第87話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「よし、これより妾プロデュースによる『ゼウス様黒焦げ大作戦』を敢行するぞ!」
天照大御神様が高らかに宣言しました。
その作戦とは、アリアドネちゃんをプロデュースし、イザナミ様とともにイザナギパパを完璧にハメ倒したあの伝説の再現です。
現世の洗練された力を、今度は正妻ヘラ様へと注ぎ込むのです。
リビングのテーブルを埋め尽くしたのは、天照大神様が自らの審美眼で選び抜いた、現世最高峰のコスメティクス。
そして、ハンガーに美しく掛けられた、タイムレスで洗練された衣服の数々です。
一番乗り気になっているのは、他ならぬヘラ様ご自身でした。
「ヘラ様、まずはこのファンデーション。肌に溶け込むような透明感を仕込んで、その美しい瞳を際立たせるアイラインを引きますぞ」
「まあ……! なんですの、この吸い付くような筆あたりと、高貴に香るリップは……」
天照大神様とアリアドネの手際よいブラシワークによって、ヘラ様の肌に極上の艶が宿っていきます。
仕上げにイザナミ様がヘラ様に纏わせたのは、現代日本の洗練を極めた、カッティングの美しいエボニードレス。
密やかに計算されたカッティングが、ヘラ様の砂時計のアワーグラスシルエットのような気高いプロポーションを、まるで大理石の彫刻のように冷徹なまでに美しく浮き彫りにしていました。
プロデュースが完了し、ヘラ様がゆっくりと姿見の前へ歩みを進めます。
その瞬間、見慣れたリビングが、彼女一人のために用意された最高峰のランウェイへと変貌を遂げました。
圧倒的な気品と大人の色香を孕んだその存在感は、ただそこに立つだけで世界をひざまずかせるに十分な気品を放っております。
オリュンポスの女神、アフロディーテ様の完璧な美しささすら霞ませる、現代の洗練を味方につけた「絶対的な極上美」
「こ……これが、妾……?」
鏡に映る、見違えるほどモダンで、凛とした知性を感じさせる自分の姿。
ヘラ様はその陶器のような肌を微かに上気させ、ただ圧倒されるように、鏡の中の自分と視線を交わし続けていました。
「完璧ですわ、ヘラ様! あの好色なカブトムシの親玉、自分の妻であるとも夢にも気づかずに、この七里ヶ浜で鼻の下を伸ばして全力で口説き出すに違いありませんわ!」
アリアドネが笑い声を弾ませます。
「ふふ、自分の妻とは知らずに必死に口説き文句を並べる最高神の姿……まこと極上の見世物じゃな。
ヘラ様、あやつが手を出してきた瞬間に、その雷をヘラ様の激しい神撃に変えて、骨の髄まで本性を炙り出してやりましょうのう」
イザナミお姉様も妖艶な笑みを浮かべていらっしゃいます。
「妾たち4柱の絶世の美女軍団で盛大に出迎えてやるからのう!
あやつの悶絶する様が今から実物じゃわ! ふはははは!」
と天照大神様も冷たいビール缶を掲げて大爆笑。
「……ヘラ様も、完全にノリノリじゃねえか。ゼウスの親父、マジで現世の藻屑にされちまうな……」
素戔嗚尊様は、この世の終わりを予感させる肉食女子たちの恐るべき団結力と悪巧みの熱気の前に、ただ一人肝を冷やしているのでした。
京都の柔らかな朝の日差しが藩邸に差し込む中、ゼウス様は実に心地よくお目覚めになりました。
昨日の深酒が少し頭に残るものの、リビングから漂ってくるなんとも食欲をそそる香りに誘われ、お腹を鳴らしながら食卓へと向かいます。
「おお、これはまこと芳しい。二日酔いの我が身に、この香りは優しく染み渡るようではないか」
そこに用意されていたのは、大国主様がゼウス様のために特別に手配した、京都の名料亭の朝粥でした。
「酒の翌朝は胃が休まるものが一番ですからな。さあ、温かいうちにどうぞ」
大国主様が白磁の器を差し出します。
ゼウス様がとろみのついた出汁餡がかかった温かいお粥を一口、お口へと運びました。
「なっ……なんだこの優しさは……っ!
濃厚な出汁の旨味が、お米の甘みと完璧に溶け合っておる!
昨日のおばんざいも至高であったが……
日の本の朝食、まこと五臓六腑に染み渡る奇跡の味わいではないか!」
ゼウス様がその滋味深い美味さに感激しながら朝粥をハフハフと平らげていると、大国主様が手元のスマートフォンを見ながら、何食わぬ顔で微笑みかけました。
「喜んでいただけて何よりです。
さて、ゼウス様がお探しのお美しい天照大神様ですが、現在は鎌倉(七里ヶ浜)にある邸宅にいらっしゃいます。
今から私がそちらの邸宅まで、ゼウス様を責任を持ってお送りいたします」
「おおっ! まことか大国主殿! 天照大神がおる場所へか!
すぐに送り届けてくれるとは、そなた、どこまで気が利く男なのだ! フハハハ!」
ゼウス様は、まさか大国主様が七里ヶ浜の「女子会本部」と連絡を取り合い、自分を黒焦げにするためのトラップの真っ只中へと送り届けようとしているなどとは夢にも思わず、朝粥の美味さと美女への期待で完全に上機嫌になって高笑いを響かせました。
大国主様はすぐさま高級黒塗りのセダン(鉄の獣)を用意させると、運転手に京都駅まで自分とゼウス様を送り届けるよう静かに指示しました。
車内に案内されたゼウス様は、滑るように走る近代的な鉄の獣の滑らかさに驚きます。
さらに到着した京都駅の巨大なガラスと鉄骨が織りなす現代建築の威容を目にした瞬間、言葉を失って驚愕しました。
(……むう。兄上が言っていた忠告が頭をよぎるな。
この国は一体何なのだ。
このまま天照大神とやらの元に向かって、本当に大丈夫なのであろうか……)
全能の神としての傲慢さに微かな影が差し始めたその時、ホームに白銀の流線型をした新幹線が静かに、しかし圧倒的な質量を伴って滑り込んできました。
「わし、ヤバいかも……」
心の中で思わず現世の言葉でそう呟いてしまうほど、ゼウス様の心は激しく揺さぶられていました。
こんな巨大で意味不明なテクノロジーを持つ国の頂点に座す女神に会うなど……
本当にわしの来るところではなかったのではないか?!
と徐々に底知れぬ不安に苛まれていきます。
新幹線が走り出し、その速度が時速200キロ、250キロと狂気じみた早さへ上がっていくのを見て、ゼウス様はさらに焦りを募らせました。
このままでは何一つ対策もできぬまま到着してしまう。
そう危惧した彼は、一計を案じました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
現代メイクとドレスで絶世の美女へフルカスタムされ、夫を合法的に消し炭にする気満々のヘラ様。一方「わし、ヤバいかも……」と最後の命綱も容易に手放すゼウス様でした。
「ゼウス様、あなたの直感は正しかった。それ以上に好色センサーが優秀だっただけです。ドンマイ!」、「わたしもアフロディーテ様クラスにプロデュースして欲しい…」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




