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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第五章 テセウスのB級グルメ旅とアリアドネの受難

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第51話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

ホテルに戻ったテセウスは、ベッドに腰掛け、購入したばかりのガイドブックを貪るように読み進めていました。


一年の山籠りを経て、文字を追うその眼光は真摯そのものです。


本には、この日の本には「コンビニ」という場所よりも、遥かに多くの「社(やしろ)」が存在すると書かれていました。


「はて、コンビニとは?? 何かよくわからぬが……」


首を傾げつつ、数万社、数十万社と言われる社の歴史や由来を熱心に読み解いていくテセウス。


しかし、その根源的な神話のページに差し掛かったとき、彼の指がピタリと止まりました。


そこには、何度も、何度も、外せない最高峰の存在として、ある固有名詞が躍っていたのです。


「天照大神(あまてらすおおみかみ)。素戔嗚尊(すさのうのみこと)。…………っ」


静まり返ったホテルの部屋に、テセウスの頬から一筋の冷や汗がポタリと滴り落ちました。


「アマテラスオオミカミ……スサノウノミコト……。

聞き覚えがある、いや、聞き覚えどころではないぞ……!」


テセウスの脳裏に、あの鴨川と比叡山の山道での恐るべき記憶が鮮烈に蘇ります。


自分を赤子のように鷲掴みにして吊し上げたアトラスの如き影を、アリアドネがあの時涙を流しながら「素戔嗚尊(すさのうのみこと)様」と呼び、


そして、宇宙の如き圧倒的な質量と絶対的な熱波を放ちながら、己を消し炭にしようとしていた絶世の美女を「天照大神(あまてらすおおみかみ)様」と、


確かに、確かに呼んでいたではないか。


「ふっふっ……ふっふはははは! なんと! なんと我は、この巨大な日の本の主神様達に、あのような不埒な無礼を働いていたのか……!」


今更になり、自分がどれほど恐ろしい日の本の中心たる最高神たちに牙を剥き、そして生かされていたのかを知り、全身にゾクゾクと凄まじい身震いが走ります。


しかし、それと同時に、テセウスの胸には言葉にならない震えるような感動が湧き上がってきました。


「これほどの絶対的な力を持つ主神たちが、

私のような矮小で無礼極まりない略奪者を一瞥しただけで許し、


アリアドネ様を通じて、この素晴らしい日の本を旅し、学ぶ機会を、


1,800万ドラクマもの大金(ICカード)を添えて与えてくださった……。


なんという、なんという懐の広さ……! なんという至高の慈愛であろうか……!」


親子丼の美味さ、服屋やホテルでの親切な民の導き、そして先ほど食べた近江牛の至福。


この日の本の民が、なぜこれほどまでにどこまでも優しく異国の旅人に接してくれるのか。


そして、かつてクレタ島で箱入りだったアリアドネが、なぜこれほど気高く、すべてを包み込むような広大な慈愛を持つに至ったのか。


その真実が、一本の線となって彼の魂へと繋がりました。


「この絶対的な慈愛あればこそ……ここまで凄まじい国力と、日常の幸福を持つ国になったのであろうな……」


一人、ホテルの部屋で日の本の神理の真実に一歩近付き、目に涙を浮かべて平伏するようにベッドの上で震えながら感謝の祈りを捧げるテセウスでした。


その頃、京都の旧藩邸では――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスが「主神様たちのなんと広大なる慈愛……!」と大号泣しながらホテルのツインベッドの片隅で正座し、日の本の神話に心から震え上がっている敬虔な思念がリアルタイムで届いていました。


案の定、これを受信したアリアドネの理不尽な悶絶がリビングで炸裂します!


「キィィィーーーッ!!! な、なんですのあの分かったような顔はーーーっ!?


あんなに傲慢で人の話を聞かなかったテセウス様が、ホテルのベッドの上で正座して、


お姉様方の偉大さに涙を流して感動していますわーーーっ!!」


アリアドネは襟元をグギギと引っ張りながら、リビングの絨毯の上で激しくゴロゴロと芋虫のようにのたうち回っています。


「悔しいですわ! 悔しすぎますわ!


わたくしだって、お姉様方のことが世界で一番大好きなのに、あんなに綺麗に神話の真実の核心に辿り着かれるなんて、


テセウス様のくせに生意気ですわーーーっ!!」


テセウスが自分より先に「日の本の神威の真髄」を理解し、しかも一人の立派な求道者として魂を洗練させていく姿への凄まじい嫉妬で悔し涙を流しています。


「わ、わたくしだって、もっとお姉様方の神話をいんたーねっとで調べて、テセウス様より詳しくなってみせますわ!


ほら、パソコンさん、早く動いて……ああっ! 焦って変なキーを押したら、画面に変な青いお顔の猫(日本の国民的キャラ)が大量に出てきてしまいましたわーーーっ!!


消えませんわ! どうすればいいのですか、素戔嗚尊様ぁぁぁーーーっ!!」


焦るあまりブラウザのポップアップを連発させ、画面が猫型ロボットだらけになってパニックになるアリアドネ。


それを見ていた天照大神様が「ふははは! アリアドネちゃん、テセウスの奴に負けじと必死じゃな! よしよし、妾がその猫ごと画面を炙ってやろうか?」と笑い、


素戔嗚尊様が「姉貴!パソコンを炙るんじゃねえ! 俺が直すから、アリアドネちゃん落ち着いて!」とリビングはいつも通りのかしましくも賑やかな大騒ぎに包まれていきました。


主神の偉大さに気づき、涙を流して感謝の求道旅を続けようとする美男子テセウスと、それに負けじとパソコンの前で猫型ロボットに包囲されて面白悶絶するアリアドネでした。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

ガイドブックで神々の正体を知りベッドの上で正座・大号泣するテセウスと、その様子に嫉妬してPC操作でパニックになるアリアドネ。


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