第17話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
栄えある第一位は――伊邪那美命様!
プチプラ服屋さんのカジュアルな普段着を、持ち前の妖艶さと大人の気品で完璧に着こなした姿は、満場一致の支持を集めました。
そして、アリアドネと天照大御神様の二人は、なんと一票の狂いもなく全く同数の第二位!
瑞々しく愛らしい等身大の現世の少女のようになったアリアドネと、眩いばかりの天真爛漫な魅力を振りまいた最高神。
甲乙つけがたい美しさに、誰もが等しく票を投じた結果でした。
自分の順位が二位だと知った天照大御神様は、悔しがるかと思いきや、我がことのようにパッと顔を輝かせます。
「よしっ! 大成功じゃーーーっ!」
天照大御神様は、自分がプロデュースしたイザナミ様とアリアドネのこの素晴らしい快挙に、心からの誇らしさと喜びを爆発させました。
「これなら、絶対にパパ上は腰を抜かしてドロドロの骨抜きになるのじゃーーーっ!」
どこまでも無邪気に、そして楽しそうに声を上げて、イザナミ様やアリアドネと顔を見合わせて笑い合う天照大御神様。
プチプラ服屋さんの可愛らしい服に身を包んだアリアドネも、お姉様たちと固く手を繋ぎながら、新しい現世の服のぬくもりと、心からの幸せな笑顔をその場に咲かせていたのでした。
プチプラ服屋さんで手に入れた愛らしいカジュアルバラエティな服がすっかり馴染み、穏やかな日の光が差し込む鎌倉の街を、四人で賑やかに散策していた、まさにその最中のことでした。
突如として、鎌倉の空気が厳かに震え、天照大御神様の元へ再び通信が届きます。
そこから響いてきたのは、度重なる居留守にとうとうしびれを切らした、伊邪那岐尊のひどく苛立った声でした。
「天照! いつまで待たせるのだ! 早く参れ!」
高天原の宮殿で、腕組みをしているパパの姿が目に浮かぶようです。
しかし、怒鳴られた天照大御神様は全く動じることなく、むしろ待ってましたとばかりに、その美しい口元を不敵に歪めてほくそ笑みました。
(くっくっく……飛んで火に入るパパ上様とは、まさにこのことじゃ……)
天照大御神様は、わざとらしく弾んだ声を意識して、嬉々として応答します。
「はーい! パパ上! 明日、鶴岡八幡宮より高天原へ参りまーす!」
あっさりとそう告げて通信を遮断すると、天照大御神様は、いよいよ始まる楽しい悪戯の作戦を前に、瞳をランランと輝かせました。
しかし、その横で話をきいていたアリアドネの顔には、少しだけ怯えの色が混ざっていました。
彼女は瞳を少し伏せ、天照大御神様のドレスの袖をそっと引きながら、おずおずと尋ねます。
「あっ……あの……私も、一緒に行った方がいいのでしょうか……?」
イザナミ様が、かつて自分を裏切った男を完璧にやり込めるその快進撃は、一人の女性として、王女として、ぜひともこの目で見てみたい。
けれど、もしその「パパ上」という御方が、自分の知るあのギリシャの最高神ゼウス様のように、浮気者でありながらも恐ろしいケラウノス(雷霆)を操るような威圧的な神様だったらどうしよう……
という不安が、どうしても頭を過ってしまったのです。
そんなアリアドネの小さな肩を、天照大御神様は優しく、ポンと叩いて満面の笑みを向けました。
「大丈夫じゃ! アリアドネちゃんは妾の後ろに、しっかり隠れておれば良い!
しかと、イザナミお姉様の優雅な佇まいと、パパ上の無様な姿を見ておれば良いのじゃ!」
「そうじゃ、アリアドネちゃんや。何も恐れることはない。妾たちはただ、現世で磨いた美しさを見せに行くだけなのじゃからのう」
シックな普段着をまといながらも、どこまでも気高いイザナミ様が、アリアドネの手を優しく握りしめ、不敵な微笑みを湛えて美しく頷かれました。
お姉様のその余裕に触れ、アリアドネの胸の鼓動も、次第に恐怖から純粋なワクワク感へと変わっていきます。
「では、イザナミお姉様。明日はいよいよ、作戦通りにまいりますぞよ!」
「うむ。楽しみに赴くとしようぞ、天照よ」
楽しそうに目を合わせる二柱の女神。
そんな彼女たちの完璧な包囲網を前に、横で腕を組んでいた素戔嗚尊様は、深く、長いため息をつきながら天を仰ぎました。
「あー……親父……。健闘を祈るなんて言葉すら有り得ねえ……」
ここまで完璧に着飾ったイザナミ様と、最高神の姉貴、そして異国の王女。
この布陣の前に、鼻の下を伸ばさない男など、この現世に存在するはずがありません。
「まぁ……大昔に自分がやらかしたことのツケだ。素直に、美女たちの恐ろしい報いを受けてくれや……」
素戔嗚尊様はもはや完全に諦観し、やれやれと首を振りながら、明日の案内人としての覚悟を静かに決めるのでした。
そして翌日、鶴岡八幡宮に参った四柱の神々を応神天皇と仁徳天皇が出迎えます。
天照大神様、素戔嗚尊様、お待ち申し上げておりました。さっ、こちらにございます。
(しかし、こちらの二柱の神はどなたであろう?)
(お一方は海外からの客人のようだが…もうお一方はただ事ならぬ神気を放っておいでだ。これは…!天照大神様よりも…!?)
高天原の神殿へと続く回廊を進む中、漆黒のドレスの裾を優雅に揺らしていたイザナミ様が、ふっと足を止めました。
そして、後ろから恐る恐る付いてきていた応神天皇と仁徳天皇の二柱へと、静かに振り返ります。
イザナミ様は、周囲に満ちるご自身の強大な神気をほんの少しだけ抑えて柔らかな微笑みを浮かべられました。
「ご苦労だのう。すまぬが、これから起こることは目を瞑っていてくれぬか」
その声は、鈴の音のように清らかでありながら、世界の根源たる大母神としての重みを含んでいました。
「こ……これは、ただごとではない……っ!」
二柱の天皇は、見ず知らずの、しかし天照大御神様すらも霞むほどの威厳を放つ麗しき女神からの言葉に、心臓を直接掴まれたかのような衝撃を受けていました。
畏怖のあまり全身の肌が粟立ち、声も出せないまま、ただただ深く深く頭を下げるのが精一杯でした。
そんな二柱の天皇の様子を見て、素戔嗚尊様がやれやれと頭を掻きながら彼らの傍らへと歩み寄ります。
そして、男同士、その逞しい肩をポンと叩いて囁きました。
「まぁ……女神たちを怒らせるとどうなるか、ここでじっくり見ておくと良いぜ」
その言葉には、これから父神を襲うであろう「悲劇」に対する深い諦念と、どこか楽しげな悪戯心が混ざり合っていました。
素戔嗚尊様はそう言い残すと、イザナギパパのいる神殿の重々しい大扉の前へと進み、その大きな手をかけました。
天照大御神様は不敵にほくそ笑み、イザナミ様はどこまでも優雅に佇み、アリアドネは緊張しつつも期待に胸を躍らせて、その後に続きます。
ゴゴゴ……と音を立てて大扉が開き、一行はついに、何も知らない伊邪那岐尊の待つ、光に満ちた神殿の奥の間へと足を踏み入れていったのでした。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
プチプラ戦線、これにて終結。
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