第38話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
鳥のさえずりでパチリと目を覚ますと、そこには驚くほどすっきりと気持ちの良い朝が待っていました。
恐る恐る部屋の様子を伺うと、イザナミ様は昨夜の熱烈な誘惑のことなどまるで綺麗さっぱり忘れてしまったかのような、いつも通りの妖艶な大人の微笑みを浮かべていらっしゃいます。
天照大神様もアリアドネも全く気づいていない様子で、素戔嗚尊様は心の底からホッと胸を撫で下ろしました。
「よし、全員揃ったな。ここから一気に京都の旧藩邸の屯所まで向かうが……その道中、この旅を締めくくる最後のお店に立ち寄るぜ!」
素戔嗚尊様がアクセルを踏み込み、白浜をあとにします。
そして和歌山市内へと滑り込んだ一行が到着したのは、全国にその名を知られる和歌山ラーメンの伝説的な聖地。
店先に一歩近づくだけで、豚骨をじっくり、じっくりと炊き込んだ、あの独特の濃厚で力強い香りがふわりと鼻腔をくすぐります。
「おおおっ! 旅の締めくくりもやはりラーメンかえ! 湯河原のラーメン屋さんとはまたガラリと違う、この濃厚そうな香りがたまらぬのじゃ!」
天照大神様がお転婆な瞳を輝かせて暖簾を見つめます。
「ふふ、湯河原のラーメン屋さんのあの洗練された一杯のあとに、この力強い香りのラーメン……。素戔の選ぶルートには、本当に一切の隙がないのう」
イザナミ様も現世の至高のB級グルメが放つ独特の薫香に嬉しそうに目を細めていらっしゃいます。
「和歌山ラーメン……ですか! 湯河原のラーメン屋さんで完全に麺の虜になってしまいましたから、わたくし、もうワクワクが止まりませんわ!」
アリアドネも、すっかりお姉様たちに負けない神気をまといながら、瞳をキラキラと輝かせています。
「おっしゃ、ここの濃密な豚骨醤油は一度食ったら忘れられねえ味だぜ!」
素戔嗚尊様が暖簾を押し上げ、活気溢れる店内へと一行をエスコートします。
「お待たせしました、特製中華そばです!」
店員さんの威勢の良い声とともに、四人の前に波々とスープが注がれた小ぶりの器が運ばれてきました。
湯河原のラーメン屋さんの透き通ったスープとは対照的な、深い琥珀色に濁った濃厚な豚骨醤油スープ。
その表面には上質な脂がまばゆく輝き、大ぶりのチャーシューとメンマ、そして和歌山名物の可愛らしいかまぼこが美しく花を添えています。
「おおおっ! なんという濃厚な佇まいじゃ! いただきます!」
天照大神様が待ちきれずに箸を突き立てて麺を豪快にすすり上げました。
ズズッ、ズズズッ……!
「っ……! なんじゃこれはーーーっ!! 濃厚な豚骨のコクと醤油のキレが、麺に極限まで絡みついてくるのじゃ! このガツンとくる力強い美味さ……たまらぬ、たまらぬぞ素戔!!」
主神の身体から、これまでにないほどまばゆい純白の光が部屋中に溢れ出します。
「ふふ……まこと、この濃厚さは体に染み渡るようじゃ。見た目ほどくどくなく、旨味だけが凝縮されておるのう……」
イザナミ様も熱々のスープをレンゲでそっと口に運び、うっとりと瞳を潤まされます。
昨夜の混浴での妖艶な姿から一転、今はただ現世の至高の麺料理に心底蕩けていらっしゃいます。
「つるつる、もぐもぐ……はわぁぁ! おいしい……おいしいですわ、素戔嗚尊様!! このチャーシューというお肉もトロトロで、スープを吸った麺と一緒に食べると、お口の中が幸せの大洪水ですわーーーっ!」
アリアドネも、フォークとレンゲを器用に使いながら大感激。
白浜の疲れなど、この濃厚な一杯の前に完全に吹き飛んでしまった様子で、最高にキュートな笑顔を弾けさせています。
「だろ? この豚骨醤油の濃密さが、和歌山ラーメンの真骨頂よ。鯖の押し寿司を合間に食べるのがまた最高なんだ!」
素戔嗚尊様が豪快に自身の器を平らげました。
賑やかな店内の活気の中、四人の箸とレンゲは一切止まることなく、気づけばあれほど濃厚だったスープの一滴、ネギの一片すら残らず、四人の前には完全に空っぽになった器が美しく並べられました。
「はぁぁぁ……これにて我が旅の食に、一切の悔いなしじゃのう!」
天照大神様がぷはぁとお茶をすすりながら、幸せそうにぽんぽんとお腹を叩きます。
イザナミ様もアリアドネも、この旅を締めくくるにふさわしい、圧倒的な美味の一撃にすっかり骨抜きにされ、心もお腹も満たされきった様子で幸福感の余韻に浸っていました。
鎌倉から始まった東海道西進B級グルメツアー、すべての至高の食を完璧に攻略した一行。
大満足でお店をあとにした四人は、再び車へと乗り込み、いよいよ最終目的地「京都の鴨川沿いにある旧藩邸の屯所」へと向けて、最後のドライブを開始することになります。
「ふふふっまあ、外での食事は最後だが、これから京都藩邸に向かうまで、常駐している守護の皆にお土産を買って行かねばならない。そこで!
姉貴のブラックカードをフルに使わせてもらって、大阪のたこ焼きを買い込んで行こう! もちろん今日の晩飯でもある!」
素戔嗚尊様が天照大神様から手渡された予算10億円のブラックカードを掲げました。
この旅のグランドフィナーレを飾る、最高に豪快な「爆買いお土産ミッション」の宣言です。
「なぬっ! まだ終わりではなかったか! しかも大阪の『たこ焼き』じゃと!? 妾のブラックカード、いくらでも使うが良い!」
天照大神様がお転婆な声を上げて快諾し、再び車内は熱気に包まれます。
「たこ焼き……! わたくし、お肉やお魚も大好きですけれど、『タコ』はギリシャでも本当に、本当に大好きなのですわ! それが日の本の手にかかるとどうなってしまうのか……もう待ちきれませんわーーーっ!」
アリアドネは「タコ」という単語を聞いた瞬間、瞳をこれ以上ないほどキラキラと輝かせて大興奮してうずうずしています。
「ふふ、最後の最後までまこと粋な計らいじゃのう、素戔。留守を守る守護の皆も、きっと腰を抜かして喜ぶであろう」
イザナミ様も、笑みを浮かべていらっしゃいます。
車は和歌山をあとにし、一気に大阪の街へと滑り込みました。
ここからは、ブラックカードの威力を遺憾なく発揮する、怒涛のたこ焼き爆買いルートの始まりです。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
一行は和歌山ラーメンをクリアし、いよいよたこ焼きという奥の深すぎる沼にハマり込もうとしてます。
「京都行くときは南紀巡りしよう」、「たこ焼きの底なし沼にようこそ!」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




