第67話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「ひ、ひぃえぇぇぇえーーーーっ!!!
3000年物の、本物のウルトラハイパーカブトムシが、
本当にこの世界のどこかに潜んでいるかも知れませんわアマテラス様ーーーっ!!!」
アリアドネも、その時空を超えた最悪のシミュレーション(?)に完全にパニックを起こし、天照大神様と寄り添いガタガタと面白おかしく怯え惑います!
「テセウス様のくせに、3000年間もお姉様のあの煽り文句を支えにして神の領域を目指しているなんて、一途すぎて不気味ですわ! 怖いですわ!
でもなんだか、ほんの少しだけ格好よすぎて悔しいですわ天照大神様ぁぁぁーーーっ!!」
「うむ……っ、あやつ、そこまで妾に抱かれに(蹂躙しに)くる情熱を3000年も燃やし続けておるとしたら、さすがの妾も……うう、まこと身の危険(?)を感じるのじゃ……っ!」
二柱と一人が揃って顔を真っ赤にしてブルブルと震えるリビング。
「ふふ、時の理を超えた壮大なお話じゃのう。素戔、そなたまこと面白い仮説を立てるわ」
イザナミ様だけが、笑みを浮かべていらっしゃいました。
「まあだからそんなにヤツをいじるのはやめた方がいいって話さ。
今はただの崇拝者、信者なんだから温かく見守ってやりゃいいのさ。
本当に見どころのある奴に育ってきてるじゃないか」
お茶を啜り直しながら、素戔嗚尊様が話を締めくくりました。
闘神でありながらも、一歩一歩この国の理を学び、魂を磨き上げている男の気骨を、一人の戦士として評価していたのです。
「う、うむ……。そうじゃな。あやつ、今はただの敬虔な妾の信者じゃからな。
これ以上いじって妙な方向にさらに開眼されても困るし、ここは大きく構えて見守ってやるのが最高神の器というものじゃ!」
天照大御神様は、弟の最もな正論に激しく何度も頷き、ようやく赤面とソワソワを落ち着かせて主神らしい(?)威厳を少しだけ取り戻されました。
「……はわわ。そうですわね、スサノオ様のお仰る通りですわ」
アリアドネも、素戔嗚尊様のどこまでも頼もしい一言に、ようやく瞳のパニックの光を収め、抱きしめていたクッションから顔を上げてホッと深く胸をなでおろしました。
(テセウス様がどれほど格好よく進化しようとも、今はただ、お姉様方やわたくしに心から平伏しているだけの迷える旅人……。
わたくしがここで変にやきもちを焼いてジタバタするなんて、それこそカブトムシ相手に大騒ぎする子供のようで、少し恥ずかしいですわね……おほんっ!)
アリアドネは表情を緩め、ラップトップの画面を穏やかな「カブトムシ観察日記」の目で見つめ直します。
「ふふ、これにて落着じゃのう。まこと日の本の味と歴史は、異国のおのこの魂をもここまで真っ直ぐに育てるのだから、大したものじゃ、そなた達の研鑽の賜物よのう」
イザナミ様は、平和に戻ったリビングの空気と天照大神様、素戔嗚尊様の育てた日の本に嬉しくも誇らしげなご様子でした。
そんな、七里ヶ浜からのどこまでも温かい(?)視線で見守られているなどとは夢にも思わず、テセウスは新幹線を下り、湯煙の立ち上る熱海の地へと堂々たる一歩を刻みました。
駅前を歩き出すと、そこかしこから漂う温泉の独特な香りと熱気が、彼の肌を優しくなでます。
ガイドブックの地図をめくり、そこに記された現世の言葉を目にした瞬間、彼のギリシャの記憶が鮮烈に呼び覚まされました。
「ぬおっ! この地には『テルマエ(温泉)』があるのか! 我が故郷の公衆浴場にも勝るとも劣らぬ、素晴らしい湯の文化がこの国にも根付いているのだな!」
テセウスは嬉しそうに目を輝かせ、ICカードを握りしめて温泉宿へと向かいました。
服を脱ぎ去り、広大な海を一望できる絶景の露天風呂へと足を踏み入れます。
青空の下、滾々と湧き出る熱々の湯船へと身を沈めれば、一年の山籠りの疲れ、そして新幹線での緊張が、湯気とともに一瞬で空へと溶けていきました。
「ふう……極楽とはこのことか。……おお、素晴らしい。ネクタル(ソフトクリーム)の物量の暴力に苦しんでいた我が腹も、この名湯の温もりによってすっかり元に戻ったようだな!」
テセウスは温かいお湯でお腹をさすりながら、彫刻のような見事な肉体を湯船に横たえ、心からの安堵の笑みを浮かべます。
湯上がりの極上の空気に包まれながら衣服を整えると、完全に復活を遂げた強靭な胃袋が、今度は猛烈な飢えの信号を送り始めました。
「腹もすっかり戻ったことだし、ガイドブックにある、この海の街の至高の『地魚料理』とやらをいただくか! 港町の新鮮な海の恵み、とくとこの身に刻んでゆこう!」
一人の旅人として、熱海の活気溢れるお魚横丁へと向けて、意気揚々と歩き出す超絶美形オタク旅人・テセウスでした。
その頃、七里ヶ浜の邸宅では――。
天照大神様の細工を通じ、テセウスが熱海の露天風呂で「テルマエ最高ーーー!」
と至福の顔で湯に浸かり、完全復活したお腹をさすりながら
「次は地魚海鮮だ!」
と目を輝かせている穏やかな求道者の思念が、リアルタイムでリビングへと届いていました。
「ふふん! テセウス様、熱海のテルマエで身を清められましたのね。
わたくしたちが白浜でクエ料理を食べて温泉に浸かったあの極上の足跡を辿るなど、一人の旅人としてはなかなか殊勝な心がけですわ!」
アリアドネは、素戔嗚尊様の一言ですっかりパニックを落ち着かせ、今度は少しお姉さんぶった「カブトムシ観察日記」のドヤ顔を画面に向けていました。
しかし、テセウスがこれから熱海が誇る圧倒的に新鮮な「地魚海鮮料理」の聖地へと足を踏み入れようとしている事実に、彼女の瞳はまだ興味津々で瞬いています。
「ずずっ……。うむ、あやつの腹も無事に戻って何よりじゃな。やはり旅の基本は健やかな身体からじゃ」
天照大神様がお茶をすすり、イザナミ様、素戔嗚尊様も、一人の見どころのある男の順調なグルメ旅の様子を、リビングの特等席からのんびりと眺めていらっしゃいました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
スサノオ様の正論で「3000年物ウルトラハイパーカブトムシ」の恐怖から解放され、お姉さん面で観察日記を再開するアリアドネちゃん。
「ウルトラハイパーカブトムシとかいう新種は捕まえたい」、「熱海で地魚海鮮を狙う略奪者の目は良き」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




