第63話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
静岡での深い誓いを胸に、テセウスを乗せた新幹線「こだま」号は、次なる途中下車の駅、新富士へと滑り込みました。
しかし、駅のホームに降り立ったテセウスは、自らの強靭な肉体に訪れた異変を感じていました。
実は、昨夜の満喫で快適な空間に興奮するあまり、あの甘美なソフトクリームを大きめの紙コップであおるようにおかわりし、トータルで20数杯も胃袋に叩き込んでいたのです。
さしもの英雄テセウスといえども、現代日本の冷たく甘い物量の暴力には勝てず、お腹がパンパンに膨れてなかなか空く気配がありません。
「うぐっ……さすがに、あの神々の白いネクタル(ソフトクリーム)は、我が身体の許容量を超えていたようだな……」
お腹の不調に少し顔をしかめながら、テセウスがふと駅舎の窓の外を仰ぎ見た、その瞬間、彼の目に、この世のあらゆる建造物や山脈を過去にするほど、圧倒的で壮麗な光景が飛び込んできました。
日本の至高の象徴――白雪を美しく頂く、雄大な富士山です。
遮るもののない青空に向かって、完璧な裾野を広げて凛とそびえ立つその美しさを前に、テセウスは理由が分からないまま、ただただ呆然と立ち尽くし、その目から涙がぽろぽろとこぼれ落ちていきました。
(……おお、なんという神聖な美しさなのだ。人間の手など、そして我が武力など到底届かぬ、絶対的な美がそこにある……)
テセウスは涙を拭いながら、その気高くも全てを優しく見守るような富士山の姿に、かつて比叡山で宇宙の質量を見せつけてくれた天照大御神様、そして自分を赦し、この素晴らしい国へと導いてくれたアリアドネの姿を重ね合わせていました。
しかし、ここで彼が一睡もせずに深夜まで貪り読んだ、日の本のサブカルチャー(動画やアニメ)の濃密な影響が、とんでもない形で炸裂してしまいます。
テセウスの脳内で、この大自然の最高峰の活火山である富士山が、あろうことか天照大神様とアリアドネとして擬人化され、脳内再生され始めたのです!
「おおっ……! 天照大神様、アリアドネ様、私は貴女様方に、本当に許されない不埒な無礼をしてしまいました……!
しかし、このように貴女様方(富士山)の、お美しいお姿を遠くから見る権利だけは、この無礼者に残してくださったのですね……っ!」
どこをどう間違えば、あの雄大で巨大な富士山が天照大神様やアリアドネに見えるのかは宇宙の謎ですが、一年の山籠りとオタク沼のコンボを経た彼の脳内では、富士山 = 天照大神様 = アリアドネ、という完璧な図式がガッチリと成り立ってしまったのでした。
テセウスは富士山に向かって、感涙にむせびながら深く頭を垂れています。
その頃、七里ヶ浜の邸宅では――。
天照大神様の細工を通じ、テセウスが新富士駅のホームで、ソフトクリーム20杯でお腹を壊して青い顔をしながらも、富士山を指さして「お、お姉様……アリアドネ様……っ!」
と涙を流して熱く擬人化・妄想している凄まじくカオスなオタク的思念が、リアルタイムでリビングへと届いてしまいました。
これを受信したアリアドネの、本日最大級の面白おかしい理不尽な絶叫が、七里ヶ浜の大気をビリビリと震わせます!
「ひいぃえぇぇぇえーーーっ!!! あ、あのカブトムシ野郎ーーーっ!!
とうとう、天照大御神様とわたくしを、
あの大きな山(富士山)に擬人化しはじめましたわーーーっ!!!」
アリアドネはリビングの絨毯の上で激しくゴロゴロと大暴れを始めました。
「な、なんですのそのぶっ飛んでいる脳内は!
お腹を壊してソフトクリームのバチが当たっているくせに、富士山を見てわたくしたちの美しさを讃えて涙を流すなんて、テセウス様のくせに発想がオタクすぎて生意気ですわ!
気持ち悪いですわ!でもなんだかちょっぴり悔しいですわーーーっ!!」
地団駄を踏みながら顔を真っ赤にしてパニックになるアリアドネ。
そんな彼女の横で、天照大御神様が「富士山が妾とアリアドネちゃんとな! あやつ、まこと面白い男に育っておるぞ!
妾をあの美しい富士に例えるとは、なかなか見る目があるではないか! ふはははは!」と冷たいビールをひっくり返しそうになりながら大爆笑しております。
イザナミお姉様も「ふふ、ソフトクリームを20杯もおかわりするからお腹を壊すのじゃ。
でも、あのおのこ、まことピュアにアリアドネちゃんを崇めておるのう。よしよし」と、アリアドネを優しくなだめていらっしゃいます。
「あいつ、ネットカフェの一夜で完全に脳内が日の本のサブカルに侵食されちまったな。富士山=姉貴とアリアドネちゃんか…」
と素戔嗚尊様がある種の諦観を込めてささやきました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
とうとう富士山を「アマテラス様&アリアドネ」へ脳内擬人化して感涙するオタク・テセウス。自分を勝手に活火山にされたアリアドネちゃんは、相変わらず絨毯を転がり散らかしてます。
「『うぐっ……さすがに、あの神々の白いネクタル(ソフトクリーム)は、我が身体の許容量を超えていたようだな……』は作者の心の声だろ?」、「擬人化テセウスの重症オタク化、日の本のサブカル底なし沼にようこそ!」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




