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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第六章 アテナイの英雄、真の凱旋と受難

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80/129

第80話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

アテナイの戦場で初陣を飾った、秀吉ゆずりの「一夜城」の木組み技術。


それは一度きりの奇策にとどまらず、テセウスの指示によってさらに、ますます洗練されたものへと進化を遂げていきました。


職人たちが研鑽を重ねたその木組みは、分解して容易に持ち運びができる、かつてない「移動式の堅牢な砦」へと昇華されたのです。


バルバロイの残党や敵国から見れば、それはまさに悪夢そのものでした。


昨日まで何もない荒野だった場所に、夜が明ければ突如として「神の意志」によって配置されたかのような巨大な砦が出現するのです。


そして、そこから統制されたアテナイの兵が湧き出て、恐るべき剣技を持つテセウスを先頭に、敵の指揮官の首をあっという間に取ってゆく。


力による略奪しか知らなかった古代の戦士たちは、この未知の戦術の前に震え上がりました。


さらに、テセウスが提示した「捕虜の処遇」は、戦場の心理を根底からひっくり返す絶大な効果をもたらしていました。


投降した兵たちは、かつての味方(バルバロイ)と戦わねばならないという、最初は非常に苦しい立場に追いやられました。


しかし、アテナイの将兵は彼らの前線での働きを見て「奴らもやるではないか」と溜飲を下げ、わだかまりを少しずつ消していきます。


そして何より、捕虜たち自身が、戦わねば後ろの味方に殺されるという「恐怖の挟撃の呪縛」から、テセウスの慈愛によって完全に救い出されたことを確信していました。


もう後ろから味方に殺される心配などない。


彼らはその心の辛さを踏み越え、自分たちを人間として扱ってくれたテセウスのために、死に物狂いで盾となり槍となって戦い抜いたのです。


そして、戦い切った捕虜たちに対して、テセウスはさらなる驚愕の布告を行いました。


「約束通り、戦い抜いたお前たちの枷をいま外す。


ここからは自由だ。


国へ帰るか、それともこのアテナイで市民として働くか、自ら選択するが良い」


奴隷として売られるのが当然の時代に、突きつけられた「自由な選択権」。


戦いの中でテセウスの器の大きさと、配られた温かい食事の美味さに魂を打たれていた兵たちのほとんどが、涙を流してアテナイへの恭順を示しました。


それどころか「故郷に残してきた家族をこの豊かなアテナイへと連れてきたい」と懇願する者。


「これ以上、かつての仲間と血を流し合うのは忍びない、


私が前線に立ち、彼らに投降を促す説得の役目を引き受けたい」


と申し出る者まで現れ、戦わずして敵を味方に変える慈愛の連鎖が爆発的に広がっていったのです。


徳川家康公が300年の泰平を築いたあの「民を想う王の心」が、古代ギリシャの荒々しい大地を、確実な豊かさと平和の光で包み込もうとしていました。


その頃、七里ヶ浜のリビングでは――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスが移動式木組み砦を自在に操り、捕虜たちの心を完璧に掴んで「家族を連れてきたい!」「投降を促したい!」


とアテナイ中に大感動の嵐を巻き起こしている素晴らしい名君の映像が、リアルタイムで届いていました。


「キィィィーーーッ!!! な、なんですのそのウルトラハイパー完璧な人心掌握術はーーーっ!?」


アリアドネは服の袖をバタバタと振り回しながら、リビングの絨毯の上で激しくゴロゴロとのたうち回って絶叫しました。


「悔しいですわ! 悔しすぎますわ!


敵を味方に変えて、家族まで連れてこさせるなんて、テセウス様のくせに!


歴史の教科書に10ページくらい大特記で載るレベルの聖人君子のような統治をしていますわーーーっ!!


格好良すぎて、

本当に、本当に生意気ですわーーーっ!!」


地団駄を踏みながら顔を真っ赤にしてパニックになるアリアドネちゃん。


「う、ううっ……。アリアドネ様、だから私、そんなに生意気でしょうか……?


私はただ、貴女の手紙に恥じぬ王になりたくて、


必死に家康公の理(ことわり)を真似ておるだけなのですが……ぐすん」


ソファの隣で現代テセウスが顔を涙でボロボロと濡らし、アリアドネちゃんの全開の理不尽なやきもちの前に、またしても心がポキポキに折れて小さく丸くなってシクシクと泣き始めてしまいました。


3000年かけて究極の神に進化してきたというのに、愛しい神子の「テセウス様のくせに!」

という威嚇の前に、一瞬でメンタルが赤子のように無力化されています。


「ふはははは! テセウス、泣くな泣くな!


アリアドネちゃんはただ、そなたが自分の想像の遥か上を行く名君になっていくのが、悔しくてたまらんだけじゃ!


移動式の木組み砦とは、まこと面白い知恵を編み出したのう!」


天照大御神様が大笑いして、泣いているテセウスの背中をバシバシと力強く叩いてなだめます。


「ふふ、敵の呪縛を解き、信頼を与えて軍務に就かせる。


これぞまさに、衣食住足りて礼節を知る、を体現するための揺るぎなき第一歩じゃな。


アリアドネちゃん、そんなにジタバタしては現代のテセウスの涙が止まらぬぞよ」


イザナミ様も泣いているテセウスに「ほれ、美味しいお寿司をお食べ」と優しく箸を差し向けていらっしゃいます。


「移動式の砦か、秀吉の一夜城をさらに戦術進化させやがったか。


やるじゃねえか。おいテセウス、そんなに泣くなって。


ほら、お前が仕込んでいるっていう、あの『衣食の内政改革の小さな種』


これがどう民に植え付けられていくのか、俺も楽しみだぜ」


素戔嗚尊様が泣いている「弟分」のグラスに冷たいワインを注ぎ足しました。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

移動式一夜城と家康流の温情統治で、教科書10ページ級の聖人君子へ昇格した過去テセウス。一方七里ヶ浜では、元彼の完璧な人心掌握に大暴れするアリアドネちゃんと、またしてもメンタルを粉砕されて神々にお寿司とワインで介護される3000年物テセウスの限界保育園が爆誕しました。


「3000年鍛えた神が元彼女の八つ当たりで即メンタル崩壊は草」、「お寿司を勧めるはんなりイザナミ様エモい」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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