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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第九章 ハデス様の北風と太陽

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第125話

「いや、素晴らしい! 完璧な道具を作るには、それほどの破天荒なエネルギーが必要なものだ! ますます気に入りましたぞ、素戔嗚様!」


「うう、ヘパイストス様……面目次第もない……」


イザナミ様、アリアドネも「クスクス」と楽しげに笑い声を響かせ、新居のリビングは一気に和やかな空気に包まれました。


しかし、当の素戔嗚尊様だけは、泣きそうな顔で頭を抱え、冷えたワインを一気に煽って照れ隠しをするばかりでした。


「しかし……この木組みの家は見事ですな。


床がこれほどツルツルしているなど、一体どのようにつくられたのですか。


そして、何よりこの包丁です。


魚を捌くのに非常に適した形状であり、かつこれほど研ぎ澄まされた刃先を維持するなど……


大変な技術が必要かと存じます」


素戔嗚尊様は黒歴史の照れ隠しも忘れ、先ほどからずっと気になっていた家の構造と、テーブルの上の包丁を熱心に見つめながら、職人としての純粋な興味を込めて尋ねました。


すると、ヘパイストス様はニヤリと口元を歪め、その職人の目をらんらんと輝かせました。


「くふふ……流石は素戔嗚尊様じゃ。やはり、我らと同じ『造る者』としての目が違うのう!」


最高の理解者を得た天才鍛冶神は、嬉しさを隠しきれない様子で身を乗り出しました。


「先ずは床だが、これは種明かしをすると、職人の神々を大人数動員してな、軽石を使ってこれでもかと磨き上げたのじゃ。


そして、マスティックというキオス島で獲れる木の樹脂を、表面に何度も薄く均一に塗って仕上げたのよ。


これで滑らかな木の質感を再現したのじゃ」


ヘパイストス様は誇らしげに胸を張り、続いてテーブルの上の包丁を大きな手で優しく持ち上げました。


「そして、その食用の刃物は本当に苦労した。


日の本の包丁とやらは、我がギリシャの青銅や鉄の剣とは、鍛え方も研ぎ方も全く異なっておったらしいからな。


先ずはアリアドネの故郷のクレタ島から取り寄せた質の良い石(クレタ石)を使って大まかに刃を研いだ。そこからは、ひたすら皮だよ。


動物の皮に油を馴染ませ、気が遠くなる程、何度も何度も往復させて研ぎ上げたわい」


ヘパイストス様はそこで一度言葉を切り、台所で小さく笑っているアリアドネへと優しい視線を向けました。


「実はな、わしですら途中で『もうこれ以上の硬度と鋭さは出ん、諦めよう』と匙を投げかけたくらいなのじゃ。


だが、アリアドネがどうしても研ぐのをやめないのじゃよ。


『日の本の素戔嗚尊様は、もっともっと包丁を大切に研いで、皆様のために美味しいお魚を捌いていたのですわ!』と言ってな。


ハハハ、わしがあの時、諦めずにこの刃を完成させられたのは、そなたの背中を追い続けたこの少女の執念のおかげよ」


その言葉を聞いた素戔嗚尊様は、深く、深く感銘を受けたように目を丸くし、それから隣に座るアリアドネを見つめました。


アリアドネは少し恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、ニカッと嬉しそうな笑顔を返します。


自分たちの教えた日常が、遠いギリシャの地で、職人の神の魂を動かすほどの素晴らしい結晶を生み出していた。


その事実に、素戔嗚尊様の胸には一人の職人としての熱い感動がこみ上げていました。


そんな職人同士の熱い会話が交わされる横で、イザナミ様と天照大神様は、さらに踏み込んだ「女子トーク」を展開しようとしていました。


お酒も入り、いい塩梅に温まってきた大母神が、おもむろに口を開きます。


「しかし……そなたら、今夜は新婚初夜であろうに。


妾(わらわ)達が遠慮して早々に引き上げようとしたのは、そのためなのじゃがのう……」


イザナミ様が、そう言うとディオニュソス様とアリアドネは、まるで火がついたように一瞬で顔を真っ赤に染めました。


すると、その横でワインを傾けていた天照大御神様が、アリアドネがディオニュソス様の腕に自身の腕をぎゅっと絡めているのをジッと見つめ、実にあっけらかんと言い放ちました。


「お姉様、もうそのような心配はいらぬようじゃぞ。その様子を見るに、そんな儀式はとっくに終わっておるみたいじゃ」


「むっ! そ、そっそうなのかえ?!」


イザナミ様が驚いたように身を乗り出して尋ねると、アリアドネは「ひゃあああ……っ!」と短い悲鳴のような声を上げ、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆って俯いてしまいました。


「天照様っ、何を仰いますかーーっ!」


指の隙間から覗くアリアドネちゃんの瞳は潤み、耳の裏まで真っ赤です。


ディオニュソス様も、流石にこの日の本の最高神たちの直球すぎる追及にはタジタジといった様子で、助けを求めるように素戔嗚尊様の方をチラチラと見ていました。


日の本の「お姉様方」の容赦ない、しかしどこまでも愛情に満ちた弄りに、ナクソス島の白い家は、再びかしましくも温かな笑い声に包まれていくのでした。


ナクソス島での一晩が明け、アリアドネの幸せに満ちた生活を見届けた日の本の三柱は、ついに出発の時を迎えました。


「絶対にまたいらしてください!私もまた、日ノ本へ必ず行きますから!」


別れ際、アリアドネちゃんは大粒の涙を流しながら、いつまでも手を振って見送ってくれました。


その必死な様子に、天照大神様もイザナミ様も「またすぐに会えるわよ」と笑顔で応じました。


しかし、まさかこれが永遠とも感じられるほどの長い別れの始まりになるとは、この時の誰もが想像だにしていませんでした。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

職人同士の熱い技術トークから一転、新婚の初夜事情をアマテラス様に即看破されて悶絶するアリアドネちゃん。温かい別れとは裏腹に「長い別れの始まり」という不穏すぎる予告です。


「初夜の進捗即看破はセクハラですよアマテラス様」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。


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