舌を刺すような強い刺激ではありません。


しかし、喉を通った瞬間に内臓がじんわりと温まり、五感がじんわりと開いていくような、圧倒的な調和でした。


「驚いたな、テセウス。君がこれほどの理をその身に宿して帰るとは。


……だがね、その日の本に行ったゼウス様がな……」


ディオニュソス様は、少し呆れたような、しかしどこか愉快そうな笑みを浮かべ、時空を超えて届いたオリュンポスの最新の噂話を語り始めました。


最高神ゼウスが日の本へ乗り込んだものの、天照大御神様たちの完璧なハメ手により美しく自立したヘラ様に完全にゾッコンになってしまったこと。


そして「どちらかが浮気すれば即終了」という、過酷な三行半の理(ことわり)を突きつけられ、今は恐怖と未練の中で骨抜きになっていること。


ヘラ様自身もまた、日の本の美味に溺れていること。


その一連の説明を、テセウスは静かに、深く頷きながら聞いておりました。


驚きよりも、納得がいったような、晴れやかな苦笑いがその顔に浮かびました。


「やはりそうでしたか。……しかし、流石は天照大神様達だ」


テセウスは遠い東の空へと思いを馳せるように呟きました。


太陽の力をその身に宿しながら、庶民を愛する天真爛漫な主神。


高級スーツを着こなし、完璧な手回しで場を支配する闘神。


そして、かつてのテセウス自身の傲慢さを、数々の至高の美食(B級グルメ)と民の歴史で洗い流してくれた、底知れぬ愛と美味。


「ゼウス様であっても、あの御方々の前では形無しというわけですね。


……アリアドネ様も、今頃は素晴らしい笑顔で、その宴の中心にいるのでしょう」


テセウスは愛おしそうに目を細め、ディオニュソス様がアテナイの民へと振る舞ってくれた極上の葡萄酒の甕を見つめていました。


「ディオニュソス様。

この最高の葡萄酒に、我がアテナイが誇る新たな『出汁(だし)』を合わせた、最高の肴(おつまみ)を用意させましょう。


民たちと共に、さらに新しい宴を始めようではありませんか!」


王の力強い言葉に、アテナイの広場からは地響きのような歓声が沸き起こります。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

ゼウス様が日の本で骨抜きにされた噂を「知ってた」と晴れやかに納得しつつ、極上ワインと出汁のペアリングで新たな宴をブチ上げる古代アテナイが居酒屋化してます。


「ゼウス様が即座に時の人になってて草」、「ウチにもワインの噴水つくって」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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