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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第六章 アテナイの英雄、真の凱旋と受難

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第68話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

熱海が誇る最高峰の魚介料理をたらふく平らげ、胃袋も魂も完全に満たされたテセウス。


明くる日の朝、彼は駅前の足湯にどっぷりと浸かりながら、名残惜しそうに熱海の温泉街を見つめていました。


「ふぅ……まこと離れがたい極上の湯であったな」


と、かつてアテナイのテルマエを愛した漢として、日の本の湯の文化を心底気に入った様子で至福の吐息を漏らします。


湯を後にし、次に向かったのは、神奈川の歴史ある要衝「小田原(おだわら)」。


小田原駅の改札を出て、近代的な街並みの向こうに堂々とそびえ立つ小田原城へと歩みを進めたその瞬間、テセウスの表情がこれまでにないほど神妙なものへと引き締まりました。


リュックを背負い直した彼の肌が、周囲の空気に過敏な反応を見せます。


「……ふむ。ここは掛川や駿府と同じく、まこと歴史ある重厚な地のようだが……なぜだ。


肌にまとわりつくような、どこか陰惨な気がこの地に蔓延しておるように感じる。


ただの勘ではない……この大地の底から、かつての無念や哀しみが微かに響いてくるようだ」


一年の比叡山での山籠り、そしてこの日の本の神々と民の優しさに触れる求道旅を経て、テセウスには単なる野生の勘だけでなく、その土地が持つ「歴史の本質を見抜く力」までもが備わりつつあったのです。


テセウスがその本能的な直感で察知した通り、ここ小田原は、かつて日の本を統一せんとした天下人・豊臣秀吉の22万もの大軍勢による泥沼の総攻撃と、恐ろしい調略(小田原征伐)が張り巡らされた地。


難攻不落を誇った北条氏が、籠城の末に骨肉の争いと絶望の決断を迫られ、一族の栄華とともに滅び去ったという、凄絶で陰惨な悲劇の歴史が刻まれた場所だったのです。


月光や太陽の輝きとは対照的な、人間の野心と執念がぶつかり合った歴史の生々しい残光。


その頃、七里ヶ浜の邸宅では――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスが小田原城の堀端に立ち、腕を組んで「この地の底にある悲哀の気配……」


と、日の本の歴史の闇の本質を鋭く見抜いて神妙な顔をしている思念が、リアルタイムでリビングへと届いていました。


「おっ! あのカブトムシ、小田原の戦の陰惨な気配にまで気づきおったかえ?


まこと、ただの若造とは思えぬほど、この国の歴史と土地の心を深く吸い込み始めておるな!」


天照大御神様が驚きを口にします。


「わ、わたくし……小田原のそんな悲しい歴史、いんたーねっとでもまだ調べていませんでしたわ……っ」


アリアドネも、隣で天照大神様に寄り添いながら、瞳を丸くしています。


テセウスが美味しいB級グルメだけでなく、日の本の「為政者としての光と影」を泥臭く真摯に学び取り、一人の真に気高き王(おのこ)へと確実に覚醒しつつある現実に、畏怖と感嘆を禁じ得ません。


「ふふ、秀吉のあの容赦なき大包囲網の歴史を、異国のおのこが肌で感じ取るとはのう。


素戔、あやつはまこと見どころのある漢に育っておるわ」とイザナミお姉様がお茶をすすります。


素戔嗚尊様も「ああ、ただの観光客じゃあの気配には気づかねえ。あいつ、本気でこの国の心を刻み込んでやがるな」と感心していました。


小田原が持つ歴史の重みと悲哀をその身に深く刻み込んだテセウスは、再び新幹線へと乗り込み、ついに神奈川の巨大な関門「新横浜(しんよこはま)」の地へと降り立ちました。


