第31話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「素戔よ!命令じゃ!奇稲田ちゃんには内緒にしとくゆえ妾もぎゅっとせよ!」
「なっ、なんてことを言い出すんだ?!この姉貴はーーー!!!」
素戔嗚尊様は、心臓が口から飛び出そうなほど飛び上がって叫びます。
「なんじゃ嫌なのかえ?!」と、天照大神様はお転婆に頬を膨らませます。
するとそれを見ていたイザナミ様も、クスクスと美しい声を響かせました。
「ふふっ素戔や。そんなにこだわらなくても良いではないか。天照をぎゅっとしてやるが良い」
「そんな天津神の常識、俺は馴染んでないんだよー!!!」
絶叫する素戔嗚尊様ですが、彼の悲鳴も虚しく、小さく震える手がちょん、ちょん、と遠慮がちに掴みました。
顔を真っ赤に染めたアリアドネです。
お姉様たちの「大人のおのこを骨抜きにする魅力」への憧れと、持ち前の素直さが大爆発してしまっています。
「わっ…私もぎゅってして欲しい…です……」
瞳を潤ませながらの上目遣いの自爆。
「はっはっは。素戔や、もてもてじゃのう!」
イザナミ様も楽しそうに悪戯っぽく笑い、天照大神様がポンと手を叩いて号令をかけます。
「さっ!では3人でぎゅーーーじゃ!」
「はっはい!ぎゅーーー!」
「ちょっ、おまっ、待てってーーー!!!」
素戔嗚尊様の必死の制止など、最高神と大母神、そして恋に恋する王女の勢いには全く通用しません。
天照大神様のまばゆい純白の光のような無邪気な抱擁。
イザナミ様の、全てを包み込むような妖艶で温かい抱擁。
そしてアリアドネの、一生懸命でキュートな抱擁。
三方向から絶世の美女たちに全方位ハグを敢行され、全神力を込めてガッチリとホールドされた素戔嗚尊様は、口から魂がひゅるりと、はみ出そうになりながら完全にノックアウトされました。
(奇稲田……本当に悪気はねえんだ……助けてくれ……)
「なんじゃ! 3柱の絶世の美女の抱擁じゃぞ?! そんな白目をむきよって。うれしうないのかえ?!」
抱擁を終えてなお、魂がはみ出しかけている素戔嗚尊様に向かって、天照大神様が不思議そうに、そしてちょっと不満げにお転婆な声をあげて問い詰めます。
すると、その様子を見守っていたイザナミ様が、艶やかな笑みを浮かべながら、優しく助け舟を出されました。
「天照や、素戔とて嬉しうないわけではない。
むしろこの世の極楽と思うておると同時に、それが素戔を地獄へ落としてしまうのよ。
奇稲田姫という最愛の妻への義理立てが、妾達に何もできないという葛藤を産むのじゃ。なあ、素戔よ。そうであろう?」
大母神ならではの、神の心理をも見抜くあまりにも的確な分析。
「ふぁ…ふぁい……」
素戔嗚尊様は、もはや反論する気力もなく、力なく両手をあげて白旗を掲げています。
「ふむ。ならばよしとしよう! ふははははっ! しかし素戔をいじるのは面白いのう!」
弟の哀れで愛らしい姿に、天照大神様は大満足の様子で高笑いを響かせ、すっかりご機嫌を取り戻されました。
そんな神々の、スケールの大きなやり取りをすぐ横で見ていたアリアドネ。
彼女は林檎のような赤ら顔のまま、意を決したように瞳を真っ直ぐ素戔嗚尊様へと向けます。
「わっ…わたしは素戔嗚尊様にギュッとされて…とても幸せでしたよっ?!」
お姉様たちの大人な弄りとは対照的な、あまりにも純粋で、どこまでも健気な好意のストレートパンチ。
最高にキュートな妹分からの無邪気な居座り級の癒やしに、魂がはみ出ていた素戔嗚尊様も、思わずハッとして顔をわずかに赤らめます。
イザナミ様も、そんなアリアドネの初々しい自爆混じりの告白を「ふふっ」と悪戯っぽく見守り、スイートルームには朝からの大騒ぎの余韻が心地よく満ちていきました。
