第44話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
彼女は瞳を真っ直ぐに輝かせて言いました。
「天照大御神様が、あの残忍なテセウスに狙われているのです! じっとなんてしていられませんわ! 今度は…今度はわたくしが!!お姉様をお守りする番ですわ!」
1ヶ月前の絶望的な恐怖を乗り越え、今度は大切な人を守ろうとするあまりにも健気な妹分の言葉。
そのピュアな正義感を前に、素戔嗚尊様はこらえきれず、胸を震わせながら声を抑えて笑い出してしまいました。
「くっくっくっく……!」
「な、何がおかしいのですか、素戔嗚尊様! 早く行かないと天照大神様が危険ですわ!」
「アリアドネちゃんや。俺は君のSP(護衛)を頼まれちゃいるが、姉貴やお姉様のSPは頼まれてないんだよ。それどころか、俺が『姉貴のSPをやってる』なんて言ってみな。高天原や藩邸の皆に大笑いされちまうよ!」
素戔嗚尊様のおかしな言葉に、アリアドネは全く訳がわからないという顔をして首を傾げています。
「でっ、でもあのままでは天照お姉様がテセウスの毒牙に!!」
アリアドネは涙を浮かべながら必死に訴えます。
「まあ、見てればわかるよ。なんで俺がわざわざ二重尾行なんてまどろっこしいことをしているのかもね」
素戔嗚尊様は不敵にと笑うと、テセウスに気づかれないよう尾行を再開します。
前を行くのは、何も知らずに日の本の最高神をただの無力な獲物と信じ込み、略奪の牙を研いでいる哀れなテセウス。
そしてその後ろから、全ての真実を知りながら特等席で「極上の見もの」を観戦しようとしている素戔嗚尊様と、それとは裏腹にハラハラしながらついていくアリアドネ。
天照大神様はわざわざ人気の無いところ選んで歩きました。
そして、比叡山の奥深く、生い茂る木々が陽光を遮る寂しい山道に差し掛かったとき、張り詰めた沈黙が流れます。
買い物を済ませた天照大神様の後ろを、野獣のような舌なめずりをしながら、ぎらついた欲望の瞳で肉薄したテセウス。
「ふしゅるるるる…」
獣のような息を吐きつけながら天照大神の背後を取ります、
しかし、次の瞬間に起こったのは、彼の貧弱な想像力を遥かに超えた現実でした。
「ふふっ、ようやくお出ましかえ? こんな人気のないところまで来ないと妾に手が出せんのか」
天照大神様は、怯える素振りすらなく静かに振り返られました。
それどころか、獲物として近づいたはずのテセウスの懐へと無造作に歩み寄り、その逞しい首元へ、白くしなやかな腕をふわりと絡められたのです。
(な、なんだこの女は……!? もしや、我が覇気に惚れ込み抱かれたくなったのか?)
あまりの美しさと大胆さに、テセウスの脳髄に淫らな欲望が一気に爆発しました。
「ははっ、お前、私に魅了され、抱かれたくなったのか?
だからこんな寂しい場所へ私を誘い出したというわけか。
おい女!残念だったな。
そんなに私に抱かったのなら、最初から素直になれば可愛がってやったものを…、
だが、もうだめだ!
テメェのあのクソ生意気なボディガードになぶられた傷が疼いてなあ!
その貸しはまずお前のその美しい肉体できっちりと返してもらうぜーーーっ!!」
歪んだ復讐心と強欲を剥き出しにしたテセウスは、その自慢の剛腕に全腕力を込め、彼女を乱暴に組み伏せ、地面へと押し倒そうとしました。
しかし。
天照大神様のその細く可憐な身体は、一ミリも動きません。
大地に深く根を張る大樹どころか、世界そのものがそこに固定されているかのように、びくともしないのです。
テセウスがどれほど血管を浮き上がらせて力を込めても、その手応えは虚しく弾かれるばかりでした。
「なんじゃ?! ほれ、もう少し力を込めてみい!
そなたの申す通りじゃ!
そなたが強いおのこならば抱かれてやろうと楽しみにして参ったのじゃぞ?
これでは妾が楽しめぬではないか…… ほれっ! もっと気骨を見せぬか!」
「ひ、ひぃっ!? な、なんだお前はッ! 悪魔かっ!!」
ミノタウロスを屠ったはずの己の武勇が、まるで羽虫の羽ばたきのように無力化されている。
その理解不能な超常現象を前に、テセウスの顔面は一瞬にして蒼白へと染まり、全身がガタガタと恐怖で震え始めました。
そんな彼の様子を物陰からじっと見つめていた素戔嗚尊様が、隣で硬直しているアリアドネの耳元で静かに囁きます。
「アリアドネちゃん。何が起こっているのか分からないだろう?
あれを一言で言うとな。姉貴の身体は太陽と同じなんだ。
姉貴の身体自体があの太陽と同じ質量とエネルギーをいつでも自由自在に引き出せるんだよ。
つまりあの体で地球より重くなることもできるんだ。」
「ふえっ?! 地球より、お、重いっ!? 」
アリアドネは瞳を限界まで見開き、思わず小さな悲鳴のような声を漏らしました。
地球より重い質量。
それは、個人の武力や策略などという次元を遥かに超越した、宇宙の法則そのものの顕現でした。
天照大御神様のどこまでも冷たい眼差しが、恐怖に震えるテセウスを真っ直ぐに射抜きました。
首元に回されたその細くしなやかな腕は、今やテセウスの感覚では、巨大な山脈そのものの質量を持って己を圧殺せんばかりにのしかかっているようにすら感じられます。
「はあー……。もう……がっかりじゃ。
本当にもう……本当にそれが限界かえ?
そなた顔は悪くないのに…ほれっ!もう少し頑張ってみい!
気骨を見せれば唇を重ねるくらいは許しやろうぞ?!」
どれほど主神が挑発を重ねようとも、テセウスの全腕力は虚しく弾かれ、天照大御神様の身体は微塵も動きません。
アテナイの王としてのプライドは完全に粉砕され、彼の喉からは言葉にならない悲鳴が漏れるばかりです。
「はあ… 本当にダメなのかえ…
興醒めじゃ……… もう良い!
ここの地中に埋まるか、消炭になるか、どちらが良い?
好きな方を選ばせてしんぜよう」
「あ……あ、あ……」
圧倒的な死の宣告を前に、テセウスは完全に腰を抜かし、ただただ顎をガタガタと震わせることしかできません。
「返事がないのう。この有様では肥やしにすらならぬか……
では消し炭になるが良い。
そなたの痕跡など一切残さずにチリに変えてやろう」
その言葉とともに、天照大御神様の瞳が徐々に禍々しくも神聖な、絶対的な金色の光を帯びてゆきます。
周囲の空気が一瞬にして超高熱へと跳ね上がり、比叡山の木々がパチパチと焦げ始めます。
その目を見開いたその刹那!
物陰から漆黒の巨大な影が疾風のごとく飛び出し、二人の間に割って入りました。
「姉貴ストップだ!! ここで日輪の核融合なんか使ったら、京都の街が焦土になっちまう!」
素戔嗚尊様が主神の神威を遮ります。
その言葉に、天照大御神様はふぅと小さく息を吐き、瞳の金色の輝きを静かに収められました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
主神の肉体はまさかの「太陽質量」。恐怖に慄くテセウスを消し炭にしかけたアマテラス様をスサノオ様がギリギリで止めました。
「アマテラス様、太陽の質量と日輪の核融合て…、サ◯ヤ人とかフ◯ーザ様攻めてきても余裕じゃない?」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