改札を出て駅前に広がっていたのは、これまでの古都や城下町とは全く毛色の異なる、どこまでも機能的で直線的な近代都市の威容でした。


「ふむ……。ここは古くからの中心地ではないのだな。様々なインフラを結びつける役割を持った、新しく、そして大きく急成長している地……。


しかし、その発展の速度は、他の地を遥かに凌駕しておる。


この国は、過去の歴史にすがるだけでなく、未来へ向かう足取りをもこれほど凄まじい速さで進化させているのか……!」


ガイドブックの解説と、目の前にそびえ立つ高層ビルや立体交差する未来的な道路網を照らし合わせ、テセウスは日の本の「現在進行形の圧倒的な国力」に驚嘆します。


そんな中、歩き疲れた彼の目に留まったのは、街角に佇むお馴染みの「黄色と黒のコーヒーショップ」の看板とコクのある香りに引き寄せられてます。


テセウスは少しずつ洗練させてきた紳士的な足取りでコーヒーショップの扉を静かに開けました。


「すまぬ、この『こーひー』というものを一杯頼む」


ICカードでピッとかざして会計を済ませ、手渡された白いカップを手にカウンター席へと腰掛けます。


古代ギリシャには存在しなかった、漆黒の液体から立ち上る、どこまでも香ばしく深い香りに鼻腔をくすぐられながら、ゆっくりと一口、口に含みました。


「……っ! 苦い……! しかし、なんと奥深い気高き苦味なのだ……!」


最初はこれまでにない大人の洗練された苦味に少し目を丸くしたテセウスでしたが、二口、三口と飲み進めるうちに、その苦味の奥にある豆の芳醇なコクと、頭がすっきりと冴え渡っていくような不思議な安らぎに、深く、深く目を細めます。


「はあ……素晴らしいな。この苦味を楽しめるようになってこそ、真の大人、真の旅人というものか……。


日の本の民は、このような日常の小さな休息の場にすら、これほどの洗練を忍ばせているのだな……」


すっかり現代の「珈琲」の味を覚え、窓の外を行き交う人々を眺めながら、一人の求道者として深く静かに安らぎのひとときを噛み締めるテセウス。


世界一の首都・東京は、もう目と鼻の先です。


その頃、七里ヶ浜の邸宅では――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスが新横浜のコーヒーショップで、カップを片手に「珈琲、まこと深い味わいだ……」


としみじみと感動し、大人の気品を漂わせている都会的な思念が、リアルタイムでリビングへと届いていました。


「なっ……なっ……! あ、あのカブトムシ、いつの間にかわたくしもまだ入ったことのないコーヒーショップで、そんなに格好よく、お洒落にコーヒーを嗜んでいますわーーーっ!!」


アリアドネはラップトップの画面の前で、再びやきもちと悔しさで激しくジタバタと悶絶を始めました。


「悔しいですわ! 悔しすぎますわ!


わたくしがお家で『お顔だけの子』を見ながら 動画サイト の沼でバタバタしている間に、テセウス様のくせに新横浜の最先端の発展を感じ取って、


そんな大人の文官のようなスマートな顔をして休息を取るなんて、生意気すぎますわーーーっ!!」


地団駄を踏みながら悔しがるアリアドネ。


そんな彼女の横で、天照大御神様が「珈琲の味が分かるとは、あやつもなかなかの通(つう)になってきたではないか!」と笑っております。


イザナミ様も「ふむ、新横浜のあの急速な進化の息吹を肌で感じ取るとは、まこと優れた王の勘じゃな。


アリアドネちゃん、よしよし、今度素戔に美味い珈琲を淹れてもらおうかのう」とアリアドネの頭をなでていらっしゃいます。


「あいつ、次はついに品川か。お姉様方もアリアドネちゃんも、あいつの最後の東海道の歩み、しっかりと見届けてやろうじゃねえか」


素戔嗚尊様がアリアドネに冷たいサイダーを差し出しながら、テセウスの成長に目を細めていました。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

小田原で歴史の影を察知し、新横浜の「お洒落なカフェ休憩」を先回りされたアリアドネちゃんは、悔しさのあまりいつものようにジタバタと悶絶してます。


「アリアドネちゃんは珈琲も砂糖入りだよ」、「テセウス、歴史よりそこは小田原蒲鉾だろ」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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