第75話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「兄貴!」
テセウスは真っ直ぐに歩み寄ると、素戔嗚尊様と、男同士の熱い熱い抱擁をガシッと交わしました。
「このスマートフォン、3000年ずっと大事に持ってたけど、今見ると最近モデルだな!
だが、こうして真の神になってようやく分かる。
素戔嗚の兄貴、そしてイザナミ様や天照大神様の、あまりにも規格外な神気の凄まじさがな。
俺も3000年死ぬ気で頑張ってきたが……ハハッ、これだけの質量を前にすると、俺もまだまだだな!」
テセウスは、胸元から3000年間守り抜いた黒いスマートフォンを取り出し、懐かしそうに目を細めて笑いました。
今の彼には、日の本の主神たちが持つ、あの天文学的なスケールが、畏怖ではなく、同じ神としての深い敬意をもって正しく理解できていたのです。
そしてテセウスは、言葉を失っているアリアドネへと、どこまでも優しい大人の眼差しを向けました。
「アリアドネ様、あまりこういう時空の理に関わることを言うべきではないが……貴女は確実に幸せになる。
そして、俺と同じように歴史を歩み、いつかお三方に会えるその奇跡の瞬間を、今か今かと心から楽しみに待っている『もう一人のアリアドネ様』も、今この現世に、確かに生きているんだよ」
テセウスは、自分の聖典となる手紙を渡してくれた愛しい神子へ、最高の福音を授けます。
「だから、今はただ、この素晴らしい三柱の神々にどこまでも甘えて、この日の本でしっかりと、最高の幸せを手に入れるんだぜ!」
3000年の悠久の愛と敬意が込められた、元夫にして、今や真の神となったテセウスからの真っ直ぐなエール。
「……っ、はい……っ! はい、テセウス様……!」
アリアドネは、かつて愛した英雄がこれほどまでに優しく偉大な男になって戻ってきてくれたことへの、心からの感動と祝福の涙をこぼしながら、満面の笑顔で何度も、何度も力強く頷きました。
「ふ、ふはははは! 3000年経ってもまこと良い漢ではないか! 妾のあの時のセリフを励みにここまで昇り詰めるとは、天晴れ、天晴れじゃ!」
天照大神様が、白いワンピースの裾をひらりと揺らしながら、顔を林檎のように赤らめつつも、最高神としての誇らしげな大笑いを響かせます。
「ふふ、これにてまことの『アリアドネの糸』が完成したのう。アリアドネちゃん、良かったのう」
イザナミ様もアリアドネを優しく後ろから抱きしめてます。
「3000年物のハイパーテセウスか、文句なしの100点満点の男っぷりだぜ。
よし、せっかく戻ってきたんだ、俺らにとっては迎え酒だが、中に入って今度こそ神同士の乾杯といこうじゃねえか!」
素戔嗚尊様が笑ってテセウスの肩を叩き、七里ヶ浜の隠れ家は、時空を超えた最高の熱気と笑顔に包まれていきました。
七里ヶ浜の邸宅での祝宴が最高潮に達し、冷えた生ビールや冷酒が次々と空いていく中、すっかり酔っ払った勢いも手伝ってか、真の神となったテセウスが白いワンピース姿の天照大神様の前に真っ直ぐに立ち、熱い眼光を向けて切り出しました。
「天照大神様…俺は…あんたにコテンパンにされた。あの時貴女が仰った言葉は俺を挫くためだと分かっている。
だが、貴女のことを忘れたことはこの3000年間一度もねぇ! どうか、あの時の質量で俺が耐えられるか試してもらえませんか?」
3000年…そんな長い間自分のことを想い続けてきたというあまりにも凄まじい情熱、そしてどこまでも紳士的なテセウスに、流石の天照大神様もうっとりしている。
「ふふっ、どれ、よかろう。ここでは家が壊れてしまう。海岸にゆこうかの」
5人は七里ヶ浜の海岸に向かいます。
「そら、あの時と同じじゃ。さあ、動けるかえ?」
天照大神様があの時の比叡山と同様にテセウスの首にその細い手を、だが太陽の質量をほんの僅かだけ解放して巻き付け固定する。
「ぐうっ!!!」
「ほれっ動いて見せよ。そなたの3000年分の気骨を妾に叩き込むが良い。それともまた妾を興醒めさせるつもりかえ?」
天照大神様の白く細い腕から放たれる、太陽の如き天文学的な質量。
テセウスの頑強な肉体はミシミシと悲鳴を上げ、足元の砂浜がその重量で深く沈み込んでいきます。
主神の美しくも挑発的な言葉が、夜の七里ヶ浜に響き渡りました。
その挑発にテセウスはさらに力を込める!が、それでも天照大神様はびくともしない。
