第72話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「ふはははは! まこと見事な大団円じゃな! 素戔、これでこやつの旅もおしまいじゃ!」
天照大御神様が白いワンピースの裾を揺らしながらビール缶を掲げて豪快に笑います。
「ICカードも日の本の美味と歴史探求のためにきっちり使われたみたいだしな。良い漢になったじゃねえか」
素戔嗚尊様も笑顔でテセウスの肩をポンと叩きました。
「よし!。今日は俺が料理を振る舞ってやる。
テセウス。お前は女性たちをエスコートしろ。
冷蔵庫に酒がある。
重いやつは後だ、先ずはビール、そして好みによって焼酎か日本酒、焼酎の割り方は俺に相談しろ。
今日は魚介なんで洋酒はなしだ。
お前も飲みながらでいいからリラックスして、楽しみながらやってみろ」
素戔嗚尊様が、力強くそう宣言しました。
テセウスの旅を温かい目で見守ってきた頼もしい大将が、今度は最高の宴を仕掛けるべく、キッチンで腕捲りを始めます。
「はっ、はい兄貴!」
「……あっ、兄貴ぃ?!、まあいいわい、ぶははっ!」
これまでの素戔嗚尊様の男気から思わず「兄貴」と呼んでしまったテセウス。
自分の口の滑り方に、顔を真っ赤にして狼狽します。
天照大神様が高笑いをリビング中に響かせました。
「ふははははっ!素戔を兄貴と呼ぶか! まこと面白いおのこじゃな! よしテセウス、妾は先ずはそのキンキンに冷えた麦酒を所望するぞ!」
「ふふ、では妾は、その日本酒を冷やのままいただこうかのう。テセウス、よろしく頼むぞよ」
イザナミ様も、漆黒のワンピースから美しい手をそっと差し向け、妖艶な大人の微笑みでテセウスを優しく促します。
「は、はい! アマテラス様、イザナミ様! 今すぐ麦酒と日本酒をお注ぎいたします!」
テセウスはリュックをそっと置き、素戔嗚尊様から教わった「エスコート」を胸に、真摯に動き出しました。
冷蔵庫を開け、金色のビール缶をパッと開き、まずは天照大神様のグラスへ美しい泡の黄金比率で注ぎ込みます。
「わ、わたくしは、昨夜いんたーねっとでお勉強した、あの『しんかんせん』の中でみんなが飲んでいた冷たいサイダー割りをいただきますわ!
テセウス様、わたくしにもお給仕してくださいまし!」
アリアドネも悪戯っぽく瞳をキラキラと輝かせながら、楽しそうにグラスを差し出しています。
「どちら様ですか?」と笑い合えるほどの絶対的な安心感の中で、彼女のやきもちの受難は、最高に幸せな祝宴の熱気へと完全に昇華されていました。
「今日は七里ヶ浜の獲れたて魚介料理をバンバン作ってやるからな! テセウス、お前も自分の分のビールを開けて飲んでおけ!」
キッチンから素戔嗚尊様の男らしくて温かい声が響く中、テセウスも自らのグラスにビールを注ぎ、白い泡の髭をつけながら、現世の至高の宴に心からの笑顔を弾けさせます。
己の矮小さを知るために始まった東海道のグルメ旅。
それが、いつしか時空を超えた神々と一人の王女の心を繋ぎ、七里ヶ浜の夕暮れを最高の笑顔で包み込む、至高のハッピーエンドへとたどり着いた瞬間でした。
素戔嗚尊様は丸々と肥えた見事な鯛を取り出し、流れるような包丁さばきで一瞬のうちに三枚におろしていきました。
手際よく引かれた美しい刺身は、乾かぬようにラップをされ、締めの楽しみに向けて一度冷凍庫へと収められます。
そして、テセウスを東京駅まで迎えに行く道中に仕入れておいた、寿司の折詰がテーブルへと華やかに並べられました。
さらにベランダの炭火からは、醤油の芳ばしい香りを爆発させるサザエや、パカッと口を開けた大ぶりの蛤が網の上でジューシーに踊り始めます。
「ほら、ギリシャ出身のお前らのためだ。日の本のタコを味わってみな」
素戔嗚尊様が差し出したのは、新鮮なタコのぶつ切りに、上質なオリーブオイルと岩塩、ハーブをハラリと振った、シンプルながらも素材の暴力を活かした一皿。
さらに、とっておきのワインを「タコにはやっぱりこれだろ?」と、冷やしておいた白ワインをボトルごと、このタイミングでサプライズとして卓上へ滑り込ませました。
「……っ! 素晴らしい……! 故郷の海の香りが、この日の本の至高のタコの旨味と完璧に調和しております……!」
テセウスがその憎すぎる演出と美味さに瞳を丸くして大感激し、アリアドネも「まぁ……! スサノオ様、どこまでスマートなんですの……!」と、その完璧なエスコートぶりにうっとりと胸をときめかせます。
「なっ……! おのれ素戔! そんな格好良い演出を用意しておったとは、生意気じゃーーーっ!!」
すでにビールで良い気分に酔っ払っていた天照大御神様が、白いワンピースをはためかせながらお転婆にぷりぷりしてます。
「久しぶりにこれじゃーーーっ!」と、楽しそうに笑いながら素戔嗚尊様の背後へと飛びつき、愛の溢れるガチガチのコブラツイストを容赦なく仕掛け始めました。
「お、おい姉貴! ワインはタコのための特別枠だっての! 痛い痛い、ギブギブ!」と闘神が悶絶します。
イザナミ様が漆黒のワンピースを揺らしながら「ふふ、今夜もまこと賑やかな宴じゃのう」と妖艶な笑みを浮かべて日本酒の杯を傾けていらっしゃいます。
波の音が優しく響く七里ヶ浜の夜。
これほどまでに温かく、そしてかしましい日の本の神々の宴の真ん中で、テセウスはグラスを片手に、心の底から楽しそうに大笑いしながら、とめどなく温かい涙を流していました。
かつて犯した傲慢な過ちのすべてが、アリアドネの優しい「どちら様ですか?」という赦しとこの国の美味。
そして神々の広大なる慈愛によって完璧に洗い流され、一人の「真の漢」「真の王」として、本当の意味での和解を果たすことができたのです。
宴の灯りは、夜が更けるまでどこまでも温かく、七里ヶ浜の海を優しく照らし続けていました。
七里ヶ浜の夜が更け、最高の魚介料理とお酒に酔いしれた一行は、心地よい満腹感と幸福感に包まれたまま、いつの間にかリビングのふかふか絨毯やソファの上で雑魚寝するように眠りについていました。
やがて、水平線の向こうからまばゆい朝日がゆっくりと昇り、七里ヶ浜の海をキラキラと黄金色に染め上げていきます。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
スサノオ様を思わず「兄貴」と呼んで健気に給仕をこなすテセウス。イケメン演出に嫉妬した酔っ払いアマテラス様が弟へガチのコブラツイストをキメる中、全員で雑魚寝して最高の朝を迎える大団円となりました。
「スサノオを『兄貴』呼びして舎弟化する元英雄もパシリ枠か?」、「アマテラス様、コブラツイスト俺にもかけて欲しい!ってのは死亡フラグ?」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




