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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第六章 アテナイの英雄、真の凱旋と受難

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第79話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

全ての将兵がその圧倒的な力と器の前にひれ伏し、アテナイの城内は決戦を前にして、不気味なほどに静まり返っていきました。


アテナイの命運をかけた、歴史的な夜が明けようとしていました。


まだ夜闇が深く漂う中、テセウスは選りすぐりの少数精鋭と職人たちを率い、音もなくアテナイの裏門から出撃。


敵の警戒網の裏をかき、密かに川を上って敵の背後へと回り込みました。


「よし、今だ! 合図を送れ!」


テセウスが静かに命じると、川上からあらかじめ用意させておいた木組みのパーツと木材が次々と水流に乗せて流されます。


川下で待ち構えていた職人たちと兵がそれを受け取り、蔦でガチガチに締め上げ、凄まじい手際で組み上げていきました。


夜明けの薄明かりが地平線を紫に染める頃、そこには堅牢極まる「一夜城」の威容が忽然と姿を現したのです。


太陽が昇り、朝の光が戦場を照らし出したまさにその時、背後に突如出現した未知の砦を前に、バルバロイの軍勢はパニックに陥り、視線を一斉に後ろへと集中させました。


ブォォォォーーーーーッ!!!


絶妙なタイミングで、アテナイの城内から高らかな法螺貝の音が大地を震わせて鳴り響きました。


「突撃ーーーっ!!!」


城門が開き、籠城していたアテナイの本隊が、怒濤の勢いで敵の前方へと突撃を開始します。


「前方の敵に目を奪われたな。我が歩み、ここが正念場だ!」


敵の意識が前後に分散し、完全に大混乱に陥ったその刹那、テセウス自らが先陣を切り、電光石火の速さで敵の陣形を切り裂いて突入しました。


日の本の合戦の理を宿したテセウスの動きは、古代の戦士たちには見たこともない動きだったのです。


スピードを重視した軽い皮の鎧に細長い槍と、盾のようにも使えるマライカ(短剣)のいでたち。


そして馬にはめた鞍(くら)と鐙(あぶみ)。


そもそもテセウス自身がミノタウロスを屠った剛の者です。


そんな者が数千年先の理を少しでも生かせば、それだけでとてつもないアドバンテージです。


そして電光石火の動きで敵の大将を眼前に捕らえました。


ヒュンッ!!! パシャッ!!!


一瞬にして、勝負は決しました。


「アテナイの戦士たちよ! 敵将の首は、このテセウスが打ち取ったぞーーーっ!!」


テセウスが敵将の首を高く掲げ、天を突くような凄まじい鬨(とき)の声を上げると、大将を失ったバルバロイの軍勢は完全に戦意を喪失し、我先にと大壊走を始めました。


「全軍出撃! 敵を追撃せよ!」


その声を合図に、アテナイの全軍が波のように押し寄せ、殲滅戦へと転じます。


しかし、テセウスの真の名君たる器は、ここからの戦後処理にこそ光り輝いていました。


「投降を求める者は決して殺すな! 武器を捨てた者は生かせ!」


彼の厳格な指示通り、降伏した無数の敵兵たちには逃亡防止の枷こそはめられたものの、虐殺されることも奴隷として扱われることもありませんでした。


彼らは丁重に扱われ、城外の安全な場所に集められると、テセウスの手配によって、温かい食事と水がすぐに与えられたのです。


戦わねば後ろの味方に殺されるという呪縛から解放され、温かいお粥やスープを口にした捕虜たちは、テセウスの広大な慈愛の前に、涙を流して平伏しました。


激戦が予想されたバルバロイとの決戦は、なんと昼を待たずに完璧な大勝利で幕を閉じてしまったのです。


これまで力と血の歴史しか知らなかったアテナイの将兵たちすら、「ここまで上手く事が運ぶとは……」と、我が目を疑うほどの圧倒的な完全勝利でした。


その頃、七里ヶ浜のリビングでは――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスがアテナイの戦場で秀吉の一夜城と信長公の電撃戦を融合させ、


昼を待たずにバルバロイを完璧に無力化し、捕虜たちに温かい飯を与えて「家康公の泰平の理」


を完璧に体現している名君としての映像が、リアルタイムで届いていました。


「キィィィーーーッ!!! な、なんですのその完璧すぎる大勝利はーーーっ!?」


アリアドネは服の袖をグギギと引っ張りながら、リビングの絨毯の上で激しくゴロゴロと、まるで子供のように大暴れを始めました。


「悔しいですわ! 悔しすぎますわ!


秀吉様の一夜城も、法螺貝の突撃のタイミングも、降伏した捕虜に温かいお食事を与える優しさも、


すべて日の本で学んだことを完璧に使いこなしてアテナイの歴史を大英雄として塗り替えてしまっていますわーーーっ!!


テセウス様のくせに格好良すぎて、本当に生意気ですわーーーっ!!」


地団駄を踏みながら顔を真っ赤にしてパニックになるアリアドネちゃん。


「あ、あの……アリアドネ様? 私、そんなに生意気でしたでしょうか……?


3000年前の私は、貴女の手紙の教えを胸に、必死で民のために戦っていたのですが……ううっ」


ソファの隣で「現代の真の神テセウス」がガーンと大きなショックを受けて、


片隅にぽつんと小さく丸くなってシクシクと泣き始めてしまいました。


3000年かけて究極の漢に進化してきたというのに、愛しい神子の全力の理不尽なやきもちの前に、一瞬で心がポキリと折れてしまったのです。


「テセウス、気にするでないわ!


アリアドネちゃんはただ、そなたのあまりの格好良さに猛烈にやきもちを焼いて悶絶しておるだけじゃ!


まこと見事な指揮っぷりじゃったぞ!」


天照大御神様がビール缶を掲げて大笑いしテセウスの肩をポンポンと叩いてなだめます。


「ふふ、捕虜を思いやるその心、まこと家康公の泰平の理がその血肉になっておる証拠じゃな。


アリアドネちゃん、そんなにジタバタしては、現代テセウスが可哀想じゃろう。よしよし」


イザナミ様もアリアドネをそっとなだめつつ、泣いているテセウスに新しいお酒を注いでいらっしゃいます。


「あいつ(昔のテセウス)、昼前にケリをつけやがったな。


おい今テセウス、泣くなって。


お前の初陣、最高に格好良かったぜ。ほら、美味い鯛の刺身でも食いな」


素戔嗚尊様が泣いている「弟分」の皿に魚介料理を取り分けました。


アリアドネの全開の悶絶に、現代のテセウスがシクシクと泣いて神々になだめられるという、かしましくもシュールで温かい騒ぎに包まれる七里ヶ浜の邸宅でした。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

戦国戦術と一夜城で敵を午前中で撃退した過去テセウス。一方七里ヶ浜では、元彼の完璧すぎる活躍に大暴れするアリアドネちゃんと、泣かされて刺身で慰められる3000年物カブトムシのシュールな光景です。


「戦国チートで午前退勤は草」「3000年物のメンタルを秒で折るアリアドネが最強」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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