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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第五章 テセウスのB級グルメ旅とアリアドネの受難

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第48話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

「なっ……! なななっ、なんなのだーーー?!!!


この、甘辛く凄まじく重厚で芳しい味わいは……っ!!」


テセウスの頑強な身体に、これまでにない激しい衝撃が走りました。


出汁をたっぷり吸った極上の鶏肉のジューシーさ、卵のまろやかさ、そしてお米の圧倒的な甘み。


続いて、冷たいざるそばをツユにつけてすすれば、鼻腔を抜ける蕎麦の繊細な大地の香り。


さらに温かいうどんのスープを一口飲めば、五臓六腑にしみ渡るお出汁の深みと、独特のモチモチとしたヌードルのコシ。


「うまいっ! 美味すぎるぞーーーっ!!」


かつてアテナイの宮廷で贅を尽くした料理を食べていた男が、日の本の駅前食堂のクオリティの前に完敗していました。


テセウスは、かつてイザナミ様やアリアドネが初めて日の本の至高の味に出会った時と全く同じ鮮烈な感動を覚え、その目からとめどなく大粒の涙を流しながら、一心不乱に箸を動かし続けます。


その頃、京都の旧藩邸では――。


天照大神様の細工によって、テセウスのこの劇的な「親子丼・蕎麦・うどんフルコンボへの大号泣」の思念が、リアルタイムでリビングへと届いていました。


それを敏感にキャッチしたアリアドネが、ガタッと椅子を蹴立てて立ち上がります。


そのの瞳には、かつてないほどの激しい嫉妬と悔しさがメラメラと燃え盛っていました。


「わっ……わたし、まだちゃんと日の本の方ほどお箸を使えませんわー!!!


こうしてはいられませんわ!


テセウス様になど、日の本の文化の習得で先を越されてなるものですか! それに……」


アリアドネは地団駄を踏みながら絶叫します。


「わたくし、あの『親子丼』というもの、まだ一度も食べたことがありませんわーーーっ!!!


悔しいですわーーーっ!!」


テセウスが自分を置いて未知の美味に感動し、さらには箸の試練に挑んでいるという現実に対抗心が大爆発。


「アリアドネの受難」の火蓋が、今ここに切って落とされようとしていました。


「はあ…美味かった…こんな美味いものは子供の時に初めて食べた甘味、いや、それ以上の味わいであった…」


お皿や器を全て綺麗に空にしたテセウスは、涙を拭いながら、しみじみと深い余韻に浸っていました。


「海外のお客さん、どちらから来られたの?」


「うむっ、我はアテナイから来ておる」


「アテナイ……ああっ、ギリシャからはるばる! ギリシャはいいところだねー。


海は美しいし、神殿は壮麗、食べ物も魚介類が多いし日本とどこか似ているからねー」


親切な店員さんの言葉に、テセウスは目を丸くして驚きます。


「おおっ、主はアテナイに来られたことがあるのか!」


「ええっ! 若い頃に一度ね。パルテノン神殿はそりゃ見事でした。

エーゲ海のサントリーニ島も綺麗でしたねー!」


パルテノン神殿などの、古代のテセウスにとっては「これから建てられるもの」や「現代の地名」というチグハグな内容が混ざりつつも、故郷の地を心からリスペクトしてくれる店員さんとの会話に、彼の心は温かく弾んでいきました。


気がつけば話は大いに盛り上がり、時間はいつしか晩飯時へ。


店員さんは、テセウスが「見たこともない」と言うキンキンに冷えた生ビールを、笑顔で一杯サービスしてくれました。


「ふむ。金色のなんとも綺麗な色をしておる」


そう言いながら、テセウスはジョッキを傾け、唇に白い泡の髭をつけながら勢いよく一口すすると――。


「とっ、止まらぬ! ぶはぁ! なんだ?! この味わいは! 美味いっ! 美味すぎるぞーーー!」


イザナミ様たちが大絶賛したあの生ビールの喉越しに、テセウスも完全にノックアウトされてしまいました。


ますます話は弾み、これからの旅に必要な道具について尋ねると、店員さんは親切にメモと地図を書き起こし、お勧めの買い物マップを手渡してくれました。


「店員よ、本当に世話になった。必ずまた来るとしよう!」


「ええっ! こちらも楽しかったですよ! またいつでもいらしてください!」


テセウスはICカードで会計を済ませると、幸せそうに、そして一人の旅人として意気揚々と店を後にしました。


一方、その頃、京都の旧藩邸では――。


天照大神様の細工を通じ、テセウスがギリシャの思い出話で店員さんと大盛り上がりし、極上の生ビールまで楽しんでいる思念をリアルタイムで受信したアリアドネが、リビングの絨毯の上で激しく悶絶していました。


「わっ、わたくし……アテナイのお話しなど、あんなに楽しそうにしたことなど……


この日の本に来てからまだ一度もありませんわーーー!!」


アリアドネは髪を振り乱し、瞳を涙で潤ませながら地団駄を踏みます。


「テセウス様は英雄だったし、ギリシャのいろんな地を知ってるのでしょうが……


わたし、ずっと箱入りだったから、クレタ島とあの荒涼としたナクソス島しか知りませんわーーー!!


悔しいですわーーーっ!!」


ギリシャの王女でありながら、故郷の話題や知識、さらには現世の生ビールの美味しさまで知られてしまった悔しさにジタバタしています。


そんな妹分の姿を見かねて、素戔嗚尊様が歩み寄りました。


「よしよし、ではこのラップトップ(ノートパソコン)とスマートフォンをあげるよ。


俺がネットでの調べ方から何から全部教えてあげるから使ってみな!」


「……ふえっ?」


素戔嗚尊様が差し出した、現代日本の最新鋭の魔導具(ガジェット)。


その行き届いた優しさを受けた瞬間、アリアドネの激しい悶絶はピタリと止まりました。


彼女は涙目をパチクリさせながら、まるで美味しい飴玉を買い与えられた子供のように、嬉しそうにコクコクと何度も頷いて素戔嗚尊様を見上げています。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

大号泣テセウスと、ジタバタ悶絶アリアドネの幕が切って落とされました。


「とうとう飴玉がデバイスに…」、「アリアドネが沼に沈む未来しか見えない」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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