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どちら様ですか?~無人島に置き去りにされたけど最強の女神たちに溺愛されました~【全話執筆済】  作者: 夜見猫
第一章 黄泉比良坂から現世 日の本へ ~あんみつと牛丼の奇跡~

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第2話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

「面を上げよ」


アリアドネが恐る恐る顔を上げると、声が続きました。


「そなた……この日の本では見かけぬ面立ちをしておるな。ここは黄泉の国。迷い込んだのかえ?」


その問いの響きには、冷徹な死の主としての威厳だけでなく、どこか深い慈悲と優しい気遣いが含まれていました。


その温かさに触れ、アリアドネを硬く縛り付けていた緊張の糸が、ほんの少しだけ解けていきます。


「私にも分かりません……。気づけば、こちらの坂道におりました」


「ふむ……」


イザナミ様は御簾の奥で、じっとアリアドネを見つめました。


「そなたからは、微かに生者の気配を感じる。生きたままここへ迷い込んだのであろうな」


イザナミ様もまた、アリアドネの立ち居振る舞いや、まとう空気から、ただの迷い人ではない何かを感じ取っていました。


それは、この日の本の理とは異なる、異界の神の微かな気配、ペルセポネが託した光の残滓だったのかもしれません。


イザナミ様はしばらく思案するように沈黙を置いた後、厳かに告げました。


「さて、どうしたものか……。鬼や、筆をもて。天照に書状を送ろう」


生者であり、しかも異界の気配をまとう美しい王女の処遇について、イザナミ様は高天原を統べる光の神へと連絡を取ることを決めたのでした。


筆を用意させるため鬼が動く中、イザナミ様は御簾の向こうから、さらに深く、射すような、しかし温かい視線をアリアドネへと向けました。


「さて、1つ確認せねばならぬ」


その声は部屋の隅々にまで厳かに響き渡ります。


「そなたはなぜ黄泉に落ちたのかわからぬか? それなりの理由があるはずじゃ。


現世で何があり、どこから来たのかを申してみよ。


……とても、黄泉に落ちるような粗暴な者には見えぬゆえな」


大母神の問いかけは、アリアドネの心の奥底、つい先ほど置き去りにされたばかりの、あのナクソス島の孤独な記憶へと静かに触れていきました。


自らのすべてを賭して紡いだ赤い糸。


裏切った大英雄。


遠ざかる船影。


アリアドネは、イザナミ様の気品と、どこか自分と同じ「裏切りの痛み」を知っているかのような深い慈悲を前に、クレタの王女としての気品を辛うじて支えながら、震える声で静かに語り始めました。


