第23話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「おはよう、素戔。なに、ただのおはようの『はぐ』じゃ」
現世で、外国の文化を学んだお姉様なりの、日常のスキンシップのつもりだったのでしょう。
しかし、そう言われても、相手は呪いを祓われて絶世の美しさを取り戻したイザナミ様です。至近距離からまとう妖艶な神気と温もりに、素戔嗚尊様はまるで心臓を直接鷲掴みにされたかのように、ドクンドクンと激しく鼓動を打たせて完全にフリーズしてしまいました。
その様子を見た天照大御神様は、すかさず「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべました。
(ふふふ……これは良いものを見たぞ。素戔を揶揄う新たな手札が増えたわ……!)
一方、アリアドネはといえば、あまりにも刺激の強い大人の光景に、顔を真っ赤に染め上げて両手で視線を覆っていました。
しかし、指の隙間から恐る恐る覗き見ながら、イザナミ様のあの完璧すぎる不意打ちの所作を、自分の胸の中で何度も何度も反芻していました。
(男の人をあんな風にドキドキさせるなんて……お姉様、やっぱりどこまでも格好良くて、凄すぎますわ……っ!)
朝一番のイザナミ様の強烈な一撃によって、鎌倉の隠れ家の朝は、それぞれが全く違うドキドキと企みを胸に抱きながら、賑やかに幕を開けたのでした。
「いただきます!」
四人の元気な声がリビングに響き、素戔嗚尊様が腕によりをかけて作った由緒正しき和食の朝ごはんが始まりました。
ふっくらとした白米の甘み、お出汁の効いた温かい味噌汁、そして香ばしいシャケの旨味。みな美味しそうに箸を動かしながら、賑やかに歓談を交わしています。
しかし、食卓の空気はそれぞれの胸中で少しずつ違っていました。
先ほどの強烈な後ろからのハグなど、まるで何もなかったかのように、上品で幸せそうに食事をとるイザナミ様。そんなお姉様の優雅な佇まいに、素戔嗚尊様は未だに少しだけ緊張気味で、お味噌汁をすする手もどこかぎこちありません。
そしてアリアドネにいたっては、先ほどの大人の光景が頭から離れないのか、まだお顔をリンゴのように赤らめて恥ずかしそうに下を向いたまま、一生懸命にスプーンでお米を口へと運んでいました。
やがて皆が綺麗に食事を終え、素戔嗚尊様が手際よく台所の片付けを終えて戻ってきた、まさにその時でした。
天照大御神様が、その美しい瞳を悪戯っぽくキラリと輝かせ、すっと素戔嗚尊様の背後へと回り込みました。
「ぐぬっ! 姉貴、またかよ!?」と身構える素戔嗚尊様でしたが、今回は、コブラツイストではありませんでした。
天照大御神様は、どこまでも優しく素戔嗚尊様の首に細い腕を巻き付け、その豊満な胸を彼の大きな背中へとぴったりと押し付けたのです。そして、耳元で艶やかに、しかし楽しそうにこう囁きました。
「素戔よ、朝メシ美味かったぞ? ……これは、姉からの褒美じゃ」
チュッ、と静かなリビングに愛らしい音が響きます。天照大御神様は、驚く弟の頬に、優しくお礼の「キス」を贈ったのでした。
(もちろん、ただの姉貴の悪戯だってことは分かってる! 分かってるよ、チクショー!!! だけどなぁ!
こんな現世の流行りを極めた絶世の美女が実の姉で、朝からこんな破壊的な揶揄い方をされる弟の気持ちが、お前ら?に分かるかよぉぉぉーーーっ!!!)
素戔嗚尊様が心の中で、声を大にして絶叫をあげた――まさにその瞬間、さらなる追い打ちが彼を襲います。
「おや、なんじゃ? 楽しそうなことをしておるのう」
あろうことか、リビングのソファーからその様子を眺めていたイザナミ様までが、嬉しそうに立ち上がって歩み寄ってきたのです。
お姉様はフフッと微笑むと、今度は素戔嗚尊様の真正面から、その細い両腕を彼の首へと滑らかに絡めました。
「妾からも、美味い朝食のお礼のハグじゃ」
正面からは妖艶な気品をまとうイザナミ様、背中からは純白の天真爛漫な天照大御神様。
二柱の絶世の女神によって、完璧に「さんどいっち」にされてしまった素戔嗚尊様。
至近距離から同時に押し寄せる、世界の根源たる大母神と日の本の最高神の、あまりにも強烈すぎる美香と温もり。
流れる冷や汗と共に、意識がどこかへ飛びそうになりながら、素戔嗚尊様は真っ赤になって、ただただ硬直するしかありませんでした。
それを見つめるアリアドネは、もはや恥ずかしさの限界を迎えて両手で顔を覆いながらも、日の本の女神たちのあまりにも大胆でチャーミングな攻勢に、再び瞳をこれ以上ないほど輝かせて大興奮しているのでした。
「そうよ! これがお姉様たちの魅力なんだわ! 闘神さえも骨抜きにしてしまう恐ろしい大人の魅力……。もしかしたら、私も……!」
リビングの真ん中で繰り広げられた最強のサンドイッチハグを目の当たりにして、アリアドネの頭は完全にバグって(混乱して)しまいました。
お姉様たちのあまりにも格好良くて大胆な振る舞いに影響され、自分も大人としての魅力を発揮してみせようと、何を思ったか突発的に行動を起こします。
アリアドネは、プチプラ服屋さんの愛らしい普段着の裾をひるがえし、目をキリッとさせて素戔嗚尊様へと突撃しました。
「えいっ! さあ素戔嗚尊様! 『はぐ』ですわ!」
大人の色気を全開にした(つもりの)渾身のハグを仕掛けたアリアドネ。
しかし、相手は大男、素戔嗚尊様です。彼女の細い両腕は、素戔嗚尊様の首や胴体に回る前に、彼が片手に持っていた「おたま」を握る、逞しく太い右腕へとガッチリ絡みつく形になってしまいました。
結果として、ハグというよりは、おたまを持つ素戔嗚尊様の腕に、全力でぶら下がるような格好になってしまったのです。
「あれっ?! 私の……私の胸が……届きませんわ……っ!?えいっ!えいっ!だっ、だめですわぁーー!!」
さすがに素戔嗚尊様の巨躯の前では、大人のポーズをとることも叶わず、その胸元は遥か下で空を切るばかり。
しかし、そんな彼女の突拍子もない健気な行動が、期せずして素戔嗚尊様には功を奏することとなってしまいました。
腕に小鳥がとまったかのような感触を感じた素戔嗚尊様は、意識が飛びかけていた甘美のハグ地獄(天国?)から、ハッと正気を取り戻したのです。
「おっ、アリアドネちゃん! 助かった、ありがとうよ!」
素戔嗚尊様は自身をがっちりロックしていた二柱の姉たちの抱擁から、スッと滑らかに抜け出すことに成功したのです。
そして、アリアドネの頭を「なでなで」と優しく撫で回しました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
二柱の絶世の女神(けど姉)による破壊力抜群の「さんどいっち」から、アリアドネの愛らしすぎる突撃によってスサノオ様は生還できました。
「絶世の美女なら姉のハグも悪くない」、「アリアドネって何歳?」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




