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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第五章 テセウスのB級グルメ旅とアリアドネの受難

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第58話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

彼は胸元から、何度も読み返したあの封筒をそっと取り出します。


 この日の本の国を旅しなさい

 そして己の矮小さを知りなさい

 さようなら


またしても、「さようなら」の文字がチクリとテセウスの胸を刺しました。


そして、それと同時に、これほどまでに洗練された世界を見通し、己の見識を高めてくれる気高い女性を、自らの傲慢さゆえに逃してしまったという猛烈な悔恨が、彼の熱い胸をぎゅっと締め付けます。


「くっ……。だが、この日の本は、旅をすればするほど我の曇った目を開眼させてくれる。


そして己の矮小さを知れば知るほど、逆に己の見識がどこまでも広がっていくのがわかるのだ。


ここはアリアドネ様に従い、一駅ごとに、この偉大な日の本を深く噛み締めるべきであろう!」


アテナイの元王としての浅はかな効率主義を捨て去り、一人の真摯な求道者として向き合う覚悟を決めたテセウス。


そのアリアドネへの思いはインフレーション気味にますます曇ってゆくのだが、それに気付くものは誰もいない。


「そうと決まれば、次は三河安城だ! 世界一の鉄の獣(自動車)を生み出す産業の地。

とくとこの身に刻んでゆこう!」


彼は「こだま」号へと足を踏み入れ、一駅ずつの丁寧な下車の旅を選択しました。


その頃、七里ヶ浜の邸宅では――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスが「次は三河安城! 産業の地!」


と熱い眼光を輝かせ、さらに三河から浜松へと続く「うなぎ地帯」の存在をガイドブックで予習し始めている思念が、リアルタイムでリビングへと届いてしまいました。


これを受信したアリアドネの、最高に面白おかしい理不尽なやきもちが天元突破のさらにその先へと大爆発します!


「てっ……テセウス様が、私の知らない異次元に向かっていますわーーーっ!!」


アリアドネは素戔嗚尊様が作ってくれた手羽先の骨の山を前に地団駄を踏み、わなわなと身悶えをはじめました。


「三河安城!? 自動車!? なんですのその鉄の獣の理(ことわり)はーーーっ!?


そして……このまま東へ一駅ずつ進まれたら……わたくしの大好きな……


あの浜松や豊橋の『鰻(うなぎ)』まで、あのチキン(手羽先)野郎に蹂躙されてしまいますわーーーっ!!!


悔しいですわ、絶対にチキン野郎に蹂躙されたくありませんわーーーっ!!!」


テセウスが「一駅ずつ噛み締める」という硬派な旅人の姿勢に目覚め、さらには自分たちが涙を流して感動したあの至高の鰻重や櫃まぶしの聖地へとじわじわと迫っている現実に、対抗心が完全なるパニックへと昇華されています。


「朝から本当に忙しいカブトムシじゃな」

と天照大神様がビール片手に大笑いし、


イザナミ様も「ふむ、あのおのこ、まこと素直に育っておるのう。


アリアドネちゃん、そんなに悔しいなら、また素戔に美味いものをねだるが良い」


と妖艶な笑みを浮かべてアリアドネの頭を撫でてます。


「はいはい、あいつが三河安城の洗礼を受けている間に、ネットで美味い鰻の調べ方、もっと詳しく教えてやるからな」と素戔嗚尊様が優しくアリアドネを諭します。


三河安城駅へと滑り込んだテセウスは、リュックを背負い直し、ガイドブックが示す次なる学びの地へと向かいました。


新幹線を下りて少し離れた場所にある、日の本の産業の結晶、自動車展示会場に足を踏み入れます。


一歩その空間へと足を踏み入れた瞬間、テセウスの前に現れたのは、磨き上げられた金属のボディを持つ、色鮮やかで美しい「鉄の獣(自動車)」の数々でした。


「なっ……なんなのだ、この精緻極まる造形は……!?」


テセウスは我が目を疑い、じっとその車体を見つめます。


古代ギリシャのいかなる名工、あのヘパイストス様であっても、これほど寸分の狂いもなく金属を成形し、車輪を滑らかに回転させることなど到底不可能です。


動力の仕組みを読めば読むほど、それが人間の手によって生み出されたものだという現実に、ただただ圧倒されるばかりでした。


「とてもではないが……今の我らの技術では、真似できるものではない」


テセウスは深く息を吐き、己の生きた世界の技術の限界を静かに悟ります。


しかし、彼の胸にある戦士としての熱い魂は、絶望ではなく、ある種の「開眼」を迎えていました。


(いや、待てよ。これは我が国のアテナイにある『戦車(チャリオット)』の、遥かなる延長線上にある理想の姿ではないのか……!?


より速く、より安全に、多くの民を運ぶための情熱。その戦車の理想を何千年も研ぎ澄ませ続けた先に、この美しき鉄の獣があるのだな!)


ただ圧倒されるだけでなく、人間の情熱が紡ぎ出した歴史の延長線上にその理想を見出したテセウス。


彼は日の本の「ものづくり」の根底にある凄まじい執念と知恵に、深い敬意を抱かずにはいられませんでした。


その頃、七里ヶ浜の邸宅では――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスが「鉄の獣は戦車の延長線上……!」

と目に涙を浮かべながら、鉄の獣の最新技術に心からのリスペクトを捧げている熱い求道者の思念がリアルタイムで届いていました。


案の定、これを受信したアリアドネは理不尽なやきもちが爆発してます!


「キィィィーーーッ!!! な、なんですのその格好いい解釈はーーーっ!?


鉄の獣を見て『戦車の延長線だ!』なんて、テセウス様のくせに歴史の連続性をスマートに感じ取っていますわーーーっ!!」


アリアドネはマウスをカチカチと叩きながら、リビングの絨毯の上で激しくのたうち回っています。


「悔しいですわ! 悔しすぎますわ!

わたくしだって、素戔嗚尊様が運転してくださったあの格好いいゲルマニアの最高級車の心地よさを知っていますのに、あんなふうに『ものづくりの理想』なんて概念に一人で辿り着かれるなんて、


カブトムシのくせに生意気ですわーーーっ!!」


地団駄を踏みながら悔しがるアリアドネ。


天照大神様が「うむ、あやつの曇りなき眼(まなこ)での学び、まこと見事じゃのう!」とお茶をすすってます。


素戔嗚尊様は「テセウスの奴、なかなかいいたとえをするじゃねえか。戦車の延長線上か、気に入ったぜ」とアリアドネの頭を優しくなでていらっしゃいました。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

三河安城で自動車を「戦車の延長線」と解釈して開眼するテセウス。一方、迫り来る鰻の危機と元英雄の無駄な精神的成長に、アリアドネちゃんがパニックを起こしています。


「アリアドネがとうとうチキン野郎呼ばわりし出したな」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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