第124話
「どうですか、お姉様、天照様、素戔嗚尊様! ヘパイストス様に無理を言って、あの楽しかった日の本の思い出を、このお家に全部詰め込んでもらったんですわ!」
アリアドネは胸を張り、ニカッと満面の笑顔を輝かせました。
その様子を横で見つめていたディオニュソス様も微笑みながら、「彼女が日の本でどれほど救われ、あなた方を愛しているか、この家が何よりの証拠でしょう?」と言わんばかりに静かに頷いています。
イザナミ様は、素足に伝わる木の床の心地よい温もりを確かめるように一歩を踏み出し、愛おしそうに周囲を見回しながら、そっと目元を潤ませていました。
アリアドネとディオニュソス様が、木のテーブルへと、二人が作り上げた心尽くしの手料理が次々と運ばれてきました。
「皆様、どうぞ召し上がってくださいな!」
テーブルの上に並べられたのは、ギリシャの豊かな海の恵みを、素戔嗚尊様に教えてもらったやり方で調理した見事なご馳走の数々でした。
絶妙な塩加減で旨味を凝縮させた小魚の天日干し。
地中海で獲れた新鮮なタコを、驚くほど繊細な手つきで、ヘパイストス様お手製の包丁を入れ、美しく皿に広げたタコの薄造り。
そして、丁寧に骨を抜いて美しく盛り付けられた、獲れたての鯵や鯛の瑞々しいお刺身。
「ほうっ……! これは見事な包丁捌きじゃのう!」
天照大神様が目を輝かせ、イザナミ様も「ほんに、日の本の味がここに見事に咲いておるわ」と感心したように声を漏らしました。
その色とりどりの料理の脇には、先ほど神々たちの心を融かした、あのディオニュソス様の優しさと誠意が詰まった至高のワインが静かに添えられています。
日の本とギリシャの美味が完璧な調和を見せ、素戔嗚尊様が「どれ、早速いただこうじゃねえか」とお箸を持とうとした、まさにその時でした。
トントン、と玄関の扉を小気味よくノックする音が、静かな新居の中に響き渡りました。
「あっ! きっとヘパイストス様ですわ!」
アリアドネが嬉しそうに声を弾ませ、パタパタと玄関へと駆け出していきました。
扉の向こうにいたのは、先ほどまで大理石の城の現場を仕切っていた、鍛冶の神ヘパイストス様でした。
職人の神である彼は、アリアドネやディオニュソス様、そしてアテナイのテセウスから、耳にタコができるほど聞かされていた「日の本の恐るべき技術と、素晴らしい神々」の噂を、どうしてもこの目で直接確かめたくて、仕事の合間を縫って新居へと遊びにやってきたのです。
「やあ、アリアドネ。……おお、中にいらっしゃるのが、あの東の果てから来られたという偉大なる職人……いや、神々か!」
大柄で武骨な体躯に、職人特有の煤を少しだけまとったヘパイストス様は、木の床を踏みしめてリビングへと入ってくると、興味津々といった風にその目を爛々と輝かせ、日の本の三柱の神々を真っ直ぐに見つめました。
「先ほどはご挨拶もそこそこで失礼いたしました。改めまして、素戔嗚でございます」
素戔嗚尊様はスッと席を立ち、武骨な職人の神へ向けて、どこまでも丁重で深い一礼を捧げました。
実は、素戔嗚尊様はヘパイストス様のことを以前からよく知っていたのです。
日の本において鉄の文化や鍛冶にも深い縁を持つ武神として、ギリシャ神話が誇る天才的な鍛冶の神、その神業のような職人としての彼を、深く尊敬していたのでした。
「おおっ……! お噂はかねがね、アリアドネを守ってくださったばかりではなく、ディオニュソスの心を救い、テセウスが兄と慕う高潔なお方と存じております」
ヘパイストス様は武骨な両手を胸の前に当て、日の本の闘神の謙虚な佇まいに深く感銘を受けたように目を輝かせました。
「そんな、恐れ多い。私など、馬鹿力しかない粗野な神です。
貴方のように、かつて数々の至高の武具を作り上げてヘラクレス様を助け、世界に平和を導くなど……
偉大な鍛冶の神の御技には、私など及びもしません」
素戔嗚尊様が恐縮しながら、心からの敬意を伝えていると、その横でワイングラスを傾けていた天照大御神様が悪戯っぽい笑顔を浮かべました。
「そうじゃのう。そなたはな、昔、妾の神聖な御殿(高天原)に『うんこ』をするような粗忽者じゃからのう!」
「あ、姉貴ーーーーっっ!!! 頼むからもうやめてくれよ、その話はぁーーーーっっ!!!」
まさかの初対面の異国の神を前に、大昔の、そして神話史上最大の黒歴史を唐突に大暴露され、素戔嗚尊様は顔を覆って絶叫しました。
「ぶっ……! ははは、なんと! あのテセウスが畏れおののいた闘神様が、そのような豪快な逸話をお持ちとは!」
ヘパイストス様は一瞬呆気にとられたものの、すぐに大笑い声をあげ、一気に親近感を抱いたように身を乗り出しました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
新居で手料理を囲む中、敬愛する鍛冶神ヘパイストス様と謙虚に対面したスサノオ様でしたが、アマテラス様に「うんこ御殿」の黒歴史を初対面で大暴露されて絶叫しております。
「またしてもうんこエピソードを暴露される闘神、もう一生…永遠にいじられるな」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