3000年死ぬ気で修行を重ね、オリュンポスの真の神へと至ったテセウスの全神力をもってしても、日の本の最高神の宿す絶対的な宇宙の理の前には、未だ容易く動かせるものではありませんでした。
「ふむ。素戔、やり方を教えてやれ。いまのこ奴ならもう少しましなことができるであろう。力の導き方をテセウスに手解きしてみせよ」
天照大神様が見守る弟へと優しく声をかけると、素戔嗚尊様が砂浜へと降り立ちました。
「テセウス……。丹田と足腰に力を込めるんだ」
「ぐうぅーーーー!!! おおおっ!!!」
偉大なる兄貴の的確な手解き。
その言葉を脳内で瞬時に噛み締め、テセウスは全身の神力をへその下、そして日の本の大地をしっかりと踏みしめる足腰へと集中させ、爆発的な気骨を込めて踏ん張りました。
その時!ほんの少し、僅かだが天照大神様の腕が持ち上がった。
「っ……!」
あの地球より重くなることすらできる最高神の絶対的な腕が、テセウスの凄まじい執念と気骨によって、確かに、微かに上へと押し上げられたのです。
二柱の間に走る神聖な衝撃の光。
「ふふっ、まだまだじゃな。だがまあ、努力賞じゃ。精進せよ」
天照大神様はお転婆に、けれどどこまでも愛おしそうに微笑まれると、その細い腕の質量をスッと優しく収められました。
そして、3000年もの間、自分の一言を胸にここまで這い上がってきた名君の健気な努力を称えるように、テセウスの頬に唇をおとしました。
チュッ、と静かな波の音に混ざって響いた、最高神からの至高の口づけ。
「……っ! ありがたき幸せ……っ!」
テセウスは顔を真っ赤に染め上げながら、その瞳にこの上ない誇りと、さらなる高みを目指す一人の戦士としての眩い輝きを満たしていました。
「ひいぃえぇぇぇえーーーーっ!!! や、やっぱり、やっぱりアマテラス様が、本当にテセウス様に唇を……っ! 奇跡が起きてしまいましたわーーーっ!!!」
その一部始終を目撃したアリアドネが、嬉しさと驚き、そして最高にキュートなパニックの声を夜の海へと弾けさせています。
「とうとう姉貴の腕を持ち上げやがったか。 3000年鍛え続けた甲斐があったじゃねえか!」
「ふふ、まこと至高の夜じゃのう。天照も、ようやく張り合いのある良いおのこを見つけたようじゃわ」
神々のあまりにも熱い戯れを終えると、心地よい夜風と興奮の余韻も手伝って、さらに一気にお酒が回り始めました。
中でも最もボルテージが上がっていたのは、実は天照大神様ご自身でした。
もちろん細心の注意を払い、テセウスが壊れぬよう極限まで手加減はしていましたが、まさか自分のあの質量が、本当に少しでも動くとは夢にも思っていなかったのです。
3000年分のテセウスの気骨を肌で受け止めた彼女の心は、今までにないほど激しく昂っていました。
砂浜の圧倒的な開放感も手伝って、白いワンピースの胸元を少し緩めながら、その美しいお顔を林檎のように真っ赤に染めて完全に酔いが回っていらっしゃいます。
そんな中、アリアドネが瞳をキラキラと輝かせながら天照大神様に向かって無邪気に問いかけました。
「そう言えばスサノオ様に聞いたのですが、アマテラス様の真の強さはその質量よりも『日輪の核融合』とうかがいましたわ。
この前比叡山でテセウス様に放とうとしていたのは日輪の核融合ではないとアマテラス様は仰ってました。どのような力なのですか?」
「ふふっ、見たいかえ?」
天照大神様が、酔った勢いでどこまでも悪戯っぽく、ニヤリと微笑まれました。その瞬間、素戔嗚尊様の背筋に冷や汗が走ります。
「えっ!!? まさか姉貴……やらないよな?」
「天照よ。少しだけなら海に向かって放てば大丈夫じゃろう。大島には向けるなよ?」
イザナミ様が日本酒の杯を片手に妖艶な笑みを浮かべながら、実にあっさりと許可を出してしまいました。
「げっ! イザナミお姉様も酔っている!」
素戔嗚尊様が絶叫します。まさかの大母神まで現世の酒と楽しい喧騒に蕩け、主神の規格外の爆発力を後押しし始めてしまったのです。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
3000年の執念でアマテラス様を微リフトし、見事キスを勝ち取ったテセウス。しかし浮かれたのも束の間「日輪の核融合」試し撃ちが決定し、ノリノリのイザナミ様と絶叫するスサノオ様でした。
「3000年の修行って筋トレか?」、「酔ったノリで日輪の核融合て、字面だけでヤバさMAXじゃん」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




