第83話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「ほう……我が命を聞かぬと申すか……」
全知全能のゼウス様は、威圧するように長い髭を震わせ、不機嫌そうに眉根を寄せました。
そうすると瞬く間にアテナイの空に漆黒の暗雲が立ち込めました。
王宮の窓の向こうでは凄まじい雷鳴が響き渡り、雹が降り始めます。
それはまるで世界の終焉を思わせるほど凄まじい光景です。
素戔嗚尊様の背筋が凍るような絶望的な神力を直接浴びたことのあるテセウスですら、生きることを即座に諦めるほどの神力と威厳が満ちております。
しかしゼウス様はその神の眼でじっとテセウスを観察するうちに、その不快感を好奇心へと変えていきました。
「貴様、ただの人間かと思っていたが……
我が兄ポセイドンの血が混ざり、さらには……よくわからぬ奇妙な神気までその身に纏っておるな。
そのほう、一体どこでそれほどの神力を得た?」
かつてミノタウロスを屠っただけの若造とは、放つ覇気の格が違いました。
ゼウス様はテセウスの衣服の奥から放たれる、素戔嗚尊様から影響を受けた圧倒的な闘神の気配、
そして家康公の理を宿した為政者としての揺るぎない佇まい、
そこに底知れぬ不気味さを感じ取っていました。
「よし、貴様の言うことを聞いてやろうではないか。
アテナイの美女たちへの祝福は、ひとまず置いてやる」
ゼウス様はパチパチと指先で小さな電撃を遊ばせながら、フッと不敵な笑みを浮かべました。
この一風変わった若き王への好奇心が勝ったのです。
「だが、何がそこまで主を変えたのか、この儂に詳しく話すがよい。
どのような戦い、どのような知見が、ただの略奪者だったそちをそこまでの王へと仕立て上げたのだ?」
玉座にどっかりと腰掛け、顎を撫でながらテセウスを見据えるゼウス様に対してこう申し上げます。
「流石、全知全能を誇るゼウス様。
私の秘密を暴き、さらにアテナイの女性への祝福を保留されるというご寛大なるお言葉。
私などとは器の格が異なります」
テセウスは不敵なニコリとした笑みを浮かべ、日の本の洗練されたエスコートを思い出しながら、ゼウス様へ酒を差し出しました。
「おお、気が利くではないか。 ただの堅物かと思えば、なかなか分かっておるな!」
これまでの不機嫌さが嘘のように、全能の神は「そうかそうか!」
と上機嫌になって大きな杯を煽り、テセウスとの歓談を始めました。
美味い酒が喉を潤すにつれ、玉座の間の張り詰めた空気は、いつの間にか男同士の熱い談義の場へと変わっていきます。
しかし、ゼウス様は杯を置くと、そのぎらついた全知の瞳を再びテセウスへと向けました。
「して、そなたがやり遂げた戦略戦術の数々、
そしてアテナイの構造や民たちの心まで一瞬で変えたあの手腕……。
テセウスよ、いくら我が兄であるポセイドンの血を引くとはいえ、貴様1人の力ではあるまい?
その裏にある、そちを導いた真の『影』を話すがよい」
全知全能の最高神としての鋭い洞察力が、テセウスの背後にいる巨大な存在を確かに捉えていました。
ゼウス様から確信に満ちた問いをぶつけられたテセウス。
「ゼウス様……とても語り尽くせぬことが幾重にもございました……」
テセウスは静かに胸に手を当て、服の感触を指先に確かめながら、その目から涙を流して語り始めました。
全能の神の威圧を前にしても、彼の言葉には一点の曇りもありません。
「私はアリアドネという、かつては戦利品だと思っていた女性……
今では誰よりも恩を感じている女性と、遥か未来の地で出会ったのです。
クロノス様のイタズラでしょうか。
ハデス様、ペルセポネ様に導かれたその地で、私は完膚なきまでに叩き落とされました。
しかし、至高の慈悲の手により救われたのです……」
「なに……? 冥府の兄上とペルセポネが、そちを遥か未来の地へ導いたと申すか……?」
ゼウス様は持っていた杯をピタリと止め、テセウスの涙に濡れた端正な顔をじっと見つめました。
未来の国、そしてかつて捨てたはずの王女アリアドネへの深い恩義。
古代ギリシャの残酷な英雄譚からは決して生まれ得ない、そのあまりにも清廉で瑞々しいテセウスの言葉の響きに、全能の神は背筋に微かな戦慄を覚えます。
「その未来の地……日の本という国には、圧倒的な質量と技術を宿した主神たちが座していらっしゃいました」
「私は自らの矮小さを知り、そこで『衣食住足りて礼節を知る』という泰平の理を、身を以て学んできたのです」
「大将の首を瞬時に狩り取ったあの絶技も、民を豊かにする旨みのスープも、すべてはその地で授かった宝のおかげにございます」
テセウスは胸元に仕舞い込んだICカードと、素戔嗚尊様から授かった神気が脈打つスマートフォンの存在を強く意識しながら、自らを真の王へと引き上げてくれた日の本への尽きぬ崇敬を語り尽くします。
「ふむ。至高の国であるか……」
全知全能のゼウス様は深く、長く顎を撫でながら、テセウスが語る日の本という未知の国家の威容に言葉を失っていました。
しかし、あらゆる愛憎と情欲の機微を見透かしてきた全能の神の直感は、テセウスの告白の奥底に隠された、もう一つの「決定的な気配」を鋭く嗅ぎ取ります。
ゼウス様は杯を乱暴に卓へ置くと、低く、しかしすべてを射抜くような声でニヤリと唇を歪めました。
「して、テセウスよ、そなたの言葉の端々から漏れ出る、その熱を帯びた含み(色気)……。
それは、今や恩人となったアリアドネに対するものではないな? 」
「そなたが胸を焦がし、恐れ慄きながらも焦がれておる不埒な情熱……
それは、アリアドネ以上の女、そしてそなたでは逆立ちしても決して手の届かぬ絶対的な女の存在を示唆しておるぞ」
全知の神の指摘に、テセウスの顔が、一瞬にして真っ赤に染まりました。
(……見透かされておる。あの新富士の駅前で仰ぎ見た富士山、そして比叡山の山道で、
地球の質量を宿しながら『そなたが強いおのこならば抱かれてやろう』
と私を煽り散らした、あの日の本の最高神・天照大神様の絶対的な美しさを……!)
若き王の背中に、冷たい汗と同時に、3000年の修行へのプロローグとなる熱い執念がドッと駆け巡ります。
「ゼウス様、それは……っ」
「フハハハ、図星か! 面白い、まことに面白いではないかテセウス!
全能の私ですら一度拝んでみたくなるような至高の女神が、その未来の地に座しておるのだな!」
ゼウス様が不埒に目を輝かせて上機嫌に高笑いする中、テセウスは胸元に眠るスマートフォンをぎゅっと握りしめます。
いつか自らがその絶対的な太陽の質量を支えられるほどの「真の神」となって彼女の前に現れる未来の誓いを、心の奥底でさらに固めていました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
ゼウス様の雷雲威圧を日の本仕込みのエスコート術でいなし、見事な王道プレゼンをキメたテセウス。しかし、好色を極めた全能の神に「アマテラス様への妄想」を秒で見抜かれ、嫉妬でアマテラス様攻略(3000年筋トレ)への特大フラグを打ち立ててしまいました。
「ナンパの神にアマテラス様取られそうで焦る元英雄」、「祝福にいちいち『ナンパ』のルビをふられる最高神草」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




