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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第九章 ハデス様の北風と太陽

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第123話

「ふむ。そういうわけじゃ。ハデス様、ペルセポネ様、今しばらくお待ちいただいてもよろしいか?」


天照大神様が後ろで待っていた冥界の主夫妻へと振り返り、丁寧に断りを入れました。


アリアドネの式が終わったらハデス様の心をさらにポカポカにするという約束がありましたが、少しだけ予定を変更することになります。


「ああ、構わない。楽しみに待つとしよう」


ハデス様は、少しも不快な色を見せることなく、静かに、重厚な声音で頷かれました。


目の前でこれ以上ないほど幸せそうに笑い合っているアリアドネとディオニュソス様の姿。


そして、傷ついた少女をここまで立ち直らせ、二人に全幅の信頼を置かれている日の本の神々の底知れぬ愛に対し、ハデス様は深い敬意を示してくださっていたのです。


「叔父上、すみません。アリアドネがどうしてもと……」


新郎であるディオニュソス様が、少し照れくさそうに頭を掻きながら、ハデス様の前へと進み出て頭を下げました。


「ふふっ、良いから愛する妻の言うことを聞いてやれ」


ハデス様は、めずらしく口元に優しい笑みを浮かべ、かつて七里ヶ浜の海岸で素戔嗚尊様がディオニュソス様にそうしたように、ポンと大きく無骨な手でディオニュソス様の肩を叩きました。


「それでは、私達は一足先に失礼するよ。イザナミ様、天照大神様、素戔嗚尊様、また後ほど」


ペルセポネ様も瑞々しい笑顔で日の本の神々に手を振り、ハデス様の腕にそっと手を添えました。


二柱の冥界の主は、互いに少しだけ距離を縮めたような、昨日よりもずっと温かな雰囲気を纏いながら、静かに冥府へと帰っていかれました。


ディオニュソス様の案内の元、彼らの新居にお邪魔することになった一行が辿り着いたのは、一面に碧い海が広がるナクソス島でした。


そこはかつて、アリアドネがテセウスに夜陰に乗じて置き去りにされ、深い絶望の涙を流した、まさにその無人島です。


しかし、現在の島にその寂しげな面影は一切ありませんでした。


島の中央には、ゼウス様が日の本でヘラ様に約束させられ、こっぴどく詰め寄られて作ることになった「お詫びの城」が絶賛建造中だったのです。


また、城を建築する職人たち、職人たちのまかないを作る料理人たち、そしてその家族が集まり、ナクソス島は徐々に賑やかな島に変わりつつあります。


「おお、これは見事な槌の音じゃのう!」


天照大神様が驚きの声をあげました。


広大な敷地では、鍛冶の神ヘパイストス様自らの指揮の元、職人の神々たちが日夜、汗を流して巨大な大理石の柱を切り出し、見事な城を築き上げていました。


先ほどまでオリュンポスの婚礼に参列していたはずのヘパイストス様は、式が終わるや否や、職人としての魂がウズウズしていたのか、すでにこのナクソス島へトンボ返りで戻って現場を仕切っているという、凄まじい手際です。


そして何より、驚くべきことに、そのヘパイストス様はこれまで、ヘラ様とアリアドネの細かな指示の元、城の本体よりも先に「二人の新居となる家」を完成させていたのです。


「皆様! こちらですわ! 早く早く!」


かつてこの島で一人、絶望に暮れていた過去のことなど、もう完全に記憶の彼方に吹き飛んで何も覚えていないといった風情です。


アリアドネは純白のキトンの裾を軽快に揺らし、両手をぶんぶんと大きく振りながら一行を先導していました。


その満面の笑顔とハツラツとした後ろ姿を見つめながら、イザナミ様は「ふふ、本当に良い顔をするようになったのう」と、深い大母神の愛をその瞳に宿して静かに微笑んでいました。


アリアドネに元気よく先導され、島の小高くなっている道を登りきると、日の本の三柱の神々の視界が急に開けました。


「おおっ……!」


天照大神様、イザナミ様、そして素戔嗚尊様が、一斉に声を上げてその場に目を丸くしました。


碧く澄み渡る地中海を背にして、そこにぽつんと佇んでいたのは、あの湘南の七里ヶ浜を彷彿とさせるような、瑞々しくも真っ白な家だったのです。


アリアドネは「ふふん!」と嬉しそうに胸を張り、夕日を浴びながら、その白い家の玄関へと一行を案内します。


「じゃじゃーん! さあ皆様、どうぞお入りください!」


アリアドネの元気な声と共に玄関の扉が開かれると、日の本の三柱の神々は「おおっ……!」とさらに声を上げ、驚きに目を丸くしました。


一歩中へ足を踏み入れると、そこだけは七里ヶ浜の別荘と同じような、温かみのある木の板張りの床。


アリアドネが嬉しそうにパタパタと駆け寄り、はめ込まれた木の窓を大きく開け放つと、そこからはナクソス島の美しい海が一望できる、素晴らしい特等席の作りになっていました。


もちろん現代日本のようなガラス窓はありません。


しかしガラスがない代わりに、風が心地よく通り抜ける精巧な木組みの窓枠や、光を柔らかく取り入れる間取りの工夫。


アリアドネとヘパイストス様が頭を突き合わせ、何度も図面を引き直しながら「あの七里ヶ浜のお家」を一生懸命に再現しようとしたその健気な気持ちが、家の隅々からこれでもかと伝わってくる、本当に温かい作りをしていたのです。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

かつて置き去りにされたナクソス島を舞台に、ヘパイストス様の手で再現された「白い新居」を大はしゃぎでお披露目するアリアドネちゃん。かつての絶望を完全に吹き飛ばした健気な姿に、日本の神々も胸を打たれます。


「置き去りにされたトラウマの島、置き去りにした張本人のテセウスは立ち入れないだろうな」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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