故郷クレタ島にそびえる大迷宮。


そこに囚われた異形の怪物ミノタウロス。


生贄として捧げられるはずだったアテナイの英雄テセウスに恋をし、彼を救うために命懸けで一筋の赤い糸を紡いだこと。


大迷宮を脱出し、すべてを捨てて彼と共に異国へ逃れたこと。


しかし、立ち寄ったナクソス島の砂浜で、目覚めた時には彼を乗せた黒い船影が遠ざかっていたこと……。


裏切りの痛みに耐えながら語るアリアドネは、さらに言葉を続けました。


「その後、飢えと渇きの中で意識を失い……気がついた時には、先ほどの見たこともない坂道におりました」


御簾の奥のイザナミ様は、彼女の言葉を一つも漏らさず、静かに、そして深く耳を傾けておられました。


男の裏切り、そして奈落への転落。それは、大母神自身の過去の傷痕にも、重なる調べでした。


しかし、イザナミ様が最も強く反応したのは、その裏切りの物語そのものよりも、彼女がこの日の本の黄泉へと「導かれた」という事実でした。


「ふむ……やはり、ただの迷い人ではない。そこには異界の神の、明確な意図を感じる。


アリアドネと申したな。


そなたをここへ送り届けるほどの力を持つ存在に、心当たりはないかえ?」


アリアドネは、薄暗い部屋の床を見つめながら、必死に自らの記憶を遡ります。


異界の神々。自らを裏切ったテセウスの背後におり、同時に冥府の理を操れる存在……。


「……確かなことは、私には分かりません。


ですが、ただの人間である私を、死の国を越えてこのような異国の地へ送り届けることができるのは……


地上の実りをもたらしながらも、冥府の王ハデス様の妃として生きる、あのペルセポネ様くらいしか思い当たりません」


「ペルセポネ、とな……」


イザナミ様はその名を口の中で静かに転がしました。


異国の冥妃。自分と同じように、どこか宿命に縛られた神の気配。


イザナミ様は、アリアドネがまとう微かな光の残滓の正体が、その冥妃の祈りであることを感じていたようでした。


何か、大いなる運命の歯車が動き出したことを感じ取ったイザナミ様は、静かに筆を執りました。


そして、高天原を統べる光の神、天照大御神への書状を書き進めていきました。


その墨の香りが、煤けた奥の間に静かに広がっていきます。


イザナミ様がさらさらと筆を走らせた書状には、以下のような言葉が認められていました。


『天照や、久方ぶりじゃ。息災かえ?


実はこの黄泉に、異国の神気を纏った姫が舞い降りておる。


事情を聞けば、おのこに妾と同じような目に遭わされたようじゃ。


不憫でのう。


それに、異国の神の意志を感じるのじゃ。


そなた、この姫を良きに計らってはくれぬか。


なに、急ぎはせぬ。


そなたが黄泉に来るついでで構わぬゆえ、立ち寄ってたもれ』


書き終えられた書状は、即座に俊足の使いによって、光満ちる高天原へと届けられました。


そして届けられた文に目を落とした天照大御神様は、驚きに目を見開きます。


そこに記されていたのは、切実な情と、異世界の神々の影。


そして何より、常日頃から深く敬愛してやまない、大切な「お姉様」からの直々の頼み事でした。


「急ぎはせぬ、などと……お姉様がこれほど異界の者に心を寄せられるなど、ただごとではない。


ついでを待つなど、できるはずがないでは!」


天照大御神様は居ても立っても居られず、すぐにでも黄泉の国へと向かうべく、その身に目も眩むほどの至高の光を纏いました。


通常、生者も神々も忌み嫌う黄泉の闇ですが、敬愛する姉の呼び出しとあれば、一刻の猶予もありません。


光の神は、躊躇うことなく高天原を立ち、昏い黄泉の国へとまっすぐに進路を取りました。


イザナミ様は、御簾の向こうからアリアドネへ向けて穏やかに微笑みかけました。


「さて、アリアドネや、妾の可愛い妹がそちを迎えに来るはずじゃ。


天照は高天原を統べる忙しい身の上ゆえ、気長に待つと良い……」


大母神がそう言って、アリアドネに長旅の疲れを癒やすよう、身支度を整えさせようとした、まさにその束の間のことでした。


アリアドネが身だしなみを整える暇さえ与えず、黄泉の国の禍々しい闇をことごとく退ける、目も眩むような黄金の光が屋敷の奥の間にまで差し込んできたのです。


「お姉様!」


凛とした、しかしどこか甘えるような声と共に姿を現したのは、日の本の最高神、天照大御神様でした。


天照大御神様は、煤けた屋敷の陰惨な気配など目にもくれず、愛するイザナミ様を見るや否や、駆け寄ってその身体を強く抱擁しました。


二柱の女神は、時を忘れたかのように、互いの温もりを確かめ合いながら再会を喜び合います。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

アリアドネの切ない過去に共鳴したイザナミお姉様からの書状を受け取り、天照大御神様が「ついでなんて待てるか!」と爆速で黄泉の国へ直行。


「天照大御神様フッ軽過ぎ」、「お姉様?あっ確かにお母様じゃないよな」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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