こうして浜松での濃密な朝の儀式(?)を終えた一行。
ここからはいよいよ、身支度を整えて車へと乗り込み、次のB級グルメが待つ地・愛知(名古屋)方面へと西進を開始することになります。
「素戔よ、次も鰻じゃなっ!」
ホテルの軽い朝食を済ませ、車はさらに西へと進路を取ります。
天照大神様は、今朝スイートルームで起きた大騒ぎのことなどすでに頭の片隅にもない様子で、ウキウキと声を弾ませて後部座席から身を乗り出しています。
「おう。次は関西焼きの櫃まぶしだ!」
素戔嗚尊様がハンドルを握りながら不敵に笑いました。
「ほう! またあの鰻を食せるのか!」
「はわぁ! また鰻が食べられるのですね?!」
イザナミ様とアリアドネは、昨晩の「100年超えの老舗うなぎ屋さん」での感動が鮮烈だっただけに、早くも期待で瞳を輝かせます。
愛知県豊橋市へと滑り込んだ車は、本日のお昼の目的地である「地焼きの女神」に到着。
店内は、浜松の関東焼きとはまた異なる、どこか野性味を帯びた香ばしい炭火の香りで満ちていました。
四人の前に運ばれてきたのは、丸い木製のおひつにびっしりと敷き詰められた鰻。
関東の蒸し焼きとは違い、生のまま炭火で一気に焼き上げられた鰻は、皮目がパリッと黄金色に波打ち、タレが絶妙に焦げて妖艶な光沢を放っています。
「素戔嗚尊様、これは昨日の鰻とは少し見た目が違いますわね……?」
「おう、こいつは関西焼きって言ってな、蒸さずに地焼きするんだ。皮のパリパリ感と身のジューシーさが段違いだぜ。これを四等分にして、まずはそのまま食うんだ」
素戔嗚尊様のスマートな指南を受け、四人はまず一膳目をそのまま口へと運びます。
サクッ、じゅわぁ……!
「なっ……! なんじゃこの心地よい歯ごたえは!! 皮がパリパリと芳ばしく、中から濃厚な脂が溢れてくるぞ!!」
天照大神様がまばゆい光を放ちそうな笑顔で、豪快に白米とともに掻き込みます。
「ふふ、これはまこと面白い。昨日のふんわりとした鰻も至高であったが、この力強い香ばしさもまた、甲乙つけがたい美味さじゃのう……」
イザナミ様も、関西焼きのダイナミックな食感にいたく感動された様子で、艶やかな瞳を細めていらっしゃいます。
続いて二膳目は、刻みネギ、ワサビ、そして刻みのりを載せる薬味のスタイル。
「わあぁ! ワサビのツンとした辛みとネギのシャキシャキ感が、鰻の濃い脂をさっぱりと引き立てて、いくらでも食べられてしまいますわー!」
アリアドネは瞳を限界まで見開いて大興奮。最高にキュートな笑顔で、お口いっぱいに櫃まぶしを頬張ります。
そして三膳目。熱々の特製お出汁をたっぷりと注ぎ、お茶漬けにしてサラサラと口の中へ。
炭火の香ばしさとタレの甘みが旨味の凝縮されたお出汁に溶け出し、極上のハーモニーを奏でます。
「ぷはぁーーー!! 完璧じゃ! この出汁で締める瞬間、これぞ至高の贅沢じゃのう!」
天照大神様が最後の一粒まで綺麗に平らげ、大満足の声を響かせます。
イザナミ様もアリアドネも、三者三様の食べ方で豹変する櫃まぶしの圧倒的な実力にすっかり骨抜きにされ、気づけばおひつの中は一粒の米すら残らず空っぽになっていました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
三柱の女神たちからの全方位ハグで魂が抜けかけたスサノオ様。「ひつまぶし」で全て忘れられました。
「イザナミ様もスサノオ様いじる気まんまん。けどスサノオ様、2連ちゃん鰻はこの状況あおってない?」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




