第24話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「あれっ? 今、何が起こったんですの……?」
大人の魅力を発揮して闘神をドギマギさせるはずが、なぜか感謝され、子供のように頭を撫でられて終わってしまった我が身。
アリアドネが呆然と立ち尽くしていると、その一部始終を真横で見ていたイザナミ様と天照大御神様の目が、同時に「きゅるん」と輝きました。
あまりにも健気で、一生懸命で、そして最高に可愛らしい異国の王女の姿に、二柱の女神の母性が完全にノックアウトされてしまったのです。
「きゃーーーっ! アリアドネちゃん、可愛すぎるのじゃーーーっ!!」
「ほんに、愛おしい子じゃのう……!」
今度は、その二柱の女神が猛烈な勢いでアリアドネへと襲いかかりました。背中から天照大御神様が、正面からイザナミ様が、彼女の小さな身体を優しく、しかし全力でぎゅーーーっと抱きしめます。
今度はアリアドネが「サンドイッチ」にされる番でした。お姉様たちの柔らかくて温かい、そして良い香りのする腕の中に完全に埋もれながら、彼女は顔を真っ赤にして涙目を浮かべます。
「あれっ? ……あれれっ!? 今、私……完璧に子供扱いされているのではありませんかーーーーっっ!?」
大人の女性としての誇りをかけた挑戦が、ただただ「可愛い妹分」としての溺愛へと変わってしまったことに、恥ずかしさと可笑しさでいっぱいになりながら、アリアドネは優しく抱きつかれ続けていたのでした。
素戔嗚尊様が次なる「東海道B級グルメツアー」の移動ルートや名店をスマートフォンで綿密に調べるため、鎌倉の隠れ家に数日間滞在することになりました。
その数日間、アリアドネは完全に「意地」になっていました。
あの朝、子供扱いされて頭をなでなでされた悔しさがどうしても忘れられず、今度こそ大人の女性としての魅力を発揮して、闘神・素戔嗚尊様を悩殺してやろうと躍起になっていたのです。
そんなある日の昼下がり。
プールサイドのパラソルの下では、イザナミ様が大きめのサングラスをかけ、素戔嗚尊様が用意した色鮮やかなカクテルを横に置き、優雅にデッキチェアにもたれかかっていました。
長年黄泉にいたとは思えぬ、現世のバカンスを完璧に楽しむ大人の余裕が漂っています。
そこへ、プールからバシャリと水しぶきを上げて上がってきたのは天照大御神様でした。彼女は最新のきわどいビキニ姿になり、プールの縁にそっと腰掛けます。
ひと泳ぎして火照った見事な肢体を惜しげもなくさらしながら、楽しげに声をかけました。
「素戔ちゃん、妾にも新しいカクテルを持ってきてたも」
「ここですわっ!」
アリアドネは、今こそ大人の魅力を爆発させる絶好の好機だと確信しました。
彼女がこの作戦のために「プチプラ服」の中から必死に選んできた勝負の水着、現世の人間たちが「すくーるみずぎ」と呼ぶ、なぜか紺色の一体型をした不思議な水着に身を包み、イザナミ様の反対側の席へと滑り込みます。
そして、お姉様たちのポーズを必死に真似て、少し流し目を意識しながら、素戔嗚尊様へとおねだりをしました。
「素戔様……っ! 私も、お飲み物が欲しいですわ……っ!」
「おう、はいよ。姉貴、これ新しいやつな。で、アリアドネちゃんにはこれだ」
トレイを持ってきた素戔嗚尊様は、天照大御神様にカクテルを渡した後、アリアドネの前にも綺麗なグラスを置いてくれました。
(ふふん、さあ、ここからですわ……!
素戔様も私のエレガントで大人の魅力に、きっとメロメロになってしまいますわー!)
アリアドネは、イザナミ様のようにどこまでも優雅に、妖艶に、グラスに添えられたストローへとその薄い唇を近づけました。
そして、大人の女の吐息を漏らすように、そっと中身を吸い込んだ、まさにその瞬間のことです。
「あ、美味しい……っ!」
ストローからお口の中に飛び込んできたのは、素戔嗚尊様が彼女のために特別に作った、フルーツたっぷりのカクテル(ミックスフルーツジュース)でした。
そのあまりの美味しさと爽やかさに、悩殺作戦のことなど一瞬で頭から吹き飛んでしまいます。
「ちゅーちゅー……ごくっ、ちゅーーー……」
アリアドネはグラスを両手でしっかりと握りしめ、完全にカクテル(ミックスフルーツジュース)の味に夢中になってストローを吸い続けました。
「ははっ、美味しいかい? たくさんおかわりもあるからな」
そんな彼女の様子を、素戔嗚尊様はどこまでも優しい「小さな妹」を見るかのような目で見つめ、またしても「なでなで」と大きな手で愛おしそうに頭を撫で回してくれました。
(わーい、美味しいーー!嬉しいですわーー!)
撫でられて一瞬、本気で喜んでしまった自分に、アリアドネはハッと気がつきました。
「ま……またしてもーーーーっっ!!!」
我に返ったアリアドネは、顔を真っ赤にして地団駄を踏み、激しく身悶えしました。
大人の魅力で闘神をドギマギさせるはずが、美味しい飲み物に釣られ、結局は子供のように頭を撫でられて終わってしまった我が身。
「これでは……これでは、いつまでたってもお子ちゃまのままですわーーーっっ!!」
プールサイドでぶんぶんと頭を振って悔しがるアリアドネ。
しかし、そんな彼女の健気で可愛すぎる奮闘を横でじっと見ていたイザナミ様と天照大御神様は、またしてもハートを完全に「きゅーーーん」と射抜かれてしまいました。
「きゃーーー! アリアドネちゃん、その水着も、その悔しがり方も可愛すぎるのじゃーーーっ!」
「ほんに、抱きしめたくなるほど愛くるしい子じゃのう……!」
サングラスを外したイザナミ様と、ビキニ姿の天照大御神様がデッキチェアから飛び起き、悩殺作戦に失敗して呆然とするアリアドネを挟み込むようにして、全力でぎゅーーーっとハグを浴びせ始めます。
悩殺するはずの闘神には可愛い妹扱いされ、お姉様たちには変わらず全力で溺愛され、鎌倉の眩しい太陽の下で、アリアドネの甘くて賑やかな試練の日々は、もう少しだけ続いていくのでした。
「こうなったら、意地ですわっ! なんとしても素戔嗚尊様をドキドキさせてやりますわ!」
プールサイドでの敗北を経て、アリアドネは完全に火がついていました。今度こそ大人の女性としての底力を見せるべく、リビングの隅で何やら真剣に企んでいます。
ソファーでその様子を眺めているイザナミ様と天照大御神様は「今度は何を始めるのかえ?」と、まるで子猫の毛づくろいを見るかのように微笑ましげに見守っていました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
大人の魅力でスサノオ様を悩殺するはずが、結局お姉様方に全力で溺愛されてしまったアリアドネでした。
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