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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第七章 ゼウス様の侵攻とヘラ様の予定調和

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第92話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

重苦しい沈黙が七里ヶ浜のリビングを支配する中、土色になった顔を床に伏せたまま、ゼウス様がぽつりぽつりと、掠れた声で語りかけました。


「へっ……ヘラ。我が妻よ。


……我が側に、居てくれぬか」


その言葉には、いつもの全能の最高神としての傲慢さも、お調子者の軽い響きも、一切含まれていませんでした。


ゼウス様は、今まで色んな女性に鼻の下を伸ばしては、ヘラ様の怒りの雷を食らうドタバタ劇を繰り返してきました。


それはどこかで「最後にはヘラが許してくれる」という甘え(予定調和)があったからです。


しかし、現世の洗練を極めたあまりにも美しい我が妻の、あまりにも冷徹な本気の問いかけを前にして、彼の脳裏には


「ヘラ様を失った後の、世界のすべてが灰色になるような激しい絶望」


が、ありありと理解できてしまったのです。


忘れていたはずの「美しい妻への純粋な恋心」。


それが、永遠の別れという奈落の縁(ふち)に立たされて、ようやく彼の魂の底から蘇ってきました。


ヘラ様がいなくなろうとしているという絶望の事実に、自分という男は絶対に耐えられないのだと…


ゼウス様は自らの愚行のすべてを呪いながら、心から悟ったのでした。


「……そなたを失うくらいなら、わしは全能の座などいらぬ……。


だから、どうか……側に居てくれ……」


涙をボロボロと畳にこぼし、本気で妻の愛を乞う「夫」として平伏するゼウス様。


(は、はわわわわ……っ!

ゼ、ゼウス様が……本気で大号泣しながら、ヘラ様への愛を乞うていらっしゃいますわ……っ!)


すぐ横で見守るアリアドネは、その最高神のあまりにも泥臭く、しかし嘘偽りのない本心の告白に、瞳を大きく丸くしました。


かつてテセウスが自分への悔恨を募らせていた姿を少しだけ重ね合わせ、静かにその行く末を見つめています。


「ヘラ様、あやつのこの涙……まこと本物のようじゃのう」


「ふふ、失う恐怖を前にして、ようやく真実の結び(愛)に気づくとは。


まこと世話の焼ける最高神じゃわ。


ヘラ様、このおのこの魂の答え……どう受け止められますのかえ?」


「ふん。よし分かった。

妾が必要なのであればいてやろう。


ただしっ!城の建築はすぐに履行せよ。

そしてこの地にも城とは言わぬが家を購入せよ」


ヘラ様は瞳にいつもの気高き輝きを戻して、畳に平伏するゼウス様へと冷徹ながらも確かな慈悲を言い渡されました。


「はっ……はいっ! す、すぐに!


明日にでもオリュンポスの神殿と、日の本の建築技術を結集させた至高の別邸を、この七里ヶ浜に購入します!」


ゼウス様は土色の顔に涙を流しながらも、正妻を失わずに済んだという安堵から、壊れたおもちゃのように何度も何度も激しく頷きます。


「ふふっ。イザナミ様、アマテラス様、アリアドネ。


どうやら妾は、この男に心底愛想が尽きた訳では無かったようじゃ」


ヘラ様は夫を見据えていた厳しい視線を和らげると、白く美しいお顔を少しだけ赤らめ、悪戯っぽい微笑みを女神たちへ向けました。


「かと言って、この男の不埒な行動にいちいち目くじらを立てるのも、もう疲れてしもうてのう。


よって……そなたらと一緒に、この美しき日の本を楽しませてもらいたいのじゃが……良いかのう?」


「勿論じゃ! 妾たちは良い友達になれそうじゃのう!」


「ふふ、これぞまこと、雨降って地固まる、という理(ことわり)じゃな。


ヘラ様、これからはあの愚か者を留守番に据えて、いつでも日の本の酒や素戔の美味しいつまみを一緒に囲みましょうぞ」


「はわわ……っ! ヘラ様、本当に、本当に良かったですわ!


これからはわたくしが、いんたーねっとと動画で学んだ日の本の最高の観光名所を、たくさんヘラ様にご案内して差し上げますわ!」


ゼウス様の度し難い愚行から始まったこの大騒動。


しかしそれは、ヘラ様の現世での究極の女神へのプロデュース、


そして日の本の神々やアリアドネとの「時空を超えた至高の女子会の絆」


という、これ以上ないほど賑やかで温かい大団円へと繋がっていたのです。


「ん? ほれ。もうよいぞ? オリュンポスに帰ったらどうじゃ?」


ヘラ様はソファで小さくなっているゼウス様をツンと冷ややかに見下ろしました。


「い、いえ、あの……そなたと…一緒に帰りたいのだが……」


ゼウス様が床に膝をついたまま、消え入りそうな声で不意打ちの言葉をヘラ様に喰らわせます。


色んな女性に鼻の下を伸ばしてきた最高神が思い出した「本心の恋心」。


それが、子供のように真っ直ぐで不器用な一言となって口から漏れ出たのです。


「……っ!?」


ヘラ様のお顔が思わずポッとなってしまいました。


美しい横顔が夫からのあまりにもストレートな熱い視線に、林檎のように真っ赤に染まっていきます。


まさかここで、ろくでもない浮気夫から本気の恋慕をぶつけられるとは思っていなかったのです。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

全能の座を投げ捨てて号泣懇願し、城と別荘をしっかり毟り取られつつも許されたゼウス様。女子会追放エンドかと思いきや、最後の「一緒に帰りたい」という不意打ちで、ヘラ様をまさかの赤面でした。


「城と別荘を請求するヘラ様の抜け目のなさは良き」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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